第六話 兵になれ
第六話です。
王都に冬が近づいていた。
朝の空気は冷たい。
吐いた息が白くなる。
それでも少年は木剣を振っていた。
ブォン。
重い音が響く。
以前なら一振りで腕が痺れていた。
今では違う。
何十回も振れる。
それでもなお重い。
まるで木剣そのものが、
「まだ足りない」
と語っているようだった。
「相変わらず馬鹿みたいなことしてるな」
声がした。
振り返る。
あの老人だった。
少年は木剣を下ろす。
「何だよ」
「何だとは酷いな」
老人は笑う。
そしてしばらく木剣を見つめた。
「随分振れるようになった」
「そうか?」
「最初は持ち上げることもできなかっただろう」
図星だった。
少年は黙る。
老人はどこか満足そうに頷いた。
「お前、名は」
少年は少し考えた。
そういえば聞かれたことがない。
「レン」
咄嗟に答えた。
本名だった。
老人は頷く。
「レンか」
そして空を見上げた。
「兵になれ」
少年は眉をひそめた。
「は?」
「兵だ」
「何で」
「強くなりたいんだろう」
即答だった。
レンは言葉に詰まる。
強くなりたい。
考えたことはなかった。
だが木剣を振る理由を探せば、
その言葉が一番近い気がした。
老人は続ける。
「路地裏で木剣を振っていても限界がある」
「兵になれば戦える」
「学べる」
「出世もできる」
レンは鼻で笑った。
「俺みたいな孤児が?」
「先王も若い頃は何も持っておらんかった」
老人は平然と言う。
「だが王になった」
「……」
レンは黙る。
そんな話、信じられなかった。
だが。
一つだけ思うことがある。
もし兵になれば。
戦場に行ける。
あの王が見ていた景色を見られるかもしれない。
その時だった。
遠くから太鼓の音が聞こえた。
ドン。
ドン。
ドン。
王都中に響く音。
市場の人々が足を止める。
兵士たちが走っていく。
「始まったか」
老人が呟く。
「何が」
「徴兵だ」
レンは顔を上げる。
広場の方から声が響く。
『王国軍は新たな兵を募る!』
『年齢問わず!』
『力ある者は集え!』
ざわめきが広がる。
レンの胸が僅かに高鳴った。
老人はそれを見逃さない。
「どうする」
レンは木剣を見る。
先王の木剣。
そして広場を見る。
兵士たち。
軍。
戦場。
知らない世界。
だが。
気づけば足が動いていた。
老人は小さく笑う。
「そうだ」
「その方が面白い」
レンは振り返らなかった。
ただ広場へ向かって歩き出す。
その一歩が。
孤児だった少年の人生を変える最初の一歩になることを。
まだ知らなかった。
第六話でした。
今回は主人公が初めて「兵になる」という選択肢に触れる回でした。
次回からは王都の外、軍の世界へ少しずつ足を踏み入れていきます。
読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




