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第27話 見てくれる人





「……あ、このコロッケ。美味しいですね」


「ああ、揚げたてで最高だ」


「おすすめだったから、口にあって良かったよ」



 私たちは笹原先輩に奢ってもらったコロッケを食べながら帰路についていた。3人とも和気藹々と食べている仲、木村副会長だけが虚な目をしている。



「どうした? 涼太」

 

「どうしたもこうしたも!! 泥だらけだし! クセェし! 最悪! ほんと、だっせー」



「ださくないよ」



 入江先輩がはっきりとした口調で木村先輩を否定する。



「はぁ? この泥だらけのどこか? イヤミか?」


「だって、理由はどうであれ笹原先輩のために泥だらけになってまで一緒に探してくれたでしょ? 他人のために汚れる人はかっこいいし、すごいよ」



 そう言いいながら木村副会長に笑いかける入江先輩。



「っ……!? は、はぁっ!? そっ……べ、別にっ!! 男に褒められても嬉しくないっつーのっ!」


「お、なんだ涼太。珍しく照れてるのか?」


「ばっ……!! 別にそんなこと!! なんか、調子狂うというか、ムズムズするというか……なんつーか……ああ、もう!! 」



 顔を赤くさせながらやけくそ気味にコロッケを食べる木村副会長。


 うんうん。わかりますよ。副会長。いつも褒められるのは外見と能力だけど今は自分自身を褒められたから照れくさいんですよね?


 そして何より、嬉しい。ちゃんと自分のことを見てくれているようで。



「桐藤さん? どうしたの?」



 無意識に入江先輩のことを見つめていたようで、不思議そうな表情で聞いてきた。



「いえ……少し、副会長がうらやましいな。って」


「?」


「それじゃ、俺と涼太はこっちだから」


「はい、会長、副会長。今日はお疲れ様でした」


「天馬、木村くんも今日はありがとう」


「……涼太でいい。俺もぶんちんって呼ぶし」


「え、あ、それじゃ……涼くん。また来週」


「…………」


「あ、ごめん……どうせなら俺もあだ名で呼びたいなって。嫌だった?」


「は? 別に、嫌って言ってないだろ? 好きに呼べば? じゃ、ぶんちん。また来週な」



 あらあら……副会長があだ名で……会長以外にはそんなことしないのに。


 入江先輩はかなりの『人たらし』のようですね。


 駅の方へ歩いて行ったお二人を見送り、入江先輩と目を合わせる。



「それじゃ、行きましょうか」


「うん」



 私たちは神藤会長たちが向かった方向とは逆方向に向かって歩き出した。



「………………」


「………………」



 沈黙。



 さて、どのような話題を出しましょうか。そう考えた瞬間、沈黙を破ったのは入江先輩の方だった。



「桐藤さん。今日は色々とありがとう」


「いいえ、ですが……流石にドブ池に飛び込んで行ったのは驚きました。お人好しすぎるものいかがなものかと……」



 そう言うと入江先輩は困ったように笑った。



「確かに、利用されたり、傷つくこともあるかもしれない。だけど、それだけじゃない。誰かが見てくれる。天馬や涼くん。桐藤さんのように」



 そう語る入江先輩その瞳は、どこか魅力的で。



「だから桐藤さん。俺のことを見てくれて。ありがとう」



 思わず、息が止まった。



「あ、飲み物買ってくるけど、紅茶で良かった? 今日は色々とお世話になったから奢らせてよ」


「……入江先輩がそうおっしゃられるのなら……せっかくですし、よろしくお願いします」


「了解」




 ……あ、しまった。無糖と伝えるのを忘れてしまっていた。


 正直、ミルクもレモンも砂糖も入れないストレートティ以外はあまり好きではないのですが……仕方がないですね。



「はい、無糖で良かったよね?」


「……え?」



 入江先輩が渡してくれたのは無糖の紅茶。


 ど、どうして……?



「あれ、生徒会室で紅茶飲んでたとき、砂糖もミルクも入れなかったから無糖の方がいいのかなって思ったんだけど、違った?」


「……いいえ、ありがとうございます……ふふ」


「え、ど、どうしたの?」


「いいえ、きっと文学先輩にとっては、なんでもないことなんでしょうね」


「え、あれ……呼び方」


「文学先輩、ミルクティーを一口いただけますか?」


「……もう一口つけてるけど、いいの?」


「えぇ、代わりと言ってはなんですが、私の紅茶を一口差し上げます」


「え、いや……大丈夫だよ!」


「そうですか……私との間接キスなんか嫌……ですよね。すいません」



 文学先輩のミルクティーを受け取りながらしくしくとわざとらしく悲しんだ。



「エッ!? そ、そんなことは……!! あ、間接キスがしたいってわけじゃなくてー」


「ふふ……」



 わたわたとしている文学先輩を見ながら私は先輩のミルクティーの口部に口をつけた。


 やっぱり甘い。


 だけど。たまには甘いのも悪くないのかもしれませんね。





 おまけ




「……ふぅ」


 

 あまりの疲れにベッドに倒れ込んだ。


 ご飯もお風呂も、髪と肌の手入れも済ませたしあとは寝るだけ。


 今日は本当に……色々とあった。



「……文学先輩」



 ふと思い浮かべるもは文学先輩の顔。



「………………」



 イヤフォンをつけてスマホを操作する。



 ピッ



『桐藤さん。俺のことを見てくれて。ありがとう』



「文学先輩……」



 ピッ



『桐藤さん。俺のことを見てくれて。ありがとう』



「…………………………はぁ〜〜〜〜好き」






「ほあああぁああぁああぁ!!! 好き! 文学先輩大好き!! あの真剣な表情!! かっこいい!! 好き! そして何よりあの瞳が好き!! ど、どうしよう!! 泥まみれのあの横顔に一目惚れしちゃった!! いや顔だけじゃないけど!! お人好しなことろもほっとけないし!! 私を見てくれてるところも好きしゅき大好き!! も〜〜!! ぶんがくしぇんぱぁ〜い〜! しゅきしゅきしゅき〜〜〜〜っ♡ らいしゅき〜〜〜っ♡ 」



 ピッ



『桐藤さん。俺のことを見てくれて。ありがとう』


「あー文学先輩の声ってなんでこんなに落ち着くんだろう……絶対に1/fゆらぎじゃんね。うん。絶対にそう。そうに決まってる……もうループ再生にして寝ちゃおうかな……」



 ループ再生に設定し、まどろむ意識の中で思った。



「もっと……バリエーション……を……増やさなきゃ……………」








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