↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/11

第2話 追放された俺、どうやらスキルを創れるらしい

異世界に召喚されて、まだ一時間も経っていない。


 それなのに俺、神崎蓮は現在、二人の兵士に連行されている。


 ……異世界生活って、もっとこう、夢と希望に満ちたものじゃなかったっけ?


「こちらでお待ちください」


 兵士に案内されたのは、王宮の隅にある小さな部屋だった。


 簡素な机と椅子が一つずつ。


 窓には鉄格子がはめられている。


 ……どう見ても歓迎されている部屋ではない。


「今後の処遇について、上の者が判断いたします」


「わかりました」


 兵士が部屋を出ていく。


 扉の向こうから、鍵をかける音が聞こえた。


 ガチャリ。


「……いや、普通に監禁じゃねえか」


 思わず声が漏れた。


 まあ、騒いだところでどうにもならない。


 俺は椅子に腰を下ろし、これからのことを考えることにした。


 まず、元の世界に帰る方法は不明。


 この世界の常識も知らない。


 お金もない。


 そして、スキルもない。


「……詰んでないか、これ」


 改めて考えると、かなり絶望的な状況である。


 だが、不思議とそこまで悲観していなかった。


 知らない世界に来たのなら、まずはその世界を知ればいい。


 帰る方法だって、探せば何か見つかるかもしれない。


 問題は、王国が俺をどう扱うかだ。


「せめて街に放り出してくれればいいんだけどな」


 そんなことを呟いたときだった。


 目の前に、突然青白い光が現れた。


「……ん?」


 光は薄い板のような形になり、空中に静止する。


 そこには、見慣れない文字が並んでいた。


 なのに、なぜか意味が理解できる。


『個体名:神崎蓮』


『固有権限:創造主』


『管理領域への接続を確認しました』


「……何だこれ」


 俺は目をこすった。


 しかし、光の板は消えない。


 試しに指を伸ばすと、文字が切り替わった。


『固有権限創造主』


『効果:理解した構造・原理に基づき、任意のスキルを創造する』


『制限:創造対象の原理を理解していること』


「……スキルを、創造?」


 どういうことだ?


 普通、スキルって神様からもらうものじゃないのか?


 鑑定士もそんなことを言っていたはずだ。


 俺はもう一度、目の前の文章を読み返した。


 任意のスキルを創造する。


 つまり――。


「欲しい能力を、自分で作れるってことか?」


 なんだそれ。


 チートにもほどがあるだろ。


 とはいえ、実際に使えなければ意味がない。


 試してみるか。


 まずは、仕組みを理解しやすい能力から始めよう。


「身体強化……とか?」


 筋肉は収縮することで力を生み出す。


 神経からの信号で筋肉が動き、骨格がその力を伝える。


 細かい仕組みをすべて知っているわけではないが、少なくとも基本的な原理は理解しているつもりだ。


 ならば、その働きを一時的に高める能力を作れないだろうか。


 俺は頭の中で、筋肉と神経の働きをイメージした。


『スキル構造を解析中……』


『必要条件を満たしました』


『新規スキル《身体強化》を創造しました』


「……マジかよ」


 あっさり成功した。


 しかも、頭の中にスキルの使い方が自然と浮かんでくる。


 どうやら、意識するだけで発動できるらしい。


「《身体強化》」


 その瞬間、全身に温かな力が広がった。


 体が妙に軽い。


 試しに立ち上がってみる。


「おお……」


 なんだか、今なら百メートルを五秒くらいで走れそうな気がする。


 もちろん、試せる場所はないけど。


 俺はそっと拳を握った。


 すると――。


 ミシッ。


「……ん?」


 手に持っていた木製の椅子の背もたれが、簡単に砕けた。


 ……いやいやいや。


「強化しすぎだろ!」


 慌ててスキルを解除した。


 床に落ちた木片を見つめる。


 どうやら、俺が想像していた以上に強力な能力らしい。


「これ、加減を覚えないと危ないな……」


 しかも、まだ一つ目のスキルである。


 もし他の能力も作れるなら、相当なことができるはずだ。


 俺は再び光の板を開いた。


「次は……魔法とか?」


 異世界といえば魔法だ。


 せっかくなら使ってみたい。


 しかし、魔法の原理なんて知らない。


 火が燃える仕組みなら、学校で習ったことがある。


 酸素と燃料、そして熱。


 この三つが揃えば、燃焼が起こる。


 だったら、空気中の可燃性物質を利用して小さな炎を発生させる能力は作れないだろうか。


 頭の中で、その仕組みを組み立てる。


『スキル構造を解析中……』


『一部の構造が不明です』


『魔力によるエネルギー供給方式を設定してください』


「……魔力?」


 なるほど。


 この世界の魔法には、魔力が関係しているらしい。


 だが、魔力がどんなものなのか、今の俺にはわからない。


『スキル創造に失敗しました』


「まあ、そう簡単にはいかないか」


 どうやら、知らない仕組みを無理やり作ることはできないらしい。


 逆に言えば、魔力の仕組みを理解すれば魔法だって創れるということだ。


 ……これは、なかなか面白い能力を手に入れたな。


 そのとき。


 ガチャリ。


 扉の鍵が開く音がした。


「神崎蓮。出ろ」


 先ほどとは違う兵士が二人、部屋に入ってきた。


 俺は慌てて光の板を閉じる。


「処遇が決まったんですか?」


「ああ。お前は王都の外へ追放されることになった」


「……追放?」


「国王陛下のご命令だ。スキルを持たぬ者に、王国が支援を与える義務はない」


 ……いや、勝手に呼び出しておいてそれはひどくないか?


 とは思ったが、口には出さなかった。


 今の俺にとって、王宮から出られるのはむしろ好都合だ。


「わかりました。行きますよ」


 兵士は少し意外そうな顔をした。


 もっと抵抗されると思っていたのだろう。


 残念ながら、俺もこんな場所に長居するつもりはない。


 王宮を出ると、外はすでに夕方だった。


 石造りの建物が立ち並び、通りには馬車が行き交っている。


 遠くには巨大な城壁が見えた。


 ……おお。


 本当にファンタジーの世界だ。


 ちょっと感動した。


 もっとも、観光する暇はないらしい。


 兵士たちは俺を馬車に乗せ、そのまま街の外へ向かった。


 しばらくして馬車が止まる。


「降りろ」


 言われるままに降りると、目の前には草原と深い森が広がっていた。


 王都の城壁は、すでに遠くに見える。


「ここから先は王国の管理外だ。好きに生きろ」


 兵士が小さな袋を投げてよこした。


 中には硬いパンが二つと、水の入った革袋。


 そして、銀色の硬貨が三枚。


「最低限の物資だ」


「どうも」


 俺が受け取ると、兵士たちはすぐに馬車へ戻っていった。


 遠ざかっていく車輪の音を聞きながら、俺は一人で立ち尽くす。


 ……さて。


「本格的に異世界生活スタートってわけか」


 空を見上げる。


 太陽は傾き始めていた。


 夜になる前に、寝床を確保した方がよさそうだ。


「まずは、安全な場所を探すか」


 俺は森に向かって歩き出した。


 そのときだった。


 ガサガサッ。


 近くの茂みが大きく揺れた。


「……ん?」


 姿を現したのは、全身を黒い毛で覆われた巨大な狼だった。


 普通の狼よりも、明らかに大きい。


 口元からは鋭い牙がのぞき、赤い目がこちらを睨んでいる。


「グルルルル……」


 ……あー。


 これ、絶対魔物だ。


 狼は低く唸ると、地面を蹴った。


 ものすごい勢いで突進してくる。


「うおっ!?」


 俺は反射的に横へ飛んだ。


 体が驚くほど軽い。


 さっき作った《身体強化》が、まだ使えるからだろう。


 狼は俺のいた場所を通り過ぎ、勢い余って木にぶつかった。


 ドゴンッ!


 ……木が折れた。


「いや、怖すぎるだろ!」


 狼が再びこちらを向く。


 さて、どうする。


 逃げることもできそうだが、こいつの方が森には詳しいはずだ。


 それなら――。


「ちょっと試してみるか」


 俺は右手を前に突き出した。


 頭の中で、新しい能力を組み立てる。


 必要なのは、物体を加速させる力。


 力を一点に集中させ、衝撃として放出する。


 単純な運動エネルギーの応用だ。


『スキル構造を解析中……』


『必要条件を満たしました』


『新規スキル《衝撃波》を創造しました』


「よし」


 再び狼が飛びかかってくる。


 俺は右手を向けた。


「《衝撃波》!」


 ドォォォォン!!


 轟音が響いた。


 目の前の狼が、ものすごい勢いで吹き飛ぶ。


 それだけではない。


 狼の背後にあった木々まで、まとめてなぎ倒されてしまった。


 轟音が止む。


 森に静寂が戻った。


「…………」


 俺は目の前の光景を見つめた。


 木々が倒れ、地面が大きくえぐれている。


 まるで巨大な何かが森を突き抜けたようだった。


「……いや、威力おかしくない?」


 確かに強い能力を作ろうとは思った。


 でも、ここまでとは聞いていない。


 というか、これだけの力が出せるなら、魔王だって倒せるんじゃないか?


「……まあ、倒す気はないけど」


 俺は軽く肩をすくめた。


 別に英雄になりたいわけじゃない。


 誰かに命令されて戦うのもごめんだ。


 せっかく自由になったんだから、好きなように生きたい。


「そうだな……」


 俺は周囲を見渡した。


 広い草原。


 深い森。


 遠くには山々が連なっている。


 日本では見られなかった景色だ。


 ここなら、何でもできそうな気がした。


「どうせなら、自分の国でも作ってみるか」


 もちろん、本気で国王になりたいわけじゃない。


 ただ、自分の好きな場所に家を建てて、気の合う仲間と暮らす。


 誰にも命令されず、好きなことをして生きていく。


 そんな場所があったら、きっと楽しいだろう。


「……よし。決まりだな」


 俺は小さく笑った。


 こうして、無能として追放された俺の、自由気ままな異世界生活が始まった。


 もっとも、このときはまだ知らなかった。


 俺が何気なく口にした「国を作る」という言葉が、やがて世界中を巻き込む大騒動につながることを。


 そして――。


 この森の奥で、一人の変わったエルフと出会うことになるなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。