三人の老人
グランの家の扉は、木ではなく石で作られていた。
手を当てると、ひんやりとした表面が返ってくる。石灰岩か砂岩か——板状に割った砂岩だ。指の腹を横に滑らせると、細かい砂の粒が皮膚に引っかかる。この厚みで断熱が効く。外の初夏の朝でも、扉の裏側は肌寒いはずだ。
カイは扉をそっと押した。
石の扉は、想像より軽かった。丁番に鉄を使っている。使い込まれた鉄が光を吸っていた。老人が一人で開け閉めできる重さに調整してあるのは実用的だった。扉が石である理由は聞いてみたい気もするが、昨日会ったばかりの老人に「なぜ扉が石なんですか」と朝から問い質すのは順番が違う気がした。
「来い」
中から声がした。グランはカイが来ることを知っていたように、鍋を火にかけていた。
家の中は、昨夜と変わっていなかった。
変わっていないのに、朝の光の入り方が違う。東向きの小窓から朝日が差して、壁の工具に斜めに当たっていた。鑿の列が、昨日より一本増えている。あるいは一本の向きが変わっている。カイは壁を一度だけ見てから、視線を戻した。
グランが鍋の中を木の匙でかき混ぜながら、言った。
「他の二人にも話がある。ここで待て」
「他の二人」
「ロッホとウルフじゃ。このハルムに残っている、じじいの残り二人だ」
じじい。
三人全員か。
追放状に年齢は書いていなかった。書いてほしかった。まあ、書いてあっても来るしかなかったので結果は同じだが。
グランは匙を止めずに続けた。
「ロッホは東の崩れかけた家に住んでいる。元水車大工だ。ウルフは北の石垣沿いに小屋を建てた——建てたというか、石垣の隙間に板を差し込んだだけじゃが。猟師だった。今も罠を仕掛けている」
「三人でここに何年いますか」
グランは少し止まった。
「ロッホが来て十五年。ウルフが来て八年。わしはここで生まれたから、もう六十八年じゃ」
カイは何も言わなかった。六十八年。生まれてからずっとここにいる老人に、追放されたばかりの十五歳が「建て直す」と言いに来た。これはどういう状況なのかを少し考えた。考えるのをやめた。考えても仕方がない。
鍋が沸いた。グランは椀に粥を移してカイの前に置いた。
「食え。話はその後じゃ」
ロッホが来たのは、粥が半分になったころだった。
扉が引かれる前に足音があった——引きずるような歩き方。入ってきた老人は、グランより小柄だった。猫背で、右手に木の杖を持っている。髪は白ではなく、黄ばんだ灰色だった。齢七十を超えているか。顔の皮膚が深く刻まれていて、長年の屋外作業の跡だと分かる。
カイは一瞬だけ右肩を見た。右肩が左より落ちている。長年、重いものを右手で持ち続けた人間の体だった。水車の軸を支える腱の張り方——大工の中でも、重量物を扱う職人の体型だった。元水車大工というのは本当だと分かった。人の体はよく嘘をつかない。
「カイか」
ロッホはカイを見た。値踏みするような目ではなかった。確かめるような目だった。
「そうです」
「センに似てるか」グランに向かって言った。
「似てない」グランは答えた。「背は低いし目の色も違う。じゃが手が大きい。センも手が大きかった」
カイは自分の手を一度だけ見た。
大きいか。言われて初めて考えた。自分ではよく分からない。
ロッホは杖を壁に立てかけ、グランの向かいに座った。
「あんた、建て直すつもりか」
「村長代理です」
「それは聞いた」ロッホは顎を少し上げた。「だから聞いている。建て直すのか」
カイは椀の縁に親指を当てた。ざらついていた。
「建てます」
ロッホは黙った。グランも黙っていた。なかなか景気のいいことを言ってしまった、とは思った。ただ数字の上では成立する。だからそう言った。
ウルフが来たのは、それから半刻後だった。
小さな棚板を小脇に抱えていた。動物の皮が二枚、そこに巻いてある。入ってくるなり棚板をグランの前に置いた。
「罠が二つ取れた。鶏くらいの大きさの鳥が一羽と、あとは兎」
ロッホより背が高かったが、痩せていた。腕だけが節くれ立っている。齢は六十前後か。目は薄い青で、動きが少ない。視線が止まると、動物のように静かだった。皮膚に深い日焼けと細かい傷が重なっている——罠を仕掛けるために毎日藪を歩く人間の体だった。この男は今も、この廃村の周辺を縄張りとして生きている。
ウルフはカイを一度見てから、グランを見た。
この廃村で八年、一人で生きてきた人間の目だ。カイは何も言わなかった。この手の目に余計な言葉は要らない。
「これが村長代理か」
「そうじゃ」
「若い」
「十五じゃ」
ウルフはカイの方へ視線を戻した。
「剣は持っているか」
「持っていません」
「弓は」
「使えません」
「罠は」
「張ったことがありません」
「魔法は」
「強度ゼロです」
ウルフは天井を少し見た。
「……お前は何ができる」
「設計と測量です」
ウルフは少し考えてから、壁に寄りかかった。腕を組んで目を閉じた。猟師は使えない罠に時間を使わない——カイは今、自分が罠の素材として確かめられているのだと思った。設計と測量で村が建つかどうかを、本気で計算しているのだと分かった。素材の評価はウルフに任せることにした。
グランが鍋に残った粥を椀に分けながら、言った。
「カイ。お前に言っておくことがある」
「はい」
「この村は何度も建て直そうとした奴が来た。十七年の間に四人来て、四人とも三ヶ月で諦めて帰った」
カイは何も言わなかった。
「なぜ帰ったと思う」
「物資が来なくなったからですか」
グランは少し動きを止めた。
「第三の月に、王城からの補給が打ち切られる。毎回じゃ。一人目も二人目も三人目も。打ち切られた翌月には誰もいなくなった」
カイは椀の縁に親指を当てた。土焼きの椀の端。ざらついていた。
「今回も打ち切られます」
「おそらくな」
木炭二本を支給してくる王国が、三ヶ月以上補給を続けるとは最初から思っていなかった。その点では予想通りだ。
「分かりました」
誰も何も言わなかった。
沈黙の長さが違った。グランが椀を置く音がした。ゆっくりと、置いた。ロッホが杖を握り直した。一度、二度——杖の表面を指が滑った音だった。ウルフは目を開けなかった。だが腕の組み方が変わった。胸に引き寄せていた腕が、少し緩んでいた。
カイは続けた。
「その前に柱を一本立てます。打ち切られた後は、その柱から始めます」
また誰も言わなかった。
言った本人としても、なかなか景気のいい発言だとは思った。ただ数字の上では成立する。だからそう言った。
カイは椀の残りを飲んだ。麦粥が、胃の底に落ちていった。
昼前に、グランが「外を案内する」と言った。
ロッホは「膝が痛い」と言って居残った。ウルフは皮をなめすと言って小屋へ帰った。
グランとカイの二人で、廃村の中を歩いた。
最初に行ったのは、中央の広場跡だった。草が生えている。石畳がほとんど見えなくなっているが、踏むと固い。広場の縁に石組みの台があった——かつて何かがあった場所だ。露店か、あるいは公告を貼る柱が立っていたか。
「ここは何があったんですか」
「市場じゃ。二十年前まで、月に一度は商人が来ていた」
カイは石組みの台を手で触れた。表面が崩れている。モルタルが剥がれて石の間に隙間が生まれている。基礎石は据わっているが、上が痛んでいる。補修は可能だった。
「次は北の石垣か。お前が朝に歩いた方だな」
「はい」
「見たのか、足で」
「傾斜と地盤を少し」
グランは何も言わなかった。ただ歩き出した。杖はついていない。膝は悪くないらしい——悪いのはロッホだった。グランの歩き方は安定していた。石の上を踏む足の置き方が、どこかカイと似ていた。足裏で地面を確かめながら歩く人間の歩き方だった。
北の石垣は、想像より高かった。
草と蔦が絡まっているが、石積みの層が読み取れた。二十層以上ある。高さで言えば人の背の倍は超えている。モルタルの劣化が激しい部分と、まだ締まっている部分がある。
カイは石垣に近づき、手のひらを当てた。
石は乾いていた。だが指の腹が沈むような感触があった。押していない——石は動いていない。なのに皮膚の下に空洞の感触が来た。石とモルタルの間に隙間がある。その隙間が、指に温度差を送ってきた。内側が外側より二度ほど冷たい。振動も違う。壁全体は風に鈍く揺れているが、この部分だけ揺れが返ってこなかった——浮いている石は、共鳴しない。
「手を離せ」
グランの声が来た。
カイは手を離した。グランが近づいてきて、石垣の上の方を指さした。
「ここからここまで、石が浮いている。押したら崩れる。昨年の霜でモルタルが割れた」
「補修できますか」
「できる。ただし三人では難しい。足場を組んで上から石を据え直す。最低でも五人は要る」
「分かりました」
グランは石垣から離れた。カイはもう一度だけ石垣を見てから、離れた。
五人。まず五人いれば北の石垣は補修できる。
頭の中で計算が動いた。止まらなかった。
東の崩れた家の前を通り過ぎるとき、ロッホが窓から顔を出した。
「どうだ」
「北の石垣が傷んでいます」
「分かってる」ロッホは顎を引いた。「わしが若い頃から傷んでいた。誰も補修しなかった」
「来た四人の管理人が補修しなかったんですか」
「予算がなかった」ロッホは言った。「最初に来た奴は設計図を作った。二人目は石材を発注した。届かなかった。三人目は届いた石材を積んだが、第三の月に補給が打ち切られて石工に給金が払えなくなった。四人目は来てから一ヶ月で手紙を書いて待っていた。返事は来なかった」
四人の先達が四様の方法で壁にぶつかっていた。これだけ揃うと失敗のパターン分析ができる。ありがたい話だった。
カイは黙って聞いた。
「お前は何から始める」
「測量です」
ロッホは少し黙った。
「設計図じゃないのか」
「測量が先です。地図を直します」
ロッホは目を細めた。笑ったのか、呆れたのか、カイには判断がつかなかった。
「グラン、この子は親父に似ていないが、似ているな」
グランは前を向いたまま言った。
「そうじゃ。そういうことじゃ」
昼過ぎ、村の南端を歩いた。
南からの道が入ってくる場所。道幅は北と西の道より広い。商人の荷車が通れる幅だった。カイは歩幅で道幅を測りながら歩いた。十二歩。馬車が二台並んで通れる。
足が止まった。
南道が村に入る手前、道の脇に石が一つ倒れていた。石柱だった。高さ一間ほどの石柱が、根元から折れて草の中に横たわっている。切断面を見ると、折れたのではない——引き倒されている。根元の石の据え方に、外側へ引っ張られた跡がある。
「これは」
グランが隣に来た。
「案内板じゃった。二十年前まであった。『ハルム村、三街道の交点』と書いてあった」
「誰が倒したか分かりますか」
グランは少し間を置いた。
「分からん。気づいたら倒れていた」
カイは石柱を見た。石の表面に、かすかに文字の彫り跡がある。字の向きが見えた——「ハルム」と読めなくもない。
案内板がなければ、旅人はここを素通りする。道がそこにあっても、分岐の意味を知らなければ立ち寄らない。
意図して倒した、か。
なかなか手の込んだことをする、とは思った。倒すにも労力が要る。その労力をわざわざかけた人間がいるということだ。理由は後で考えればいい。今は測量だ。見えていることを数字にする。それが先だった。推測は数字が揃ってから動かせばいい。
「起こせますか」
「二人では無理じゃ。重い」
「測量が終わったら起こします。三人で起こせます」
グランは石柱を見た。
「ウルフが手伝えば。膝が悪いロッホは無理じゃ」
「分かりました」
カイは石柱から離れた。腰の測量紐を取り出して、石柱の根元の位置を確認した。道の中心からの距離を歩幅で測る。数字を地図に書き込む。倒れた石柱の位置が、地図の中に入った。
夕暮れが来る前に、カイは丘陵の上へ戻った。
朝に来た場所とは少し違う。北の石垣の延長線上にあたる丘の中腹だった。そこから村全体が見下ろせた。
廃村だった。正確には、三軒の家と傷んだ石垣と草だらけの広場があるだけだった。
だがカイの目には、別のものが見えていた。
朝より、線が太くなっていた。石垣の延長線が見えた。どこまで伸ばせばいいか、どの角度で曲げればいいか——まだ確定ではない。ただ線が来ていた。地面を透かして、岩盤の輪郭が薄く浮かんでいた。目が乾く感覚があった。まばたきを忘れていた。
道が三本集まっている。
その中心に、建物が来なければならない。人が通り、荷物が動き、宿が要り、倉が要り、道を守るものが要る。
カイは手のひらを開いた。
朝の岩盤の冷たさは、もうない。だが手の平が、その感触を覚えていた。固い地盤が岩盤の近いところで背骨のように走っている——この丘の西側から北の石垣の手前まで。そこを基礎にすれば、重い石を積んでも沈まない。
線が伸びた。
まだ全部ではなかった。おぼろげな部分が多かった。それでも、確かに見えていた。
カイは測量紐を手に巻きながら、数字を頭の中で並べた。
北の石垣の補修に五人。石柱を起こすのに三人。道の測量は一人でできる。最初に要るのは人だった。今は三人の老人だけがいる。
問題ない。来週には終わる。
一つずつだった。
カイは測量紐を腰に戻した。
地図を腰から抜いて、丘陵の輪郭を見下ろしながら、右下の隅を開いた。昨夜書いた「要衝」の文字が、朝の書き込みで少し囲まれていた。
木炭で、丘陵の西側の稜線を一本描き足した。
今日歩いた場所の足裏が、数字を出していた——傾斜と距離と地盤の硬さ。その数字を線に変えた。
太陽が丘の向こうに落ちた。
カイは地図を折りたたんだ。腰に差した。
腰の測量紐の隣に、別の感触があった。革の表紙だった。昨日グランから渡されたものではない——もっと前から持ってきていた、薄い手帳だった。父が使っていたものだった。
親指だけが表紙に触れた。
冷たかった。石よりも、冷たかった。
すぐに手を離した。
今夜は、開く。
あとがき: |
第2話です。三人の老人との出会いを書きました。
グラン・ロッホ・ウルフ、三者三様の「残った理由」が、言葉にならないまま漂っています。
「第三の月に補給が打ち切られる」——カイはすでに知っています。それでも「柱を一本立てます」と言います。
次話もどうかお付き合いください。




