最強スキルで村づくり! まずは食料確保から
異世界生活、三日目。
俺、神崎蓮は、朝から村の中央に立っていた。
「……うん。見事に燃えてるな」
目の前に広がっているのは、黒く焦げた建物の残骸。
昨日、リシアの魔法が暴発した結果だ。
もともと村にあった三軒の家のうち、二軒が焼け落ちた。
ついでに、食料や種を保管していた倉庫も消えた。
幸い、俺たちが暮らしている二階建ての家は無事だったし、村の中央に立つ大きな木も倒れずに済んだ。
……まあ、枝の一部は焦げているけど。
「……さて」
俺は腕を組んだ。
家がなくなったのは大問題だ。
だが、それ以上に困っていることがある。
「……食料、どうするかな」
倉庫が燃えたということは、リシアが集めていた食料もなくなったということだ。
昨日の夕食は、家の中に残っていたわずかな木の実で何とか済ませた。
だが、今日からはそうもいかない。
「レンさーん!」
振り返ると、リシアが家から出てきた。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
彼女は焼けた倉庫を見て、少しだけ表情を曇らせた。
「……昨日は、本当にごめんなさい」
「もう謝らなくていいって」
「でも……」
「それより、今日は手伝ってほしいことがある」
「……え?」
「食料集めだ」
俺がそう言うと、リシアがぱっと顔を上げた。
「……はい!」
そして、大きく頷いた。
「任せてください!」
◇
俺たちは朝から森に入った。
目的は、食料と畑に使える植物を集めること。
リシアは慣れた様子で木々の間を進んでいく。
「レンさん! こっちです!」
「おう」
「この辺りには、食べられる木の実がたくさんあるんですよ!」
「へえ」
リシアが指さした先には、小さな赤い実がなっていた。
「これは甘くておいしいんです!」
「……本当か?」
「はい! ただし、似た色の毒の実もあるので注意してくださいね!」
「……危なっ」
俺は伸ばしかけた手を引っ込めた。
「どうやって見分けるんだ?」
「葉っぱの形と、実の根元の模様です!」
リシアは二種類の植物を見比べながら説明してくれた。
確かによく見ると、葉の形が少し違う。
「……なるほど」
俺は感心した。
リシアは方向音痴だが、森で生きる知識はかなり豊富らしい。
「……リシア、すごいな」
「えへへ! 森で暮らしてましたから!」
そう言って、彼女は嬉しそうに笑った。
……頼りになるな。
俺たちは木の実や食べられる草を集めながら、森の奥へ進んだ。
途中で、畑に植えられそうな植物も見つかった。
「これ、村で育てられるかな?」
「はい! 根を傷つけずに持ち帰れば、植え替えられると思います!」
「よし。じゃあ、これも持っていこう」
俺は土ごと慎重に掘り起こし、布で包んだ。
小さな苗がいくつか。
それから、乾いた実の中に残っていた種も少し。
……倉庫にあった分は燃えてしまったけど、また一から集めればいい。
◇
昼近くになった頃、俺たちは川へ向かった。
「……さて」
俺は水面を覗き込んだ。
透明な水の中を、小さな魚が泳いでいる。
「魚も捕れたらいいんだけどな」
「捕れますよ!」
リシアが当然のように答えた。
「……え?」
「私、魚を捕るの得意です!」
「マジで?」
「はい!」
リシアは近くの細い枝を拾い、先端を削って簡単な槍を作った。
「ちょっと見ててくださいね!」
そう言うと、川岸で静かに身をかがめた。
さっきまでの元気な雰囲気が嘘みたいに、真剣な表情になる。
そして。
「……えいっ!」
水面に向けて槍を突き出した。
次の瞬間、先端には一匹の魚が刺さっていた。
「……えっ」
「やりました!」
リシアが嬉しそうに魚を持ち上げる。
「……すげえ」
「えへへ!」
……本当にすごいな。
俺も試してみたが、なかなかうまくいかなかった。
「……くそっ」
「レンさん、魚の少し下を狙うんですよ!」
「下?」
「水の中だと、見えている場所と実際の場所が少し違うんです!」
「……なるほど」
教えられたとおりに狙ってみる。
だが、魚は素早く逃げてしまった。
「……難しいな」
「練習すればできますよ!」
リシアは笑いながら、また一匹捕まえていた。
……完全に負けてる。
まあ、得意なことは人それぞれだよな。
◇
村へ戻った俺たちは、集めた食料を整理した。
木の実。
食べられる草。
魚。
畑用の苗と種。
しばらくの食事には困らなさそうだが、これを毎日続けるのは大変だ。
「……やっぱり、畑が欲しいな」
「畑ですか?」
「ああ。自分たちで食料を育てられるようにしたい」
「いいですね!」
リシアが嬉しそうに頷いた。
「前の村にも畑があったんですよ!」
「そうなのか?」
「はい! でも、今は木が伸びて、ほとんど日が当たらなくなっちゃって……」
「なるほど」
俺は周囲を見回した。
村の中央には大きな木がある。
その周辺は日陰が多い。
だからといって、あの木を切るつもりはない。
リシアにとって、大切な思い出が詰まった木だからな。
「……じゃあ、少し離れた場所に作ろう」
「はい!」
俺たちは日当たりのいい空き地へ向かった。
地面は少し硬く、雑草も生えている。
「……ここを耕すか」
俺は土を手で掴んだ。
硬い。
このままでは、植物の根が伸びにくそうだ。
……土をほぐして、水や空気が通りやすくすればいいんだよな。
頭の中で、土の粒と隙間の関係を思い浮かべる。
そして、能力を発動した。
「《創造主》――スキル創造」
目の前に、文字が浮かび上がる。
《新規スキルの創造を確認》
《土壌整備》
土を砕き、耕し、植物の根が伸びやすい状態に整えるためのスキル。
「……よし」
俺は地面に手をかざした。
「《土壌整備》!」
ぼこっ。
目の前の土が、小さく盛り上がった。
続いて、硬かった地面がほぐれていく。
「……おお」
リシアが目を丸くした。
「レンさん! また新しい魔法ですか!?」
「まあ、そんな感じだ」
「すごいです!」
俺は笑いながら、畑になる部分を少しずつ整えていった。
ただし、栄養のない土を一瞬で肥沃にできるわけじゃない。
石や根を取り除き、水はけを整える。
植物が育つ環境を作るだけだ。
「……こんなもんかな」
「はい! とってもいい感じです!」
リシアはしゃがみ込み、土を指で触った。
「ふかふかですね!」
「ああ」
「これなら、苗も育ちやすいと思います!」
俺たちは持ち帰った苗を植え、種をまいた。
まだ小さな畑だ。
だが、これが村の食料を支える第一歩になる。
◇
「……次は水か」
俺は川の方を見た。
川の水は透き通っている。
だが、見た目がきれいだからといって、そのまま飲んで安全とは限らない。
「リシア、普段は水をどうしてたんだ?」
「川から汲んできて、火にかけていました!」
「なるほど」
ちゃんと煮沸していたらしい。
……よかった。
「じゃあ、もう少し手間を減らせないかな」
「……手間?」
「ああ。砂や石を使って、泥や細かいゴミを取り除く仕組みを作りたい」
「そんなことできるんですか?」
「たぶんな」
俺は、ろ過の仕組みを思い浮かべた。
大きな石。
小さな砂利。
細かな砂。
それぞれの隙間を通すことで、水に混じったゴミを取り除く。
……ただ、これだけで病気の原因まで全部取り除けるわけじゃない。
飲む前には、煮沸が必要だ。
「《創造主》――スキル創造」
《新規スキルの創造を確認》
《浄水補助》
水に混じった土や浮遊物を取り除くため、ろ過を助けるスキル。
「……よし」
俺は木の容器と布を使い、砂利や砂を重ねた簡単な装置を作った。
その装置へ、汲んできた川の水をゆっくり注ぐ。
「《浄水補助》!」
水が少しずつ層を通り抜けていく。
下の容器には、濁りの少ない水が溜まった。
「……わあ!」
リシアが目を輝かせた。
「きれいになりました!」
「ああ。でも、これで完成じゃないぞ」
「……?」
「飲むときは、今までどおり沸かしてくれ」
「はい!」
リシアが大きく頷いた。
「それなら任せてください!」
……うん。
これで、飲み水の準備も少し楽になるはずだ。
◇
夕方。
俺たちは家の前で、今日集めた食料を整理していた。
「この木の実は、乾燥させて保存しておきますね!」
「頼む」
「魚も、何匹か燻しておきましょう!」
「燻す?」
「はい! 煙で乾かしておくと、生のままより日持ちするんです!」
「へえ」
リシアは小さな火を起こし、枝を組んだ簡単な燻製用の台を作った。
魚を開き、火から少し離した場所に並べる。
「こうすると、煙が当たるんですよ!」
「なるほど」
……本当に頼りになるな。
俺がスキルで建物を作れても、生活の知識はリシアの方がずっと豊富だ。
お互いに得意なことを活かせば、村づくりもうまく進むかもしれない。
◇
夜。
食卓には、香草で焼いた魚と、森の野菜を使ったスープが並んでいた。
「……いただきます」
「いただきます!」
俺は魚を一口食べた。
「……うまっ」
「えへへ!」
リシアが嬉しそうに笑う。
「今日は新しい香草を使ってみたんです!」
「これ、かなり好きだな」
「本当ですか!?」
「ああ」
「やったー!」
……相変わらず、褒めると嬉しそうだ。
食事を終えたあと、俺は窓の外を眺めた。
そこには、黒く焦げた二軒の家の跡が見える。
昨日までは、どうなることかと思った。
だが、今日は食料を集め、畑を作り、水を確保する仕組みも整えた。
まだ、できたことは少ない。
それでも、昨日より確実に前へ進んでいる。
「……よし」
「レンさん?」
「明日は、家を建て直そうと思う」
「……えっ?」
リシアが目を丸くした。
「焼けた二軒を?」
「ああ。せっかく村を作るなら、いつまでもあのままにはしておけないだろ」
「……レンさん」
リシアは、少しだけ俯いた。
「……ありがとうございます」
「まだ建て直してないけどな」
「それでも、嬉しいです」
彼女は顔を上げ、柔らかく笑った。
「ここは、私の大切な故郷なので」
「……そっか」
俺は頷いた。
「じゃあ、ちゃんと直さないとな」
「……はい!」
こうして、俺たちの異世界生活三日目は終わった。




