第4話 はじめての依頼(見るな!!)(ルナだけ見ていた)
本作は全35話予約投稿済みですのでエターなるはありません
宿場町に来て、三日目。
俺の「便利屋」としての初仕事は、荷物運びだった。
「カナトさん、依頼が来てるよ」
女将さんが朝食の皿を片付けながら言った。テーブルの端に小さな紙切れを置いていく。
*荷物運び 宿場町・北倉庫→街道沿い食堂 中くらいの木箱ひとつ 依頼人:ズバン*
中くらい。曖昧な表現だった。まあ、やってみるか。
「……やれるかどうかは、やってみないとわかりませんね」
「そうだよ、その通り!」
女将さんが振り向いてうなずいた。俺は何も言っていないつもりだったが、また漏れていたらしい。
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北倉庫の前で待っていたのは、でかい男だった。
身長は俺より頭ひとつ分高い。革鎧をつけた冒険者風の体格で、腕が太い。顔は人懐っこそうで、こちらを見るなり大きく手を振ってきた。
「おう、便利屋か! 俺がズバンだ。よろしく頼むぜ」
「……カナトです」
握手を求められた。断れなかった。
木箱は倉庫の奥にあった。縦横それぞれ二尺くらいの正方形。なるほど「中くらい」。
俺が箱をひとりで持ち上げようとしたとき、ズバンが横から手を貸してきた。
「重いだろ、手伝うよ」
「いや、大丈夫です」
「遠慮すんな。俺が頼んだんだから」
断れなかった。ふたりで抱えると、拍子抜けするほど軽かった。
「……重さは、構えた瞬間が一番重い」
「……なんか、含蓄あるな」
ズバンがぼそっと言った。俺はすでに歩き出していた。
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食堂まで、ゆっくり歩いて十分ほど。
途中、ズバンはずっと話しかけてきた。
「便利屋って何でもやるのか?」「宿場町に来てどのくらいだ?」「前は冒険者だったか?」
俺は短く答えた。追放のことは言わなかった。別に聞かれてもいないし、言う理由もない。
ズバンは俺の反応が薄くても気にしないタイプらしく、一方的に話し続けた。悪い人間ではなさそうだった。ただ、少し根掘り葉掘り聞いてくる印象があった。
「……何か目的があって話しかけてくる人は、だいたい顔に出ますね」
「っ……そ、そうか? 俺そんな顔してるか?」
「いえ」
俺は箱に視線を戻した。ズバンが何か言いかけて黙った。
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食堂の裏口に回ると、先客がいた。
宿場町では見かけない顔。若い女性。薄い灰色のローブを着て、背負い袋を地面に置いて立っていた。
表情がなかった。
怒っているわけではなさそうだった。ただ、特に何も出ていない。涼しい秋の空みたいな顔をして、俺たちを見ていた。
「薬の納品に来ました。裏口が開かなかったので待っていました」
声も平坦だった。
「あ、ルナか。ちょうどよかった、こいつ便利屋のカナトだ」
ズバンが紹介してきた。
「……知り合いですか」
「まあな。ちょくちょく宿場町に来るんだよ、こいつ」
ルナと呼ばれた女性は、俺を見ていた。まばたきが少ない。何かを確認するような目つきだった。
「……」
「……」
視線が長かった。
俺はだんだん落ち着かなくなってきた。こういう視線が苦手だ。じっと見られると、自分がどこに目線を置けばいいのかわからなくなる。
木箱を地面に下ろす動作に集中した。下ろし方がわからなくなってきた。ズバンに手伝ってもらいながら、何とか置いた。
「……見るな!!」
「え」「……」
ズバンが目を丸くした。ルナは表情を変えなかった。
「す、すみません、独り言です」
「うん? 何が?」
「なんでもないです」
背中が熱かった。足が速くなった。裏口から離れながら、今すぐここを立ち去りたいという気持ちだけで動いた。
「お、おい、受け取りのサインもらわないと!」
ズバンが追いかけてきた。
戻った。サインをもらった。帰った。
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女将さんに報告すると、依頼料として銅貨三枚が出てきた。
「どうだった、初仕事」
「……何とかなりました」
「そうかい。また来るといいよ」
俺は部屋に戻った。
扉を閉めて、ひとりになった。
静かだった。
「……静かでいいな」
満足して横になった。
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同じころ。
食堂の裏口近く。
ルナは取り出した小さな手帳を開いていた。
筆を走らせる。
ズバンが覗き込んだ。
「何書いてんだ?」
「記録です」
書かれていたのは、短い一文だった。
*「見るな!!」 ——カナト・ミレル(初観測)*




