17 指示出しサラリーマン
テルたちが魔法部隊に近ずくと、兄弟の余市が気づき近づいてきた。
「お疲れ様です、タコス様、テル様。待っていました」
「思ったより早くついていたな。一二三から何か聞いているか?」
挨拶もそこそこにテルは現状の確認を行う。
タコス軍の魔法部隊は800人程度。そのため今度の作戦には一糸乱れぬ行動が重要視されるからだ。
余市は予想していたように答える。
「いいえ。一二三からはテル様の指示を聞くように、と言われています」
「わかった。じゃあ、これから作戦を説明しよう。主だったメンバーを集めてくれないか」
「はい」
短く答えると余市は泳いでいく。おそらく各小隊長に収集をかけるのだろう。余市と入れ違いに何人かの部下がこちらに来る。
「タコス様。お疲れ様です。休憩のご用意ができていますが」
「そうだな。テル。あとはお前に任せてもいいのか?」
「はい、大丈夫です。作戦の説明だけでまだ、作戦自体は始まりませんので」
「わかった。先に休ませてもらおう」
タコスは離れる。思ったより長い旅になった。タコスも知らない間に疲れがたまっているのだろう。それはテルも同じだが、流石に大将とサラリーマンでは扱いが違うのはテルも承知している。
また、奈美にも作戦説明には参加してもらう予定だった。
先に生まれたものとして弱音は吐けないだろうと思った。
テルが少しひらけた空き地に来るとすでに小隊長以上の者たちが集まっていた。
最後に余市がきたところでテルは説明を始める。
「まず、今回の作戦での肝はお前たち魔法部隊が握っていると言っても過言ではない。
そう思って聞くように。といっても簡単な命令で間違えようのない作戦だ」
テルは前に置いてある粘土板にざっくりと地図を書いていく。
大悪魔の口、テルたち、味方の軍勢、敵の軍勢、ポリフェル城と続く。
「我々の作戦は待ち伏せだ。味方が逃げて来るから、この時に魔法を一斉に打つ」
「それだけで敵を壊滅できるとは思いませんが」
余市が代表して質問する。テルは大きく頷いて答える。
「そうだ。だから、この時の魔法攻撃は当てない。部隊を400と400に分け、それぞれ敵の左右を狙って『外して』撃つんだ」
「なぜか聞いてもいいですか?」
元々魔法というものはそんなに連発して撃つものではない。遠距離であるがゆえに攻撃回数に制限があるのだ。古来より、弓にしても、鉄砲にしても、そして魔法にしても。
その攻撃手段の数を減らして当てないことが目的とはどういうことだろうかと疑問に思うのは当たり前であった。
「ここの水温は諸君らも知っている通り冷たい。その冷たい水で敵を包み込む。敵は魔法をこちらに直撃するように撃つだろう。そうなると、どうなると思う?」
「さあ?」
「水の温度が早く混ざる」
粘土板に書いてテルは説明する。
冷たい水が矢印となって敵を包む。その水が真ん中に集められテルたちの方に向けられる絵が書いてあった。こうして流れが循環することで水の温度が混ぜられるのである。
「我々は低い水温に慣れていて、暑い水温で苦しい目にあわされた。
今度は敵が低い水温に苦しむ番だ。前回の我々と同じように戦いどころではなくなるだろう」
「なるほど」
わかる話である。さらにテルは確証は得ていないが状況証拠は揃えていた。大悪魔の口に近づく魚は体調を崩すという話である。しかし、テルたちは体調を崩していない。おそらくカララトの魚たちは低い水温で体調を崩すのだろう。
これでテル達の勝ちがぐっと近づく。
「余市たちには編成をわけるのをお願いしたい」
「了解しました」
余市たち魔法部隊は部下たちに作戦を説明するために散っていった。残ったのはテルと奈美である。テルは虚空に向けて訊いた
「苦内、いるか?」
「こちらに」
影のようにスッと現れる苦内。テルは命令を伝える。
「一二三たちを見ていて味方がこちらにきたら連絡を頼む」
「はい」
「ああ、それと…」
そのまま消えようとする苦内を手で止めて伝える。
「急いでくれて助かった。礼を言う」
「いえ、当然のことです」
言葉だけを見ればぶっきらぼうな返答だったが、苦内の言葉には柔らかさがあった。
テルは喜んでもらえたのだろうと勝手に思うことにした。
苦内が消えるとテルは菜美にも伝える。
「味方がこちらに来ると言うことは負けて逃げていると言うことだ。作戦上負けているといえど被害は出ている。魔法部隊が攻撃に出た時に援護をしてやってくれ」
「はいっ」
こちらは元気な返事が帰ってきてテントの方へ歩いていった。休むのだろう。
テルも同じように割り当てられたテントへ戻る途中、ふと思った。
(なんで一介のサラリーマンが指揮をとっているんだ?)
今更ではあったが、テルには意味がわからなかった。
まあ、今回作戦の骨子を作ったのはテルである。他のものに伝える役目はテルの役目であり、偉そうに指示できる権限があるのは非常にありがたかったのだが。
どこか腑に落ちないテルであった。




