第14話 the key to break the seal
ノアなら何か知っているかもしれない。
いや……リディアの黙示を信じているノアなら気づいているだろう。
「貴殿はどう思う?」
クリスティアンの話をノアに振る。
ノアは、少し困ったように静かに笑みを見せると口を開いた。
「カイ……キミがさっき言った事と同じだよ」
「それはやはり、奴にはリディアのような……いや、それ以上の力を持っているという事か。黙示そのものが自身のものであると」
「だからこそ、こういった戦いが起こるのだろう。他者とは違う何かが、他の何をもを超えられると気づいた時の傾きが何に値するか……じゃないか?」
「ああ……納得だ」
そう答え、迷路をじっと見据える。
迷路……この先に何が起こるか分からない。
クリスティアンが姿を見せないのも意味があるのだろう。
アンダーワールドに堕ちて自分が死んでいる事に気づいた。それが僕の日常と僕の存在が奪われたという、絶望だった。
だが……。
アンダーワールドに堕ちた事が、ここに辿り着くまでの間の事が、平穏だったかのように思えてくる。
戦うという事は日常に組み込まれていた、僕たちにとっての当然だった。
だからこそ予測が出来るのは、物理的な動きだ。
まるで正反対だな……。
姿を見せなくともクリスティアンの存在はこんなにも大きく影響を及ぼしている。
姿を見せない事で影響を大きくしているみたいだ。
その影響がクリスティアンの存在を浮き上がらせている。
概念的な存在の……精神的支配。
それは黙示にしても同じようなものだ。
抽象的にもそこに存在する力が浮かび上がっている。そしてその力は現実に影響を及ぼす。
他者とは違う何かが、他の何をもを超えられると気づいた時の傾きが何に値するか……か。
ノアのその言葉に納得出来たのも。
「レミュ……」
僕は、レミュを撫でるようにそっとアーマーに触れる。
レミュとの出会いが僕を立ち上がらせたからだ。
『じゃあ……手助けしてあげる』
あの時のその言葉が、僕にはなかった力を与えてくれたんだ。
レミュは言葉の代わりなのだろう、ふわりと包むようにも僕に暖かさを感じさせた。
「カイ」
浮かぶ姿とは逆に、ノアの声がはっきりと響く。
ノアが続けた言葉は、レミュの思いでもあるのだろう。
レミュが僕に言葉を返さなかったのも、ノアが答えてくれる事を望んだからだ。
「そう難しい事じゃないよ、カイ。僕がこうしている事が出来るのは、僕一人の力だけじゃない。僕たちにとって超えられると気づいた時に傾いた値とは、理想であり、絶対的に必要なものじゃないかな? それは普通では成し遂げる事が出来ない事を成し遂げる力だ。そういったもの程、死に近い位置にある。だからね、カイ……」
ノア・ハーシェルという男は寛大で、その大きな心が限界という枠を外し、意欲を膨らませる。
シオドアもそうだ。
だから僕は、シオドアの元を離れなかった。
父が死んだ時、シオドアは僕以上に悲しんでいた。僕がシオドアを慰める程にも。
その姿を見て、この人の力になろうと……思ったんだ。
「キミは……キミたちには成し遂げる事が出来る力があるんだよ」
儚げにも笑って見せるノアの姿が消えると同時に、僕たちの持つ武器が光を宿した。
「King……!」
彼を呼び、姿を探すオリヴァーたちは心配そうだったが、ふふっと穏やかに笑うノアの声が近くに聞こえた。
その後、ノアの姿は浮かびはしなかったが、レミュが話す時のようにその声を体で感じた。
(大丈夫……心配しなくていい。約束は守るよ、カイ。キミたちを……ここで待っている)
レミュが小さく猫の鳴き声を上げた。
……レミュ……?
そういえば……あの時もレミュはこんな鳴き声を上げていたな……。
ふと浮かんだ思いに、何か意味があるのかと考え始めた時にラドが僕を呼んだ。
「カイ」
僕の隣に並ぶラドが静かに口を開く。
「窓もない閉鎖空間……暗闇で何も見えなかったが、俺が幽閉された時……あの城のダンジョンには俺しかいなかった」
そう話したラドに、ウェズリーが驚いた様子で口を挟んだ。
「そんなはずはないだろ……俺たちはマスター……いや、Kingは幽閉されたと……だから俺たちはあの城を攻めたんだ」
「ああ。ノア・ハーシェルが城にいたのは間違いない」
「どういう事だ……? グレンフィル……?」
困惑するウェズリーに僕が答えた。
「ダンジョンにはノアはいなかったって事だ」
「それって……」
ウェズリーは疑問を解き合うようにオリヴァーと顔を見合わせる。
二人の表情が変化した。どうやら察したようだ。
確証を促すように僕は言う。
「捕虜ではなかったって事だろ」
「Kingは自らここに……交渉に来たと……?」
そう呟きながらウェズリーの目線はラドに向いていた。
ラドは、ウェズリーと目線を合わせる事はなく、広がる迷路の先を見据えていた。
少ししてふうっと静かに長い息をつくラドは、前を見ながらウェズリーに答える。
「……ああ。交渉の材料に俺は当て嵌まらない。あるとするなら、シオドア・レンフィールド。俺とカイの主の方だ。だが……ノア・ハーシェル……彼は俺を呼びに来たと言った」
「敵地である、窓もない閉鎖空間にKingはグレンフィルと接触出来た……」
オリヴァーは疑問を口にするようにも言うが、その表情は誇らしげで納得しているようだ。
オリヴァーたちの不安は薄れたようだが、ミルドレッドは俯いたままだ。
不安に駆られてワインを煽り、酔い潰れたミルドレッドを部屋に運んだ時を思い返しながら、僕は口を開いた。
『整理がつかないというより、あなたが何を考えているのか分からないだけよ……』
『そんな事はないだろう? 僕は伝わっていると思っているけどな』
『そうやって……あなたもノアも私に選択を委ねる』
『アドゥルタリン キャッスルが完成すれば、はっきりと分かる』
『カイ……どういう事よ……?』
「ミルドレッド。まだ……僕が考えている事が分からないか?」
「……カイ」
ミルドレッドは、ゆっくりと僕を振り向く。
『僕の考えている事が分からないと言うなら、お前は僕を信じていればいい』
「そうじゃないわ。ノアの半分を奪われた事が悔しいだけよ」
「ノアは、お前は目的を果たしたと言っただろ」
「……そうね」
「じゃあ……リディアの邸宅に運んだのは、僕が選んだknightだけだと……お前がそう答えたのは何故だ?」
「それは……カイ。あなたの考えが分かったからよ」
ミルドレッドは、気持ちを入れ替えるように深く息をつくと言葉を続けた。
「言ったでしょう? 私があなたを見つけたのよ。リディアが望んでいる事でもあったからだって。あなたはあの邸宅に迷い込んだと思っていたようだけれど、そこに辿り着く事は決まっていたって」
「ああ」
「リディアの黙示[silent - k ]の『封印』を解く鍵となっていたのは、カイ……あなただったから私は納得出来たのよ」
僕の目をじっと見つめて言ったミルドレッドの言葉に、僕は深く頷いた。
「あなたが言う『棺の部屋』……リディアの邸宅にあるあの部屋は、七つだからよ」




