第7話 最強スキルで家づくり! 小さな村の大改造
異世界生活、四日目。
俺、神崎蓮は、村の中央で腕を組んでいた。
「……やっぱり、寂しいな」
目の前に広がっているのは、黒く焦げた家の残骸。
もともと三軒あった家のうち、二軒が焼け落ちたままだ。
原因は、リシアの魔法の暴発。
俺たちが暮らしている二階建ての家だけは無事だったものの、村の景色はすっかり変わってしまった。
昨日は森で食料を集め、小さな畑を作り、飲み水を確保する仕組みも整えた。
生活の見通しは少しずつ立ってきた。
だから今日は、次の一歩だ。
「……よし。建て直すか」
そう呟いたところで、背後から元気な声が聞こえた。
「レンさーん!」
振り返ると、リシアが家から出てきた。
長い銀髪を揺らしながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
「朝ご飯、できましたよ!」
「助かる。ちょうど腹が減ってたところだ」
「えへへ! 今日は木の実のスープです!」
俺はリシアと一緒に家へ戻った。
◇
食卓に並んでいたのは、木の実を煮込んだスープと、香草で焼いた魚。
昨日集めた食材を、リシアが工夫して料理してくれたらしい。
「……うまいな」
「本当ですか!?」
「ああ。これなら毎日食べても飽きなさそうだ」
「やったー!」
リシアは嬉しそうに笑った。
……この子、本当に料理が上手いな。
食事を終えたところで、俺は今日の予定を伝えた。
「リシア。今日は焼けた家を建て直そうと思う」
「……えっ?」
リシアの手が止まった。
「二軒とも、ですか?」
「ああ。できるところまでやってみる」
「……本当ですか!?」
「もちろん」
リシアはぱっと表情を明るくした。
「ありがとうございます、レンさん!」
「まだ完成したわけじゃないぞ」
「それでも嬉しいです!」
そう言って笑う彼女を見て、俺も自然と笑顔になった。
◇
まずは、焼けた家の跡を片付けるところからだ。
「……これは使えないな」
俺は黒く焦げた柱を持ち上げ、端へ運んだ。
表面だけが焦げている木材なら再利用できるかもしれない。
だが、内部まで炭化しているものは強度が足りない。
無理に使って、あとから家が崩れたら笑えないからな。
「レンさん! この板はどうしますか?」
「ちょっと見せてくれ」
俺はリシアから板を受け取り、状態を確かめた。
「……うん。こっちは使えそうだ」
「よかったです!」
使える材料と使えない材料を分けていく。
途中で、石の土台も確認した。
ひびが入った部分は取り除く必要があるが、大部分は再利用できそうだ。
「……思ったより残ってるな」
「本当ですか?」
「ああ。これなら少しは材料を節約できる」
リシアがほっとしたように胸をなで下ろした。
……とはいえ、二軒を建て直すにはまだ足りない。
「リシア、この辺りに使えそうな倒木ってあるか?」
「ありますよ!」
即答だった。
「少し森に入ったところに、風で倒れた木が集まっている場所があるんです!」
「おお、助かる」
「私、案内しますね!」
「……迷わないよな?」
「だ、大丈夫です! 川沿いに進めば着きます!」
……ちょっと不安だけど、今回は信じよう。
◇
森に入ると、リシアは真剣な表情で周囲の木々を調べ始めた。
「この木は硬くて丈夫なんですけど、乾くと割れやすいんです」
「へえ」
「こっちは加工しやすいので、壁板に向いてます!」
「なるほど」
リシアは木材の特徴にも詳しいらしい。
さすが、ずっと森で暮らしていただけのことはある。
俺は倒木を調べながら、建築に使えそうなものを選んでいった。
太く、まっすぐな幹。
腐っていない木。
適度に乾燥している木材。
それらを選び、必要な長さに切り分ける。
ここで役に立つのが、《建築補助》だ。
木材の寸法を確認し、切断する位置を正確に把握する。
さらに、《身体強化》を使えば、重たい木を運ぶのもずっと楽になる。
「……よっと」
俺が太い丸太を持ち上げると、リシアが目を丸くした。
「わあっ! レンさん、やっぱりすごいです!」
「スキルのおかげだけどな」
「それでもすごいですよ!」
……まあ、素直に褒められるのは悪くない。
リシアも枝をまとめたり、細い材木を運んだりしてくれた。
必要な材料を集めるため、俺たちは何度も村と森を往復した。
昼近くになる頃には、ようやく建築に取りかかれそうな量が揃った。
◇
「……さて、どう作るかな」
俺は地面に簡単な図を描いた。
家の配置。
部屋の広さ。
柱を立てる場所。
屋根の形。
以前の家を改築したときの経験も、少しは役に立っている。
「レンさん! 今回は二階建てにするんですか?」
「いや、今回は平屋にするつもりだ」
「そうなんですか?」
「ああ。今すぐ住む人がいるわけじゃないし、無理に大きくする必要はないだろ?」
「なるほど!」
一軒は、小さな寝室と居間を備えた住居。
もう一軒は、少し広めの部屋を中心にした建物。
どちらも、あとから使い道を変えられるようにしておきたい。
「将来、誰かが村に住むことになったら使えるしな」
「……!」
リシアがぱっと顔を上げた。
「また、誰かが住んでくれるでしょうか?」
「わからないけど……俺は、そうなったらいいと思う」
「……そうですね!」
リシアが嬉しそうに笑った。
「私も、そう思います!」
……よし。
それじゃ、作るか。
◇
「《建築補助》!」
俺はスキルを発動した。
頭の中に、建物の寸法や構造が浮かび上がる。
まずは土台からだ。
再利用できる石を並べ、柱を支える部分を整える。
地面の凹凸を直し、重さが一か所に集中しないようにする。
次に、加工した木材を組み上げていく。
「リシア! その板、こっちに持ってきてくれ!」
「はーい!」
リシアが木材を運んでくる。
俺は長さを確かめ、必要な位置へ取り付けた。
《建築補助》のおかげで、寸法を間違えることはほとんどない。
ただし、スキルが勝手に家を完成させてくれるわけじゃない。
柱を立てるのも、壁を張るのも、実際に手を動かす必要がある。
それでも、一から建築することを考えれば破格の便利さだ。
「……おお!」
しばらくすると、家の骨組みが姿を現した。
リシアが目を輝かせる。
「レンさん! もうお家の形になってます!」
「まだまだこれからだぞ」
「でも、すごいです!」
俺は笑いながら作業を続けた。
柱を立てる。
梁を渡す。
壁板を張る。
屋根の骨組みを作る。
途中で何度か休憩を挟みながら、一つずつ進めていく。
そして、ようやく一軒目が形になった。
「……ふう」
俺は大きく息を吐いた。
「一軒目、完成だ!」
「やったー!!」
リシアが嬉しそうに両手を上げた。
新しい家は、簡素な木造の平屋。
小さな寝室と居間があり、雨風をしのぐには十分な造りだ。
「……いい感じだな」
「はい!」
リシアは家の中を覗き込みながら、嬉しそうに笑っている。
「レンさん、本当にありがとうございます!」
「あと一軒あるからな。もう少し頑張ろう」
「はいっ!」
◇
夕方。
ようやく二軒目の建物も完成した。
「……終わったー!」
俺は思いきり伸びをした。
正直、かなり疲れた。
いくらスキルが便利でも、長時間の肉体労働が楽になるわけじゃない。
……いや、《身体強化》がある分、普通よりは楽なんだろうけど。
「レンさん! 見てください!」
リシアに呼ばれて、俺は振り返った。
そこには、二軒の新しい家が並んでいた。
そして、その奥には俺たちの二階建ての家。
村には、再び三軒の家が建ったのだ。
「……おお」
自分で作っておいてなんだが、ちょっと感動するな。
「……昔の村みたいです」
隣で、リシアがぽつりと呟いた。
「ん?」
「前は、ここにもっとたくさんの家があったんですよ」
彼女は村の中央に立つ巨木を見上げた。
「夕方になると、みんな家の前に出てきて……」
「……うん」
「子どもたちは走り回って、大人たちは夕飯の準備をして……」
リシアの声は、少しだけ懐かしそうだった。
「お祭りの日には、この木の下に机を並べて、みんなでご飯を食べたんです」
俺も巨木を見上げた。
枝の一部には、まだ焦げた跡が残っている。
それでも、大きな幹はしっかりと立っていた。
「……楽しかったんだな」
「はい」
リシアは小さく微笑んだ。
「とっても」
しばらく、二人の間に静かな時間が流れた。
やがて、俺は口を開いた。
「……また、やろうか」
「……え?」
「そのお祭り」
俺は巨木を見上げたまま続けた。
「いつか住民が増えたら、またこの木の下に机を並べてさ」
リシアがこちらを見た。
「……レンさん」
「俺も、その景色を見てみたい」
彼女は少しだけ目を伏せた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……はい!」
その笑顔は、今日一番明るかった。
「絶対に、やりましょうね!」
「ああ。約束だ」
◇
夜。
俺たちは、家の中で夕食を食べていた。
今日の料理は、森の野菜と魚を使ったスープ。
疲れた体に、温かい料理が染み渡る。
「……うまい」
「えへへ!」
リシアが嬉しそうに笑った。
「今日はたくさん働きましたからね!」
「本当にな」
俺は窓の外を眺めた。
月明かりの下に、三軒の家が並んでいる。
その中央には、大きな巨木。
昨日よりも、ずっと村らしい景色だ。
「……悪くないな」
「はい?」
「いや、少しずつ村になってきたなって」
「……!」
リシアが嬉しそうに頷いた。
「はい! 私もそう思います!」
食料を集めた。
小さな畑を作った。
水を確保する仕組みも整えた。
そして、家も三軒に戻った。
まだまだ足りないものは多い。
だが、生活の基盤は少しずつ整ってきた。
「レンさん!」
「ん?」
「次は、何をするんですか?」
「……そうだな」
俺は少し考えた。
村の周りには、まだ知らない場所がたくさんある。
森の地形。
危険な魔物の生息地。
使えそうな資源。
それらを調べておけば、今後の村づくりにも役立つはずだ。
「明日は、森を少し探索してみようと思う」
「……探検ですか!?」
「ああ」
「楽しそうです!」
リシアが目を輝かせた。
「私が案内しますね!」
「……頼むぞ?」
「もちろんです!」
……まあ、ちょっと不安だけど。
きっと、何とかなるだろう。
こうして、異世界生活四日目は終わった。




