第3話 森で出会ったエルフは、どうやら少し抜けているらしい
これでペースがカクヨムの方に追いつきました
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異世界に召喚されて、早々に追放された。
しかも、どうやら俺にはスキルを自由に創り出せる能力があるらしい。
……うん。
情報量が多すぎる。
「とりあえず、寝る場所を探さないとな……」
俺、神崎蓮は深い森の中を歩きながら呟いた。
王都から離れた場所まで来たはいいものの、これからどうするかはまったく決まっていない。
食料は少しだけある。
水もある。
銀貨だって三枚もらった。
だが、この世界の物価も、地理も、常識もわからない。
……我ながら、よくこんな状態で王都を出てきたものだ。
もっとも、追い出されたんだから仕方ないんだけど。
「……さて」
俺は周囲を見渡した。
木々の間から差し込む日差し。
遠くで聞こえる鳥の声。
そして、どこまでも続く緑。
見た目だけなら、ずいぶん平和な森だ。
……見た目だけなら。
さっき巨大な狼みたいな魔物に襲われたばかりだからな。
あれを一撃で吹き飛ばせたのは、正直、自分でも驚いた。
《衝撃波》。
仕組みを考えて創ったスキルだが、思った以上の威力があった。
次からはもう少し加減した方がよさそうだ。
「……ん?」
そのときだった。
遠くから、何かが聞こえた。
「きゃあああああっ!!」
……悲鳴?
しかも、女の子の声だ。
「ちょっと待ってくださいいいい!!」
いや、待ってくれる相手なのか?
俺は声のする方向へ走り出した。
◇
木々の間を抜けると、小さな開けた場所に出た。
そして、目の前の光景に思わず足を止める。
「うわあああっ!!」
一人の少女が、巨大なイノシシに追いかけられていた。
いや、巨大なんてものじゃない。
普通のイノシシの何倍もある。
背中には硬そうな突起が並び、口元からは鋭い牙が突き出していた。
……あれ、絶対に普通の動物じゃないな。
「誰か助けてくださーい!!」
少女は必死に走っている。
長い銀色の髪。
透き通るような緑色の瞳。
そして、髪の間から覗く細長い耳。
……エルフ?
異世界に来て、初めて見た。
なんて感心している場合じゃない。
「おい! こっちだ!」
俺が声をかけると、少女はこちらを振り向いた。
「……えっ!?」
その瞬間、足元の木の根につまずいた。
「わっ!」
少女の体が前に傾く。
後ろからは巨大なイノシシが迫っていた。
……危ない!
俺は《身体強化》を発動した。
地面を蹴る。
一瞬で少女との距離を詰め、倒れかけた体を抱えるように支えた。
「大丈夫か!?」
「は、はいっ!」
少女が目を丸くする。
「ありがとうございます……!」
「礼はあとだ。まずはあいつを――」
「あっ! そうです!」
少女が突然、俺の腕の中から顔を上げた。
「私、魔法が使えるんです!」
「……え?」
「ここは私に任せてください!」
……いや、今の状況で?
少女は勢いよく立ち上がり、イノシシに向かって手を突き出した。
「いきますよっ!」
手のひらに赤い光が集まり始める。
……おお。
本物の魔法だ。
初めて見る。
「《ファイアボール》!!」
次の瞬間。
ボォンッ!!
少女の手から、巨大な炎の塊が飛び出した。
「……でかっ!?」
炎はイノシシのすぐ横を通り過ぎ、後方の地面に着弾した。
轟音。
土煙。
そして、焦げた草の匂い。
「…………」
「…………」
イノシシがゆっくりこちらを振り向いた。
……うん。
完全に怒っている。
「あ、あれ?」
少女が首を傾げた。
「おかしいですね……」
「何が!?」
「もう少し小さく出すつもりだったんですけど……」
「問題は大きさだけじゃないだろ!」
イノシシが低く唸った。
そして、こちらへ突進してくる。
「ひゃあああっ!!」
「だから危ないって!」
俺は少女を後ろへ下がらせ、右手を前に出した。
さっきの巨大な狼との戦いを思い出す。
あのときは、威力が大きすぎた。
今度は、必要な範囲だけ。
相手の動きを止めるための衝撃。
「《衝撃波》!」
ドンッ!
圧縮された空気が一直線に放たれた。
巨大なイノシシの体が浮き上がり、そのまま地面を転がる。
土煙が舞った。
しばらくして煙が晴れると、イノシシは倒れたまま動かなくなっていた。
「……よし」
周囲の木は無事。
余計な被害もなさそうだ。
……さっきよりは加減できたな。
「…………」
振り返ると、銀髪の少女が口をぽかんと開けていた。
「……え?」
「大丈夫か?」
「い、今の……何ですか!?」
「ちょっとしたスキルだけど」
「ちょっとした!?」
少女が勢いよく近づいてきた。
「すごいです! あんな魔物を一撃で倒しちゃうなんて!」
「……まあ、運がよかっただけだよ」
「絶対に違いますよね!?」
……鋭いな。
いや、それ以前に。
「そもそも、お前は何で追いかけられてたんだ?」
「えっと……」
少女が気まずそうに目を逸らした。
「森で木の実を集めていたら、あの子がいたんです」
「あの子?」
「はい! 大きなイノシシさんが!」
「……うん」
「それで、危ないと思って魔法で追い払おうとしたんですけど……」
「……まさか」
「ちょっとだけ、炎が大きくなっちゃいまして……」
少女は照れくさそうに笑った。
……なるほど。
自分で怒らせたのか。
「お前、よく今まで無事だったな……」
「えへへ。よく言われます!」
「褒めてないからな?」
◇
「改めまして!」
少女は背筋を伸ばした。
「私はリシア・エルフィードです! エルフです!」
「見ればわかる……って言いたいところだけど、エルフに会うの初めてなんだ」
「そうなんですか!」
「ああ。俺は神崎蓮。レンでいいよ」
「レンさんですね!」
リシアはにこっと笑った。
……なんというか。
太陽みたいに明るい子だな。
「レンさんは、この森に何の用事で来たんですか?」
「……実は、行く当てがなくて」
「えっ?」
「いろいろあって、住む場所を探してるんだ」
王国から追放された話まで、今ここでする必要はないだろう。
リシアは少し考えるように首を傾げた。
そして、ぱっと顔を上げる。
「それなら!」
「ん?」
「私の村に来ませんか?」
「……村?」
「はい! ここから歩いて少しのところにあるんです!」
……村があるのか。
それはありがたい。
「でも、急に行っても迷惑じゃないか?」
「大丈夫です!」
リシアは胸を張った。
「今は、私しか住んでませんから!」
「…………」
「…………」
「……え?」
聞き間違いだろうか。
「村なのに、一人?」
「はいっ!」
……それ、村って呼んでいいのか?
「昔は、ほかのエルフたちも住んでいたんですけど」
リシアは少しだけ声を落とした。
「森に危険な魔物が増えて、みんな別の場所へ移ってしまったんです」
「……そうだったのか」
「でも、私はあの場所が好きなので」
彼女は優しく笑った。
「まだ、残ってるんです」
……なるほど。
明るい子だけど、いろいろ事情があるらしい。
「じゃあ、お言葉に甘えてもいいか?」
「もちろんです!」
リシアは満面の笑みを浮かべた。
「では、案内しますね!」
「頼むよ」
こうして俺は、銀髪のエルフに案内されることになった。
……なったのだが。
◇
「……リシア」
「はい?」
「さっき、この木を通らなかったか?」
「……え?」
リシアが足を止めた。
そして、目の前の大きな木をじっと見つめる。
「……あれ?」
「……」
「似た木が多いですからね!」
「いや、この木、俺がさっき目印にしたやつなんだけど」
「…………」
「…………」
「えへへ……」
「迷ったな?」
「ちょっとだけです!」
「ちょっとだけって、もう三十分くらい歩いてるぞ!」
「で、でも! 森のことはよく知ってるんですよ!」
「じゃあ何で迷うんだよ!」
「道を覚えるのが、ちょっと苦手で……」
……なるほど。
方向音痴か。
ただ、リシアはそれを恥ずかしがりながらも、周囲の植物にはすぐに気づいた。
「あっ、レンさん! この木の実、食べられますよ!」
「……本当か?」
「はい! こっちは甘くて、あっちの赤い実は食べちゃだめなんです!」
彼女は迷いなく二種類の実を見分けてみせた。
「このあたりは夕方になると小さな魔物が出てくるので、なるべく明るいうちに抜けたいですね」
「……へえ」
森の植物や生き物には、ずいぶん詳しい。
道を覚えるのは苦手でも、森で生きるための知識は本物らしい。
「じゃあ、川の方角はわかるか?」
「はい! 水の音がしますから!」
「そこから村へは?」
「川沿いに進めば着きます!」
「……最初からそうしてくれ」
「えへへ……」
……まあ、悪い子じゃないんだけどな。
◇
それからしばらく歩き、ようやく目的地にたどり着いた。
「着きましたー!」
リシアが嬉しそうに両手を広げた。
「ここが、私の村です!」
「……おお」
目の前には、小さな集落が広がっていた。
木々に囲まれた開けた場所。
中央には、空へ向かって枝を広げる巨大な木。
その周囲には、古びた木造の家が三軒並んでいる。
……いや。
並んでいる、と言っていいのだろうか。
一軒は屋根が傾き、もう一軒は壁に穴が開いている。
残る一軒も、雨が降ったら雨漏りしそうな状態だった。
「……リシア」
「はい?」
「ここで暮らしてるのか?」
「はいっ!」
「……大変じゃないか?」
「慣れました!」
……慣れでどうにかなるものなのか?
リシアは中央の大きな木を見上げた。
「昔は、もっと賑やかだったんですよ」
その声が、少しだけ柔らかくなる。
「この木の下で、みんなでご飯を食べたり、お祭りをしたりして……」
「……そうなのか」
「はい」
リシアは微笑んだ。
「いつか、またそんなふうになったらいいなって思ってるんです」
俺も巨大な木を見上げた。
枝の間から、夕方の光が差し込んでいる。
……悪くない場所だ。
建物はぼろぼろだけど、周囲には森があって、近くには川もある。
それに、ここには暮らしを続けてきた人がいる。
「……なあ、リシア」
「はい?」
「俺、ここにしばらく住んでもいいか?」
リシアは目を丸くした。
「……本当ですか?」
「ああ。行く当てもないし、それに……」
俺は村を見渡した。
「ちょっと、やってみたいことができた」
「やってみたいこと?」
「この村を、もっと住みやすくしてみたいんだ」
「……!」
リシアの瞳が輝いた。
「本当ですか!?」
「ああ。できるかどうかは、やってみないとわからないけどな」
「ぜひ! ぜひお願いします!」
リシアは嬉しそうに両手を握った。
「私もお手伝いします!」
「頼りにしてるよ」
「はいっ!」
……さて。
まさか異世界に来て二日もしないうちに、村づくりを始めることになるとはな。
でも。
追放されたからこそ、出会えた場所もある。
自由に暮らせる場所を作りたい。
そんな俺の思いつきは、この小さな集落から始まるのかもしれない。
「レンさん!」
「ん?」
「ところで……」
リシアが少し困ったように笑った。
「今夜、どのお家で寝ましょうか?」
「……え?」
「どれも、ちょっと雨漏りするんですけど……」
「…………」
俺はもう一度、三軒の家を見渡した。
……うん。
まずは家の修理からだな。
こうして、俺とリシアの不思議な共同生活が始まった。




