九話 遠矢 駐屯地の状況を知る
国道171号線を走りつつ中古車販売店を車から見つつ、途中のホームセンターに寄って食い物や飲料、武器になる物などを仕入れつつ京都方面に向かう。
右手側に名神高速道路を見つつノンビリと車を走らしている。
自衛隊の活動確認は一気に気楽になった。
先程の続きの鼻歌が出そうになるが、気を引き締めないとな。
伯父とゲームをしていて仕込まれた事を思い出す。
車のレースゲームをしていた時、惜しいところで負け続きだったのにアッサリ勝った時があった。
続けて何度か圧勝したのに気を良くした俺は調子に乗った。
伯父の罠だと知らずに…
結果、夜通し負け続け、明け方には惜しいところまでも迫れなくなり完全に勝てなくなった。
コントローラーを持ったまま横になり寝落ちしかける直前に含み笑いが聞こえ、伯父が囁くように言った。
「くくくっ…人は同程度のレベルなら気を張り何とかしようと考え続ける。だが圧倒的に勝利するとその記憶が鮮明に残り、それを気軽に追い求める。つまり勝つ努力を怠りがちになる。一つ賢くなったな。」
徹夜の疲れも見せずに風呂に行った伯父の背中を見つつ俺はそのまま眠りについた。
数時間後に起きた後、伯父に諺を教わった。
勝って兜の緒を締めよ
諺自体は知っていたが自らの身で味わった記憶は鮮烈に残った。
今の状況とは違うが、気を抜ける状態ではないのを思い出し気持ちを切り替える。
しかし伯父ちゃん…たかがゲームで中坊になったばかりの子供相手に精神トラップ仕掛けて徹底的に潰すのはどうかと思う…今の状況になって俺は、何度目かの良く歪まなくて育ったなぁ…と思った。
順調に桂川PA付近まで来た。
ここまで来る途中でゾンビが集っているところが数か所あったが、どこも何とか撃退をしていた。
だが、俺の目から見ても長く持たないと思える場所があった。
周囲を数百体に囲まれていた頑丈そうな建物。
出入口を守り切れるなら、いつまでも立て籠もれそうだったが、食料や飲料が無くなれば終わりだろう。
三階建ての鉄筋コンクリート造の建屋だったが、周囲十メートル範囲に建物がない。
地下に通路が無い限り詰んでいる。
助けるか。との心の動きを制してそのまま通り過ぎた。
自分の状況を把握し出来る事と出来ない事を第三者目線で客観的に思考せよ。
映画や漫画の主人公になれると思うな。
伯父が口煩く何度も言っていた言葉が浮かんでくる。
確かに…頭に浮かんだ言葉に俺は頷く。
今俺が、生きて活動出来ているのも伯父のマニュアルや教えがあったからだ。
それでも尚、危うい橋を渡り続けている。
ここまで来た目的の一つと生きて帰るとの約束を胸に刻み、俺は目的の一つ川田さんの家に向かった。
桂川PAの西から桂川の中間地点に川田さんの家があるらしい。
桂川PAの西は小規模な田園地帯があり見通しが良いので安全に車を進める。
田園が途切れ住宅街との境目に川田さんの家はあった。
川田流古流柔術道場
立派な門にそんな看板があった。
………教えとけよ!
俺はちと憤りを覚えたが、立派な門が破られ死体がゴロゴロしている中庭を見て気持ちを落ち着ける。
取り敢えず何枚かスマホで写メりアーチェリーを構え門から中に入る。
ザっと見て数十体の死体がある。
殆どに矢が刺さっているが、首や手足が切られている死体や道着の様な服装した者の噛み切られている死体もある。
所々写メを撮りつつ、出来るだけ死体を避けつつ左奥に見える道場らしき建物に向かう。
破壊された玄関から中を見ると、中にある死体は中庭の数を上回り折り重なっている。
奥に蹲って動いている数体のゾンビ。
中庭より凄まじい死臭が立ち込めている道場の中に入り、死体が少ない壁際を歩き近付いて動いていた奴等を始末する。
アーチェリーの矢を回収ついでに何をしていたのか確認すると老人と老女の死体を喰っていたようだ。
多分、川田さんの祖父母だろう。側に刀と薙刀、和弓が落ちていた。
一応、写メに撮り、刀、薙刀、和弓を回収して遺品として持ち帰る事にする。
道場から出て家の方も探索するがこちらには川田さんの父母らしき死体は無かった。
リビングにあった家族写真も回収して撤収する。
中庭の死体から和弓の矢を二十本ばかり回収しながら出て行く。
車に乗り少し考えて来た道を戻る事にする。
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国道171号線まで戻り、そのまま少し北上して中久世の信号を左に曲がり、府道207号線を走り東海道本線の真上にある立体交差の道路に車を停め、回りを確認する。
ここから少し桂駐屯地が見える。
直線距離で600メートルあるか無いかぐらいか。
ここで車を降り歩いて桂駐屯地を見に行く事にする。
刀と和弓は車のトランクに入れて隠しておく。
東海道本線に平行してある二車線道路を疲れない速度で歩いて行く。
駐屯地の南側にかなり大きなショッピングモールがある。
規模で云えば桂駐屯地に匹敵する。
そこに入り屋上駐車場から駐屯地の状況をみるつもりだ。
ショッピングモールに近付くにつれ、遠くからの呻き声が聞こえ出した。
地から響いて聞こえてくる様な声に足が竦む。
しかしその声の合間に乾いた音も聞こえてくるので意を決して進む。
学校らしき校庭に小学生らしきゾンビが少数ウロウロしているのを見てやるせない気持ちになった。
校舎らしき建物を横目に歩きながら壁をみると、
【○○高等学校附属小学校】
と、書いてあった。
すくえねぇ…
俺は校庭の方を一度振り向き、速足でその場から立ち去った。
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道路を挟んで小学校前にある、ショッピングモールの立体駐車場の入り口から屋上まで出る。
途中の階の見える範囲で数体がいたが、無視して素早く通り過ぎた。
流石巨大ショッピングモール、屋上だけで500台程停めれる駐車場があり、パッと見た目では三割ほど車が停まっている。
音を立てず、見通しが良い所を通り駐屯地が見渡せる場所に移動しつつ、所々にゾンビがいるのを全て射ていく。
広い分、多数いるがアーチェリーで危なげなく始末できるのでゆっくり慎重に矢を回収しながら進む。
ショッピングモールの駐車場のゾンビを一掃して(と、言っても25体ほどだが)安全を確保し、府道201号線が見える位置に来た。
そ~と下を見ると府道には数えきれないほどのゾンビが集まっていた。
このショッピングモールと前方の駐屯地の両方に攻め寄せている様な感じだ。
タタタタタタッ…タタタタタタッ…
音が左側の駐屯地出入口から聞えて来た。
暫く聞いていると重い音も交じり出した。
ドドドドドドドドドッ
「この音は重機関銃かな?もう少し近くで見てみるか。」
今いるショッピングモール屋上は府道を挟んだスポーツジムの屋上にも繋がっている。
立体交差の上から、素早くスポーツジムの屋上に移動して駐屯地内部を観察する。
南側出入口は完全封鎖していてバリケードを築いていて、先程からの音はそこからの銃撃音だ。
偶に爆発音も聞こえ出した。
何故態々音を立てて呼び寄せるんだ?
その疑問はすぐに解消された。
西側の出入り口付近に装甲車や大型トラックが並び出した。
「あれは戦車じゃないのか?」
(後に調べたら89式装甲戦闘車だった。)
戦車を全面に立ててゾンビを蹴散らしながら装甲車らしき車輌三台と大型トラック三台の七台が駐屯地からでて、北に向かって走りつつ、駐屯地から少し北に行くと右に曲がり東方面に走り去った。
しかし直ぐに戦車は戻って来た。
そのまま西側出入口に入らず府道201号線に集っているゾンビを駆除しだした。
「やばい!」
俺は思わず叫びショッピングモールの屋上に向かって走り出す。
立体交差にも銃撃が当たり崩壊する危険に気付き必死に走る。
銃撃が何度か立体交差に当たり揺れている中、四つん這いで走り抜けた。
「はっ…はっ…はあっ…」
ショッピングモールの屋上で蹲り息を整えていると南方面の空からバラバラバラと音が聞えてくる。
暫く空を見ていると前後に羽根がある大型ヘリが飛んで来て、そのまま桂駐屯地の広場に下りて行った。
俺は少しこの状況を考え嫌な予想に思い至った。
「まさかここの放棄を決定したのか?」
いやいや、唯の物資の補給かも。
少し考え今日はこの屋上に泊まる事にする。
屋上駐車場とはいえ、ゾンビが上がって来れない太陽光パネル設置の建屋の上に落ち着く。
カバンの中に丈夫なロープを確認したので、最悪屋上にゾンビが溢れてもロープで逃げ出せる場所で。
駐屯地側でなくゾンビが少ない南側だから、地上までロープで降りても楽に逃げ出せる。
伯父に自分の体重+30キロぐらいの荷物を持ってロープで上がり降りは出来る様に鍛えていろ。
と、言われていたのが役に立ちそうだ。
俺は、チャットアプリを起動して桂駐屯地の状況を伝え帰る予定は最長四日後と書き込む。
電池節約の為、朝昼夜の数分しか電源を点けないとの言葉を添えて。
さて杞憂に終われば良いが。
俺は雨風が当たらない様に寝床を作って軽い食事して休憩をする。
日暮れまでもう少しあるからこのショッピングモール内を探索できると良いなと思いながら。
いつも遅い更新ですみません。
理由は私が追っている作者様達の更新が早いせいですw
人数+作品数もあり、ランス10の攻略、DMMゲームのデイリー消化並び仕事の忙しさです。
<(_ _)>
この作品の次の予定は未定で。裏はこの作品と同時更新しています。




