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第28話 人たらし





「や、やほー文くん……ち、ちょっとお話しよー?」


「え? う、うん」



 放課後、帰ろうとしていたところを七瀬たちに呼び止められる。


 隣にいる月見さんがなんだか遠い目をしていた。


 なんだろう……また、天馬と花さん関係で心を抉られることでもあったのだろうか?


 七瀬と芹澤さんが互いを見つめ、合図の様に頷き合い俺をじっと見つめる。



「ここまで、色々なことがあって……私たちのグループにも溶け込んできたでしょ? だからこれからはお昼ご飯だけじゃなくて、放課後4人でどこか遊びに行くのも、いいんじゃないかなって〜」


「え、いいの? 俺、邪魔じゃない?」


「そんなことないよ!! むしろ文くん男子だし、私たちより男子と遊びに行きたいんじゃないのかなって〜」


「まぁ、それはあるけど……俺なんかを誘ってくれるのは七瀬さんたちくらいだし」



 言ってることはくそ情けないが、事実なので仕方がない。



「だから、誘ってくれると嬉しい……です」


「そっか!! それじゃあ、これからは月火水木金土日の予定は空けといてね!!」



 毎日じゃん……



「あ、そうだ! 4人の予定カレンダーアプリで共有しようよ!」


「ひより、それいいね」



 俺の予定、筒抜けじゃん……



「入江、アプリ取るからパスワード教えて」


「え、えっと……さすがに他人に予定がバレるのは」


「123*0#じゃなかった?」


「わ、本当だ……ひより、ナイス」



 俺のパスワードバレてるじゃん……


 渡されたスマホのスケジュールには今後の予定がぎっちりと詰まっていた。



「よし、ミッション『入江囲い込み独占大作戦(放課後予定独占編)』コンプリート。だね」



 え、なにそれ……


 ふと、棒立ちになっていた月見さんと目が合う。



「……月見さん、一昨日のお泊まり会で何かあったの?」


「別に……何もなかった」


「いや、絶対何かあったでしょ!?」


「私はなにも存じ得ない……!!」



 くっ、月見さん。完全に知らぬ存ぜぬを貫くつもりか……!!



「よし、文くん。さっそくこのあとー」


「きゃー! 木村くん!! かっこいいー!」


「えっ! えっ!? 木村くんがどうしてここに!?」



 教室の入り口から黄色い歓声が聞こえた。


 思わず、扉の方へ視線を向けるとどうやらクラスの女子たちが騒いでいるらしい。群がる女子たちの中心にいるのはモデル顔負けの美貌さと高身長そして派手な金髪の男子生徒。



 間違いない。彼は天馬の親友であり、副生徒会長の木村涼太だ。



「私でよければ、お話聞くよ!! 木村くん!!」


「ちょっと!? 私が先に木村くん話しかけてたんですけど!?」


「はぁ!?」



 彼は言い争っている女子たちを無視して教室を見渡した。



「……おっ! いた!!ぶんちん!!」



「「「ぶんちん!?」」」



「ぶんちん!! 最近よく話してる女先輩からボウリング無料券もらちゃってさ!! 一緒に行こうぜ!」


「え、それ俺と行っていいの? 涼くん」



「うそ……あの、木村くんが遊びのお誘い!? しかも自分から!?」


「な、なんで入江なんかと……!?」


「ていうか涼くんってなに!?」



 涼くんお誘いによって女子生徒たちがさらにざわついた。あの、女子生徒の皆さん。視線が怖いです。



「俺、ボーリング苦手でガーターばかりなんだけど」


「大丈夫、大丈夫!! 俺がしっかりやり方とか教えるからさ!!」


「まぁ、それならー」


「ちょっと待って」



 芹澤さんがボーリングへ行こうとする俺を制止した。



「木村涼太……うちの入江とはどういう関係なの?」



 前に出て、キッとした目つきで涼くんを見つめる。


 え、なんでそんな敵意剥き出しなの? あとうちの入江ってなに?



「え? そうだな……ぶんちんとは泥だらけになりながらコロッケを買い食いした仲……か?」


「え? そ、そんな……入江……買い食い……したの? 私以外と……?」



 え、なんでそんなショックを受けてるの?



「ぶ、文くん? りょ、涼くんって……なに?」



 今度は顔面蒼白の七瀬がガシッと力強めで肩を掴んできた。



「え? 木村涼太だから涼くん……安直すぎたかな?」


「そんなことはどうでもいいの!! なんで、その、あ、あだ名……涼くん……ぶんちん……呼び合って? なんで?」


「えと、昨日色々あって、なんか、その場の勢いでお互いあだ名で呼び合うようになって……」


「わ、私のことは七瀬さんなのに……ぶんちん、涼くん……ぶんちん、涼くん……」



 七瀬さん。ロボットみたいになっちゃった……



「まだ負けてない……」


「え? 芹澤さん?」


「木村涼太は男子だし、1億歩譲って入江とたった1日で仲良くなってしまうのはわかる……だから、まだ私たちは負けてない……!!」



 芹澤さんは一体なにと戦ってるんだ?



「そ、そうだよねっ! 10億歩譲っても木村くんは男の子! だから文くんがたらし込んでも問題ないよね!!」



 七瀬まで一体なにを言っているんだ?



「ふ、木村涼太が女子だったら即死だった……ね」








「副会長、居ますか?」



 混沌とした空気の中、ひょこっと廊下から桐藤さんが現れた。



「げ、桐藤ちゃん……」


「あ、やっぱりここに居たんですね」



 腰まである艶やかな亜麻色の長髪と小柄ながらも女性らしさを主張する体躯。そして気品ある姿とお淑やかな振る舞いは3年生だと勘違いをさせるほど、大人びく見える。


 桐藤さんが教室の中に入ると今度は男子たちが騒ぎ始めた。その姿に男子は色目わき立ち、女子さえも憧れの視線を向ける。

 

 涼くんが来た時の反応といい、この二人。なんかアイドルみたいだな。



「文学先輩こんにちは。数日ぶり、ですね」


「こんにちは……どうしてここに?」

 

「文学先輩に会いにきました……と言ったら?」


「え」



 桐藤さんの言葉に思わず固まった。そんな俺を見て彼女はクスクスと微笑む。


 あ、なんだ冗談か。



「副会長、またサボろうとしていましたね? 会長が怒ってましたよ?」


「うげ、てんまっちにもバレてんのか……」


「ええ、ですからここは大人しく生徒会室に行った方が身のためです」


「ぐっ……しょうがないか……あー実務めんどい……ぶんちんとボーリング行きたいー」


「でしたら、文学先輩に実務を手伝ってもらうのはどうでしょう?」



 え。



「おお!! それいいじゃん!! 実務も早く終わるし、その後ボーリングも行けるし!」



 え、え。



「では、そういうことで。文学先輩。お縄についちゃってください♪」


「え、え、え?」



 そう言いながら桐藤さんは笑顔で俺の右腕を自らに引き込むように抱きつく。



「ち、ちょっと!! ちょっと!! ストップ!!」


 

 桐藤さんが現れてから放心状態だった七瀬が復活し、連れて行かれそうな俺の左腕に抱きついた。



「二人とも!! くっつきすぎ!!」



 いや、あの……七瀬さんもすごく俺にくっついてるけど。



「そんなにべたべたするのは良くないと思うな! 周りにか、勘違いされるかもだしっ!」



 そう、まさに今。男子たちから完全に敵を見る目で見られている……冷や汗が止まらない。



「勘違い? あぁ……何も問題ありません。私、文学先輩のこと好きですから」


「先輩として!! 先輩としてだよね!! ありがとう!! 嬉しいなぁ!!」



 信じられないものを見るような目で見てくるみんなに訴える。


 ヤバイ、周りの視線がヤバイ。具体的には女の敵を見るような目だ。間違いない。俺の直感がそう言ってる。



「ね、入江のこと、なんで好きになったの?」



 いつの間にか復活していた芹澤さんが興味ありげに深掘りしてきた。



「え? そうですね。強いて言うのなら……顔、ですね。つまり一目惚れというものでしょうか」


「入江、騙されないで。これはきっと恋愛詐欺的なやつに違いない」


「芹澤さん、結構ひどいこと言ってるよ? 自覚ある?」



 周りのみんなも同意見なのだろう。「なんだ、冗談か」と思ったらしく、敵意が薄れた。



「あの!! 桐藤さんと文くんはどういった関係なのかな!?」


「文学先輩との関係……ですか? そうですね……キスをし合った仲でしょうか?」



「「「は?」」」



 あまりの爆弾投下に七瀬と芹澤さんだけではなく、月見さんまでもが絶句した。



「ち、違う。誤解なんだ……」


「そんな……文学先輩。私、初めてだったのに……そういうことを言うんですね……くすん」


「関節キス!! 関節キスです!!」



 俺は、親の仇を見るような目で見てくる3人娘とクラスメイトたちに命懸けの説明をし始めるのだった。





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