ローレライの想い~君のために出来ること~
「うん、君は本当に綺麗だよ」
少し気恥ずかしいけど僕は本当にそう思ったんだ。夕闇に照らし出された彼女は息を飲むぐらい綺麗だったから。
だから思わず言ってしまったんだ。
正直、言った後に恥ずかしくなって僕は彼女を直視できなくて思わず視線を逸らしちゃった。
それに彼女も俯いてしまってる。
どうすればいいんだろう。
逢いたいと思ってたのに何を話せばいいのか分からなくなって…彼女も俯いてるし僕は今の現状に戸惑っていたんだ。
何を話そう、何を聞こう、僕は彼女の何を知りたいんだろう……そうじゃない。僕が彼女に求めていることは決まってる。
「ねぇ……」
俯く彼女に僕は勇気を出して声をかける。
「………」
彼女が僕の声に無言で顔を上げた。
夕闇のせいだと思う。
彼女の顔が赤く染まっているように見えた。
頬には微かに涙の痕が見えて……何だか心を締め付けられるみたいに苦しい。
なんでだろう…僕はその涙の痕に狂おしいほどの愛おしさを感じて救いたいと思ったんだ。
だけど、僕に出来る事なんて知れてる。
どうすれば…救ってあげられるんだろう。
彼女を見つめながら考えていた僕にふいに君が僕のそばに寄ってきた。
「…えっ?なんで?」
見慣れた君の姿を目の当たりにして僕の思考は一気に停止してしまう。
何で君が彼女と?
偶然?でも、出来すぎてる…。
君は無言で僕に問いかけるようにジイッと見つめている。何か伝えたがってるような瞳が僕を見据えてる。
引き込まれそうな瞳に僕は何かを感じた。
それが何なのか分からないけど、僕の意識にはあの時の彼女の言葉が過ぎったんだ。
〔私を探して…私が忘れてしまった感情を、気持ちをーーお願い〕
どうして思い出したんだろう?
でも……僕は俯く彼女に近づいていく。
助けたいんだ。
彼女との約束を守りたい。
もし、あの時間が夢でないなら僕はこの子のために出来ることをしたい。
だからーー。
「…お願いがあるんだ」
驚かせないようにゆっくりと優しく声をかける。
「お願い…?」
微かに潤んだ瞳が僕を不安げに見つめていた。
「うん、君を描かせてくれないかな?」
「…私を?どうして?」
僕を見つめる瞳に不安と困惑が混ざり合って、口調も微かにだけど震えてる。
「君をもっと知りたいからじゃ駄目かな?」
その言葉に僕から視線を逸らした。
「でも、きっと…不幸にしちゃう」
哀しげにか細く呟く姿に何故だか分からないけど僕は綺麗だと思ってしまったんだ。
「どうして、不幸になるの?僕は今、君に出逢うことが出来てこんなに幸せなのに」
正直な気持ちを口にする。
それが彼女に対する本心だから。
嘘をつきたくない。
困らせたくない。
彼女の笑顔が見たいからーー。
だから僕は彼女を見つめ続けた。
急がせる気なんてない。彼女が嫌だと言えばそれまでだけど、それでも彼女の口から聞きたい。
「………でいいの?」
彼女が小さく呟いた。
「ごめん。もう一度、言ってくれる」
僕の言葉に彼女はおずおずと僕を見上げながら小さな声で僕が聞き逃した言葉を言ってくれた。
「本当に私なんかでいいの?」
今度は聞き逃さなかった。
だって僕が求めていた、そう彼女から聞きたかった言葉だったんだから。
「もちろんだよ。ありがとう」
あまりのうれしさに思わず彼女を抱きしめた。
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと!?」
困惑する彼女の声が耳元で聞こえてーー。
僕は自分の行動に今さらながらに気付いて
「ごっ、ごめん……」
慌てて彼女から離れたんだ。
僕ってこんなに積極的だったかな…。
たぶん、あまりに嬉しすぎて我を失っていたんだ…うん、きっとそうだ。
恥ずかしくなって慌てて離れたのはいいんだけど……うーん、どうしよう。物凄く気まずい。
だって彼女も耳まで真っ赤になってるし。
たぶん、僕も同じぐらい真っ赤だと思う。
しばらく沈黙が続いて…。
お互いに顔を合わせづらくて視線を逸らしながらも互いをチラチラと見て目が合った瞬間、また逸らしてを繰り返したんだ。
「ふにゃあ~」
ふいに少し眠たげな君が鳴き声を上げた。
僕と彼女の間で退屈そうに寝そべっていた君が僕らの姿に鬱陶しそうに鳴いたんだ。
僕にはまるで君が、いい加減にしろって言ってる気がしてーー気が付くと彼女も不思議そうに君を見つめてて……。
僕らは自然と目があったんだ。
同じタイミングだったから互いに一瞬だけキョトンとしたけど、何だかそれが妙に可笑しくて二人して笑みが溢れたんだ。
「あははっ」
「ふふふっ」
なんだろう、さっきまでの沈黙が嘘のように場の空気が一気に和んでいくのが分かる。
「なんだか、おもしろいね」
君を間において僕と彼女に笑顔が浮かぶ。
「本当に不思議な子ね」
彼女がそっと君を撫でながら愛おしいそうに見つめるその瞳に僕はーーー彼女に恋をした。
それから彼女と色々と話をしたんだ。
本当に他愛もない話ばかりだったけどね。
夕闇に移り変わるこの景色が綺麗だとか、画材店でのお姉さんとバッタリあった話とか、なかでも彼女が一番驚いていたのは自分の唄がBGMに使われていることらしくてーーー。
「…えっ、本当に?」
大きく瞳を見開きながら驚いていたんだ。
「うん、ぴったりだと思ったんだけど…ごめん、なかなか出逢うことが出来なかったから許可も取らずに勝手に使っちゃって…嫌だった?」
不安になった僕は驚いた表情を浮かべる彼女に聞いてみる。嫌だって言われたらどうしようとか頭の中ではそんな想像しか浮かばなくて僕はハラハラしながら彼女を見つめたんだ。
でもーーー。
「嫌じゃない!」
グイって身を乗り出すと顔を間近まで近づけて真剣な瞳で僕に叫んだ。
「だって、私の…今の私の唄を色んな人が聞いてくれてるんでしょ?」
さらに詰め寄ってくる。
「…うん、そうだね」
身体を反らしながら頷く僕。
何だかすごい姿勢な気がする。
でも、逸らさないと……ねぇ。
「この感情が何なのか分からないけど…たぶん、嬉しいんだと思うの。だからーーありがとう」
その言葉と共に彼女が俯いた。
身体が微かに震えてる。
髪に隠れて顔は見えないけれど…泣いてる。
それがなんの涙なのか分からないけど僕は何だかホッとしたんだ。だって、恋い焦がれた彼女がいま目の前に間違いなく存在するって実感できたから。
だから僕は震えながら俯く彼女の肩にそっと手を触れて、そして優しく抱きしめたんだ。
「……っ!?」
彼女を抱きしめた瞬間、ビクリと身体を震わせたけど戸惑いながらも僕の胸に額をそっと当てて僕に身体を預けてくれた。
「ちゃんと描いてね……」
彼女の囁くよう声が聞こえる。
「うん」
「本当に?」
「うん、約束する」
その言葉に彼女は唇を噛み締めた。
なぜだろう……。
「…約束はしないで」
声が震えていた。
「どうして?」
彼女の気持ちが分からない。
手を伸ばすと離れて行くみたいに…。
「だって約束が叶ったら終わりだから…」
その声は少し哀しげな口調に感じた。
「なら、また違う約束をすればいいよ」
彼女を悲しませたくない。
だから何度でも約束し続ければいい。
望むなら何度でも約束する。
「でも、私がいなくなったら?」
彼女が躊躇いがちに呟いた。
そんなこと、考えたくもない。
僕はさらに強く彼女を抱き寄せてーー。
「離さない…離したくない。絶対に離さない」
そう断言したんだ。
「……ありがとう」
彼女の震えが止まって僕に身を預けるように寄り掛かりながら小さく、本当に小さな声で呟いた。
普段なら聞き返すかもしれない。
でも、僕にははっきりと聞こえたんだ。
「こちらこそ、僕と出会ってくれてありがとう」
彼女が顔を上げて僕を見つめる。
潤んだ瞳がとても綺麗で。
もっと見ていたかったけどーー。
彼女はゆっくりとその瞳を閉じたんだ。
そんな彼女の姿が愛おしくて僕は夕闇に照らされた彼女を見つめながらそっとキスをした。
短いようで長いキスーー。
甘酸っぱくて照れくさくてお互いに耳まで真っ赤だけど、僕も彼女も嬉しくて愛おしくて同じ気持ちを共有できてる気がして、僕は彼女を抱きしめ続けたんだ。




