↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/14

第11話 冒険者ギルドへ! 受付嬢は今日も大忙し

 異世界生活、七日目。


 交易都市セルティアの冒険者ギルド。


 俺、神崎蓮は、その大きな扉の前に立っていた。


「……ついに来たな」


 目の前にあるのは、石造りの立派な建物だ。


 入口の上には、剣と盾が交差した紋章。


 扉の向こうからは、人々の話し声が聞こえてくる。


「レンさん! 早く入りましょう!」


 隣では、リシアが目を輝かせていた。


 肩から下げた袋の中では、コルネがひょっこり顔を出している。


「きゅっ!」


「お前も楽しみなのか?」


「きゅぅ!」


 ……まあ、何を言っているのかはわからないけど。


「よし、行くか」


 俺は扉に手をかけた。


     ◇


「……おお」


 中に入った瞬間、思わず声が漏れた。


 広い空間には、いくつものテーブルが並んでいる。


 鎧を着た冒険者たちが食事をしながら談笑し、壁際には大量の依頼書が貼られた掲示板。


 奥には長い受付カウンターがあり、数人の職員が忙しそうに働いていた。


「討伐依頼の報告はこっちだ!」


「薬草の納品、確認お願いします!」


「おい、次の護衛依頼はまだか?」


 ……すごい活気だな。


 日本で暮らしていた頃に想像していた冒険者ギルド、そのままの光景だった。


「レンさん、あちらが受付ですよ!」


「おう」


 リシアの後ろについて歩く。


 途中、何人かの冒険者がこちらを見た。


 ……まあ、見慣れない顔だからな。


 それとも、リシアの銀髪が目立っているのだろうか。


「きゅっ!」


 コルネが袋から顔を出すと、近くにいた女性冒険者が小さく声を上げた。


「なにあの子、かわいい……!」


 ……どうやら原因はこいつらしい。


     ◇


「次の方、どうぞ!」


 受付から、はきはきとした声が聞こえた。


 俺たちはカウンターへ向かった。


 そこにいたのは、眼鏡をかけた若い女性だった。


 濃紺色の髪を後ろでまとめ、緑色の瞳で書類を確認している。


 年齢は二十歳くらいだろうか。


 きりっとした雰囲気の、仕事ができそうな人だ。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルド、セルティア支部へようこそ」


 女性は顔を上げ、にこりと微笑んだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「あ、冒険者登録をしたいんですけど」


「新規登録ですね。承知しました」


 彼女は手元から二枚の用紙を取り出した。


「私は受付担当のエリナと申します。よろしくお願いします」


「神崎蓮です」


「リシア・エルフィードです!」


「きゅっ!」


「……?」


 エリナさんの視線が、リシアの肩掛け袋へ向いた。


「……そちらは?」


「コルネちゃんです!」


 リシアが嬉しそうに答えた。


「私たちの大切な仲間なんですよ!」


「……そうですか」


 エリナさんは一瞬だけ困ったような顔をした。


「念のため確認しますが、危険な魔物ではありませんね?」


「はい! とってもおとなしい子です!」


「きゅぅ!」


 コルネは返事をするように鳴いた。


 エリナさんは眼鏡を直した。


「……館内では、ほかの利用者のご迷惑にならないようお願いします」


「はい!」


 ……よかった。


 追い出されなくて済んだ。


     ◇


「それでは、登録についてご説明します」


 エリナさんは用紙をこちらに向けた。


「冒険者は、依頼の受注や魔物の討伐、素材の採集などを行う仕事です」


「なるほど」


「ランクはFからAまであり、さらに特別な功績を認められた方にはSランクが与えられます」


 ……おお。


 やっぱりランク制度があるのか。


「登録したばかりの方は、原則Fランクからの開始になります」


「わかりました」


「ただし、登録時には簡単な能力確認と実技試験を受けていただきます」


「試験?」


「はい。依頼中の事故を減らすため、基本的な戦闘能力や魔力の状態などを確認します」


 ……なるほど。


 いきなり危険な依頼を受けさせるわけじゃないんだな。


「それから、ギルドが発行する登録証は身分証明としても利用できます」


「……おっ!」


 思わず身を乗り出した。


「それって、街に入るときにも使えるんですか?」


「はい。提携している都市では、通常の身分確認にご利用いただけます。ただし、都市ごとの規則は守ってくださいね」


「助かります!」


 俺は心の中でガッツポーズをした。


 今持っている仮の入街許可証は、銀貨一枚もしたうえに三日間しか使えない。


 これで次からの手続きが楽になるならありがたい。


「では、こちらにお名前と年齢をご記入ください」


 エリナさんが用紙を差し出した。


 ……ん?


 俺はそこで、ある問題に気づいた。


「……すみません」


「はい?」


「この世界の文字、読めないんですけど」


「…………」


 エリナさんが固まった。


「……文字が、読めない?」


「はい」


「ですが、こちらの言葉は問題なく話されていますよね?」


「まあ、そうなんですけど……」


 異世界召喚のときに、言葉は理解できるようになったらしい。


 だが、文字まで読めるわけではなかった。


 ……不便すぎる。


 すると、リシアが手を上げた。


「私、代わりに書きますよ!」


「おお、頼む!」


「はいっ!」


 リシアが嬉しそうに用紙を受け取った。


 エリナさんは小さく息を吐く。


「……代理記入は認められています。ご本人の確認が取れれば問題ありません」


 ……助かった。


 そして、俺は密かに決意した。


 この世界の文字、絶対に覚えよう。


     ◇


 登録用紙を提出したあと、俺たちは試験場へ案内された。


 ギルドの裏手には、広い訓練場があった。


 木製の人形や的が並び、何人かの冒険者が武器を振るっている。


「……すげえ」


「レンさん、楽しそうですね!」


「ああ。ちょっとわくわくする」


「えへへ!」


 すると、奥から大きな男が歩いてきた。


「おう! 新しい登録希望者ってのはお前らか!」


 低く響く声。


 分厚い胸板。


 がっしりした腕。


 背中には大きな剣を背負っている。


 いかにも歴戦の冒険者といった雰囲気だ。


「俺はガレス! Bランク冒険者だ!」


「神崎蓮です。よろしくお願いします」


「リシアです!」


「おう、よろしくな!」


 ガレスさんは豪快に笑った。


「今日は俺が実技試験を見ることになってる。まあ、気楽にやれ!」


「わかりました」


「最初に言っとくが、勝つ必要はねえぞ。危険な依頼を受けさせても大丈夫か、実力を確かめるだけだ」


 ……なるほど。


 それなら少し安心だな。


 ガレスさんは俺たちを見比べた。


「じゃあ、まずは兄ちゃんからだ!」


     ◇


「武器は何を使う?」


「……特に決めてないです」


「ほう?」


 ガレスさんが眉を上げた。


「剣も槍も使わねえのか?」


「今まで、あまり使う機会がなくて」


「なるほどな。じゃあ、今回は素手でもいいぞ」


「お願いします」


 俺は訓練場の中央に立った。


 向かい側には、ガレスさん。


 彼は練習用の木剣を片手に持っている。


「俺は軽く打ち込む。お前は避けるなり、防ぐなりしてみろ」


「はい」


「それじゃ、始めるぞ!」


 ガレスさんが地面を蹴った。


 ……速い!


 大柄な体からは想像できない動きだ。


 木剣が、俺の肩を狙って振り下ろされる。


 だが。


「《身体強化》!」


 体が一気に軽くなる。


 俺は横へ踏み込み、木剣をかわした。


「……おっ?」


 ガレスさんの目がわずかに見開かれる。


「いい動きだな!」


「ありがとうございます!」


「なら、これはどうだ!」


 続けて、横薙ぎの一撃。


 俺は一歩下がって避けた。


 木剣が目の前を通り過ぎる。


 ……なるほど。


 力任せに見えて、動きに無駄がない。


 これがBランク冒険者か。


「よし! 今度は攻撃してこい!」


「……いいんですか?」


「ああ! 遠慮はいらねえ!」


 ガレスさんが笑った。


 俺は少し考えた。


 《衝撃波》を使えば、間合いの外から攻撃できる。


 だが、相手にどれくらい効くかわからない。


 試験で大怪我をさせるのは避けたい。


 ……なら、まずは普通に接近するか。


 俺は《身体強化》で地面を蹴った。


「……っ!」


 一瞬で距離が縮まる。


「なっ!?」


 ガレスさんが木剣を構え直した。


 俺は踏み込みながら、彼の武器を持つ腕へ手を伸ばす。


 だが、簡単にはつかませてくれない。


 ガレスさんは体をひねり、俺の手をかわした。


 ……さすが!


「面白え!」


 ガレスさんが笑う。


「じゃあ、少し本気を出すぞ!」


 次の瞬間、強烈な一撃が迫ってきた。


 ……速い!


 避けきれない。


「《絶対防御》!」


 目の前に、透明な防壁が現れた。


 がんっ!


 木剣が防壁にぶつかり、鈍い音を立てる。


「……は?」


 ガレスさんの動きが止まった。


「今の、何だ?」


「防御スキルです」


「いや、それはわかるが……」


 ガレスさんは防壁を見つめた。


「こんな硬え防御、見たことねえぞ……」


 ……そうなのか?


 俺としては、理解できる仕組みをもとに創ったスキルなんだけど。


「よし、兄ちゃん!」


 ガレスさんがにやりと笑う。


「今度は遠慮なく攻撃してみろ!」


「……本当にいいんですか?」


「おう!」


 ……じゃあ。


 俺は防壁を解除し、少し距離を取った。


「《衝撃波》!」


 ただし、威力は抑える。


 掌から放たれた衝撃が、ガレスさんの持つ木剣を狙った。


 ばしんっ!


「うおっ!?」


 木剣が弾かれ、地面に転がった。


 ガレスさんは目を丸くした。


「……おいおい」


「……あ」


 俺は慌てて手を下ろした。


「すみません! 大丈夫ですか?」


「ああ、怪我はねえ」


 ガレスさんは落ちた木剣を拾い、しばらく眺めた。


 そして。


「……ははっ!」


 豪快に笑い始めた。


「面白え! お前、本当に新人か!?」


「……一応」


「一応って何だよ!」


 ガレスさんは笑いながら俺の肩を叩いた。


「気に入ったぜ、レン!」


 ……なんか、気に入られたらしい。


「エリナの嬢ちゃんには、十分すぎる実力だって伝えとく!」


「ありがとうございます」


「今度、正式に一戦やろうぜ!」


「……機会があれば」


「おう! 約束だからな!」


 ……しまった。


 ちょっと面倒な約束をした気がする。


     ◇


「さて、次は嬢ちゃんだな!」


 ガレスさんがリシアを見る。


「はいっ!」


 リシアは元気よく返事をした。


 だが、その表情が少しだけ曇る。


「……あの」


「ん?」


「私、魔法の制御があまり得意じゃなくて……」


「ほう?」


 ガレスさんが首を傾げた。


「どんな魔法が使える?」


「火の魔法です!」


「なら、魔力の測定から始めた方がよさそうだな」


 ガレスさんは近くの職員を呼んだ。


「おーい! この嬢ちゃん、魔力測定の方を頼めるか?」


「承知しました!」


 職員はリシアを、訓練場の隣にある測定室へ案内した。


 リシアは振り返り、不安そうにこちらを見る。


「レンさん……」


「無理しなくていいからな」


「……はい!」


 俺がそう言うと、リシアは小さく頷いた。


「頑張ってきます!」


 ……大丈夫かな。


 俺はあの火球の暴発を思い出した。


 できれば、今回は何も壊れないでほしい。


     ◇


 数分後。


 測定室の方から、妙な音が聞こえた。


 ぴしっ。


「……ん?」


 続いて。


 ぱきんっ!


「きゃあっ!?」


 聞き覚えのある声。


 ……嫌な予感がする。


 俺が振り返った、その瞬間。


「エ、エリナさーん!!」


 職員が慌てた様子で走ってきた。


「魔力測定器が……!」


「測定器が?」


「壊れました!!」


「…………」


 ……ああ。


 やっぱり。


 俺は思わず額を押さえた。


 しばらくして、測定室からリシアが戻ってきた。


「……レンさん」


「……おう」


「……ごめんなさい」


 彼女はしょんぼりと肩を落としていた。


「また、壊しちゃいました……」


「……怪我は?」


「ありません……」


「なら、よかった」


「でも……」


 リシアは俯いたままだ。


 すると、エリナさんがこちらへ歩いてきた。


「リシアさん」


「は、はいっ!」


 リシアがびくっと肩を震わせる。


「今回の測定器の破損についてですが……」


「……はい」


「測定手順に問題はありませんでした。ギルドの設備が想定した魔力量を超えていた可能性があります」


「……え?」


「したがって、今回は設備側の事故として扱います。弁償の必要はありません」


 リシアが目を丸くした。


「……本当ですか?」


「はい。ただし、今後の魔法使用については十分注意してくださいね」


「は、はいっ!」


 リシアが深々と頭を下げる。


「ありがとうございます!」


 エリナさんは小さく息を吐いた。


「……それにしても」


 眼鏡を直しながら、俺たちを交互に見る。


「あなた方、いったい何者なんですか……?」


「……えっと」


 俺は返答に困った。


 追放された異世界人と、魔力制御が苦手なエルフ。


 それから、謎の白い毛玉。


 ……うん。


 説明したら余計にややこしくなりそうだ。


「……ただの新人冒険者です」


「…………」


 エリナさんは、何とも言えない表情になった。


「……そうですか」


 絶対に納得してないな、これ。


     ◇


 しばらくして、俺たちは受付カウンターへ戻った。


 エリナさんが二枚の小さな金属板を差し出す。


「お待たせしました。こちらが冒険者登録証です」


「おお……!」


 俺は金属板を受け取った。


 表面には、見慣れない文字とギルドの紋章。


 そして、大きく刻まれた『F』の文字。


「お二人とも、Fランクからの開始となります」


「わかりました」


「ただし、レンさんの実技結果と、リシアさんの測定結果については記録を残してあります」


「……記録?」


「はい。今後の依頼やランク昇格の参考になります」


 ……なるほど。


 強いからといって、最初から上位ランクになれるわけじゃないらしい。


「Fランクの方は、まず採集や簡単な討伐依頼から経験を積んでください」


「はい!」


 リシアが元気よく返事をした。


 エリナさんは続ける。


「依頼書は、あちらの掲示板にあります。受注する際は必ず受付へお持ちください」


「ありがとうございます」


「それから、ギルドの規則も確認してくださいね。登録証を貸したり、他人の依頼報告を偽ったりすることは禁止されています」


「わかりました」


 ……結構しっかりしてるな。


 まあ、命に関わる仕事なんだから当然か。


     ◇


「……よし!」


 俺は登録証を眺めながら、思わず笑った。


「これで俺たちも冒険者か」


「はい!」


 リシアが嬉しそうに頷く。


「レンさんと一緒に冒険者になれました!」


「そうだな」


「きゅっ!」


 コルネも袋の中から顔を出した。


「ふふっ! コルネちゃんも冒険者になりたいんですか?」


「きゅぅ!」


 ……いや、お前は登録できないと思うぞ。


 そんなことを考えていると、背後から大きな声が聞こえた。


「おーい、レン!」


 振り返ると、ガレスさんが手を振っていた。


「今度こそ、ちゃんと勝負しようぜ!」


「……はは」


 俺は苦笑した。


「機会があれば、ぜひ!」


「おう! 待ってるぞ!」


 ……この人、絶対に忘れないタイプだな。


 俺は小さく息を吐いた。


 冒険者ギルド。


 想像していた以上に、賑やかで個性的な場所だった。


 だが、これで街で仕事をする手段が手に入った。


 残る問題は、どうやってお金を稼ぐかだ。


「リシア」


「はい?」


「明日は、さっそく依頼を受けてみようか」


「はいっ!」


 リシアは嬉しそうに笑った。


「頑張りましょうね、レンさん!」


「ああ」


 こうして俺たちは、冒険者としての第一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。