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王の木剣  作者: 蒼空


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5/11

第五話  初めて倒した相手

第五話です。

夕暮れだった。


少年はいつものように木剣を振っていた。


振る。


振る。


振る。


汗が地面に落ちる。


最初の頃は持ち上げるだけだった。


今では何十回も振れる。


それでも重い。


相変わらず異常な重さだった。


 


「おい」


 


突然声がした。


 


振り返る。


同じ孤児だった。


二人。


いや、その後ろにさらに三人いる。


 


全員年上だ。


 


少年は顔をしかめる。


 


嫌な予感しかしない。


 


「最近景気良さそうだな」


 


「パン屋の婆さんに気に入られてるらしいじゃねえか」


 


笑っている。


 


だが目は笑っていない。


 


少年は無言で木剣を握った。


 


「その木剣売れよ」


 


「どうせ使えねえだろ」


 


一歩近づいてくる。


 


少年は下がらない。


 


すると男の一人が舌打ちした。


 


「やれ」


 


次の瞬間。


 


拳が飛んできた。


 


少年は避ける。


 


だが二人目が横からぶつかる。


 


地面へ倒れそうになる。


 


「っ……!」


 


囲まれた。


 


昔なら終わりだった。


 


殴られて。


 


奪われて。


 


終わり。


 


それがいつもの結末だった。


 


だが今は違う。


 


毎日振った。


 


腕が動かなくなるまで。


 


雨の日も。


 


腹が減った日も。


 


毎日。


 


少年は木剣を握る。


 


そして振った。


 


ブォン。


 


空気が唸る。


 


次の瞬間。


 


「がっ!?」


 


一人が吹き飛んだ。


 


周囲が固まる。


 


殴った本人も固まっていた。


 


木剣が肩に当たっただけだ。


 


それだけなのに。


 


男は地面を転がっている。


 


立ち上がれない。


 


少年は息を呑んだ。


 


自分でも信じられなかった。


 


重い。


 


異常に重い。


 


だからこそだった。


 


振り切った瞬間の威力が違う。


 


「な、なんだよそれ……」


 


残った連中が後ずさる。


 


少年も木剣を見る。


 


木剣。


 


だが本当に木剣なのか?


 


そう思うほどだった。


 


やがて孤児たちは逃げていった。


 


少年だけが残る。


 


静かな路地裏。


 


木剣を見下ろす。


 


老人の言葉を思い出した。


 


――先王の木剣だ。


 


少年は柄を握り直す。


 


「……あんたは」


 


口から言葉が漏れる。


 


「何を考えてたんだ」


 


答えはない。


 


だが不思議と。


 


少しだけ。


 


先王に近づいた気がした。


 


その頃。


 


王城では。


 


若い王子が一人、冷たい広間に立っていた。


 


家臣は少ない。


 


味方も少ない。


 


誰もが王子を見ていた。


 


正確には。


 


値踏みしていた。


 


先王の息子としてではない。


 


利用できる駒として。


 


王子は黙っていた。


 


誰よりも若く。


 


誰よりも孤独だった。

第五話でした。


今回は主人公が初めて木剣の力を実感する回でした。


また、少しだけ王子側の状況も描いてみました。まだ交わらない二人ですが、少しずつ物語の軸が見え始めています。


読んでいただきありがとうございました。


次回もよろしくお願いします。

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