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五百人の声

石の粉が、指先に残った。


砂岩の断面だった。割りたての面は白く、粒が粗い。カイは親指の腹で表面を一度だけなぞった。ざらつく感触が来た——乾いた、重い砂の抵抗だった。第一城壁の石とは違う。南壁で使った砂岩より密度が高い。北側の地盤に噛ませる基礎石には、これで十分だった。


石を置いた。


「この業者のが良い」


グランは横で腕を組んでいた。「西の石切り場からか」


「東の砕石業者より密度が高い。かつてヴァルスの業者との取引が断たれた時期があって、その頃に開拓した別の筋だ。今は安定している。第二城壁の北面と城門の基礎杭に回す」


「値段は」


「ヴィルが交渉している」


グランは鼻から息を出した。「ヴィルに任せれば値を取ってくるのは分かっておる」腕を組んだまま、石の山を見た。百二十尺分の確認済み石材が、広場の東側に積んであった。「城門は北と東の二ヶ所か」


「そうだ。北街道側と東街道側に。幅は二間——荷馬車が二台並べる広さにする」


グランは少しの間だけ、沈黙した。考える沈黙だった。「二間の門を持たせるには、柱の深さが要る」


「四尺で岩盤がある。北側は確認した。東は明日測る」


グランはゆっくり頷いた。承認の沈黙だった。それだけで終わった。




ヴィルが集会所に来たのは昼前だった。


帳面を開きながら入ってきた。歩きながら数字を確認していた——それがヴィルの癖だった。扉を閉める前から口が動いていた。


「カイさん、今日のところで良い報告と、気になる報告があります」


「良い報告から言え」


「分かりました」ヴィルは帳面から目を上げた。「移住者の数です。今朝の時点で、五百二人です」


カイは炭筆を止めた。


五百人。


頭の中で数字が走った。今年の春に石積みを再開したとき、移住者は百三十人だった。夏に二百を超えた。秋に入って三百——それが今、五百を超えた。第一城壁の内側が三百人分の区画で設計されていた。それがすでに超過している。第二城壁の着工は予定通りだったが、数字の伸びが予定より速かった。


「……三日前の報告では四百九十八人だった」


「そうです。昨日と今日で四人増えました。北街道から来た家族連れが二組です。今週だけで七人増えています」


「市場の収入は」


「通行料・宿泊料・市場税の合計で、先月は十四ゴールドです。先月より三ゴールド増えました。宿が三棟ともほぼ埋まっています。長屋の七棟も全部入居済みで、部屋待ちが十一人います」


カイは設計図を見た。第二城壁の外壁線が紙の端まで引かれていた。第一城壁の内側が満員に近い。次の壁を建てれば千人分の区画になる。そこに移住者が流れてくる——流れてくるなら、壁は早く建てるほど良い。


「気になる報告は」


ヴィルは帳面をめくった。「北林です。昨日と今日の二回、同じ場所から誰かが丘陵全体を見ていた形跡があります」


カイは顔を上げた。


「形跡か。確認したのか」


「俺ではなく、移住者の何人かが報告してくれました。北林の東端、切り株が多い場所です。丘陵全体が見渡せる。昨日の昼前に、馬が一頭いたと言っています。今日の朝にも同じ場所に人の気配があったと。装備は見えなかったと言っていますが、荷物が少なかったそうです」


カイは炭筆を机に置いた。


荷物の少ない、馬一頭。丘陵全体が見渡せる場所から二日続けて——商人ではない。商人なら街道を通ってくる。北林の奥に入る理由がない。


「追うな」


「追いませんよ」


「顔の確認だけ頼む。市場の周辺を移住者に巡回させてくれ。同じ顔が市場に来ていたら知らせる」


ヴィルは帳面に書いた。前髪を払った。「つまりこういうことですよね——追わない、動かさない、記録だけする、ということで」


「そうだ。今日の日付と場所、見た者の名前を全部書いておけ」


「了解しました」ヴィルは帳面を閉じた。「……カイさん、これはヴァルスの人間だと思いますか」


カイは設計図を見た。


「分からない。だが隣のノルドからの可能性もある。北街道側から来ているなら」


ヴィルは少しの間、帳面を持ったまま立っていた。「……隣国、ですか」


「まだ分からない。記録を取る」


ヴィルは出口に向かった。扉のところで振り返った。「記録して、何を待ちますか」


「もう一度来るかどうかを待つ」


ヴィルは短く頷いた。扉が閉まった。




午後、カイは現場に出た。


南広場の東、第二城壁の予定地に立った。足の裏から地面の感触が来た——春の湿り気が抜けて、秋の地盤は締まっていた。踏みしめると固い。基礎を入れるには良い時期だった。


フォルスが隣に来た。


大工の男は黙っていた。言葉を出さない職人だった。カイが横に来ると、視線を地面に向けた。それだけで分かっていた。


「ネドとサッカはどうだ」


フォルスは少しの間、考えた。「使えます」それだけ言った。声が低く、短かった。


移住者から出てきた二人の大工だった。ヴィルが拾ってきた。フォルスが現場で確認した。使えると評価が出た——それで十分だった。


「城門の柱枠を先に作ってもらう。北側から始める。材料の寸法は渡してある」


フォルスは頷いた。道具を仕舞う手が動いた。


カイは地面を踏んだ。足の裏が圧力を測っていた——北東の角に近い場所は、わずかに柔らかかった。水脈が下を通っているはずだった。水脈の上に基礎を入れると長雨の後に沈む——父の手帳に、その注意書きがあった。設計図の中で、その水脈の位置に排水路の線が引いてある。基礎の位置を三尺北に動かすことで水脈を避ける。


「北東の角は三尺北に移動する。グラン爺に伝えておいてくれ」


フォルスは頷いた。それだけだった。




夕方になった。


グランが現場に来た。膝を庇いながら歩いていた。杖は使っていなかった——使わない意地だった。カイの隣に来て、設計図を横から読んだ。


「北東角、三尺動かすか」


「水脈がある。踏んで確認した」


グランは地面を一度踏んだ。それだけで分かった——老棟梁の足の裏には六十年分の地盤の記憶があった。「……そうじゃな。ここは湿気が抜けにくい」片方の足を引いて、別の場所を踏んだ。「水脈の上に基礎を入れると、長雨の後に沈む。五年で傾く」


「だから三尺北に動かす。水脈は排水路に転用する。雨水が溜まる場所を逆に使う」


グランは鼻から息を出した。低い、承認の音だった。「三尺北で岩盤は出るか」


「四尺で出る。北側城門と同じ深さだ」


グランはゆっくり頷いた。「矢台はどこに置く」


「北東角の張り出し部に。排水路の石組みは城門北側から北東角を回って北斜面へ続ける——水が流れるなら勾配が要る。一尺で一寸の傾きを入れる」


グランは腕を組んだ。


「親父の図面には水脈の位置はあったか」


「印がついていた。ただ結論は書いていなかった」


「センも北東で悩んでいたな」グランの声が低くなった。父の話が出ると、グランの声はいつもこうなった。「あの男は三日ここを踏んでいた。答えが出なかったと言った」


「出なかったのは時間がなかったからだ。図面を見ると見えている。ただ書いていない——書く前に時間が切れた」


グランはそれ以上言わなかった。


カイは炭筆を出した。設計図の北東角の印を確認した——父の手帳にあった、あの印と同じ場所だった。指先が紙の上の印に触れた。一瞬、止まった。薄い紙の感触の下に、六十年前の炭筆の重さがあった。父が三日踏み続けて、書く前に時間が切れた——その場所に、今カイが線を引く。


続きが、今ここにある。


線を引いた。


「城門の北側基礎杭は八本。深さ四尺。来週の初めに打ち込む」


グランはその線を見た。


「来週か」


「問題ない。来週には終わる」


グランは鼻から息を出した。長い息だった。それが肯定だった。




夜になった。


集会所の炉が熱を返していた。カイは机の前にいた。設計図が広がっていた。


第二城壁の設計を一から確認した。


北面と東面の接続——北東角を三尺北に移動することで、基礎線が少し外側に膨らむ。その膨らみに矢台を置く。城壁の上端から北林の縁まで射線が通るかどうか、角度を計算した。矢の仰角と城壁の高さが釣り合う必要がある。


頭の中で図が開いた。


北林の切り株の多い場所——ヴィルが言っていた場所が、設計眼の中に自然に入ってきた。あそこから丘陵全体が見える。つまり逆に、丘陵の城壁から北林東端が見える。見えるなら、射線が通る。今は弓を持った人間がいないが、いつか来るかもしれない——来たときのために、今から線を引く。


炭筆が動いた。


矢台の張り出し幅を五尺にした。これで北林東端への射線が確保できる。


記録帳を出した。


今日の日付を書いた。北林の偵察者について、移住者の証言を四行で書いた。場所・時刻・人数・装備の状況。確認できたこと、確認できなかったことを分けて書いた。


ヴィルに頼んだ巡回についても書いた。


証明はできない。誰かが来ていた、ということだけが事実だった。その事実を紙の上に置いた。


炭筆を置いた。設計図に目を戻した。紙の端まで線が引かれていた。


五百二人。


その数字が頭の中にあった。五百人が住む場所の壁を建てる。止めようとする者がいるなら、止められないように設計する。


北林の偵察者が隣国からなら、城壁の設計が見える前に建てた方がいい。ヴァルスの人間なら、来週中に城門の基礎杭を打てばもう遅い——基礎が入ったら止めようがない。


来週の工程を頭の中で組んだ。


月曜——北東角の増し掘り。グランを連れて深さを確認する。

火曜——城門北側の基礎杭打ち込み。フォルスとネドとサッカで八本。

水曜以降——第一段の石積み開始。グランが石工の配置を決める。


全部、来週の間に終わる。


炉の石が熱を返した。外は秋の夜だった。冷気が窓の隙間から入ってきていたが、炉の暖かさの方が強かった。


問題ない。来週には終わる。


記録帳を閉じた。


炭筆を道具袋に戻した。設計図を折り畳んだ——折り目が精密に合わさる感触があった。どこにも狂いがない。折り畳んだ設計図を机の端に置いた。


北林に来た者が、明日も来るかどうかを考えた。


来るなら来ても構わない。今夜の設計図の線は、来た者が見る城壁の位置をすでに決めている。追わない。動かさない。記録だけする——それが今できることだった。城壁は毎日一段ずつ積み上がっていく。


外の音がなかった。


ハルムの夜は静かだった。五百人が眠っている静けさだった。最初に来たとき、ここには老人が三人しかいなかった。その静けさとは違う重さがあった——人の数の重さが、夜の静寂に混じっていた。


炉を一度見た。


明日の朝、グランが来る前に北東角をもう一度踏んでおく。足の裏で地盤の感触を確認しておく——三尺北に移動した基線が正しいかどうか、数字より足の裏の方が早く答えを出すことがある。


設計図を一度見た。それから炉を見た。


眠った。



あとがき: |

第15話です。移住者が五百人を超えたハルムで、第二城壁と城門の設計が固まります。北東角の水脈を排水路に転用するカイの設計——父の手帳に印がついていた場所が、今回の基線になりました。そして北林に偵察者の影が見え始めます。追わず、動かさず、記録する。いつものカイの答えです。ここまで読んでくださりありがとうございました。

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