第12話 The one called : [Wild Hunt] - King of the underworld
笑みを見せて迎えるノアを前に、僕たちは忠誠を誓うように跪いた。
拘束され、項垂れる領主たちを脇目にノアは立ち上がる。
「堅苦しい挨拶は抜きにしようか。信頼はなくてはならないものだが、こうして集まった事がなによりの証だしね。優れたknightとは上下なく同等であるべきだと僕は思っている。マスターの指揮は絶対ではあるが、指示を待つだけが全てじゃない。息を合わせる事は勿論、どう考えているのかを理解出来なければ、マスターの指示は生きないからね。戦術を生かすのも殺すのも互いにあるって訳だし。戦術とは言ったって、それはあくまでマニュアルだから。マニュアル通りじゃ機転が利かないだろう? まあ、これは僕の考え方だけど……キミはどうかな? カイ」
そう言ってノアは僕に手を差し出した。
僕は笑みを返すとノアの手を取り、立ち上がる。
「同感だ」
ノアは満足そうに頷くとオリヴァーたちに目を向け、互いに頷き合った。
「ミリー、キミも」
ノアの声にミルドレッドは歩を踏み出し、僕たちに並ぶ。
ノアの前の揃った僕たちに、領主たちの一人が嘲笑を交え、悪し様に言う。
「ふん……随分と自信があるようだが、お前たち数人で何が出来る。城に攻め入ったとはいえ、これで陥落などと思っている訳じゃないだろうな? 私たちを捕まえたところで収まる話でもない。そもそも、ウィールライトが捕虜を取られようとも、死のうが生きようが気にもならない。身代金など皆無だ。私たちにしたってウィールライトに領地を奪われた身だ、払えるものなどない」
僕は、不満を口にするその領主の前に立った。
「それなら何故、クリスティアンにしがみ付いている? 奴が王座を奪い、王になったとして|feudal noblesになれると本当に思っているのか? そうなれば領地も戻ると? ルーファスの言葉が本当かどうかの見極めもつかないようじゃ、先が思いやられるな」
領主は苛立ちを見せるようにハッと短く息を切ると、言葉を続けた。
「お前たちのような者には分からないだろうな。領地といえど小規模な地に自軍など置ける訳がない。mercenaryを雇うにも常駐させる事は無理だ。身を脅かされる立場になってから雇おうとしたって、その頃にはmercenaryは相手側に雇われ済みで雇えるmercenaryはもういない。居たとしたって戦力など期待出来ないmercenaryだ。そういったところはmilitia で精一杯なんだよ」
気力のない声に溜息が混じる領主に、同情の意も湧かない。
僕は、その領主と目を合わせたが、もう答える事をやめて離れた。
そんな僕の様子に、不満を募らせる領主の言葉を僕は背中で聞く。
「なんだ……? 領主同士が領地を奪い合い、一領主が力を誇示するような事態になったのは、現王に問題があるからだろう! 私たちのような小領主などに手を伸ばす事もない……! 王直下のfeudal noblesでもなければ、視界から外れ、例え見えても見えないふりだ!」
自分の意に沿わなければ非難する。同情でもすれば理解者を得たと多少の気は治まるのだろうが、自分にとっての利が見えない限りそんな思いは消える事はない。不利な状況のままでいる事でさえ、お前たちが悪いと責めるだけだ。
不愉快に思う僕は、肩越しに領主を睨み見ながら答えた。
「与えられる事だけを考えてるから何も手に入らないんだよ。こんな状況に陥る前に、お前たちは何かやろうとしなかったのか? 誰かの所為にして気が晴れるなら、いくらでも吐けばいい。だが……それで現状が変わると思うなよ、所詮、戯言だ、耳を貸す者など誰もいない」
「ふん……じゃあ見せて貰おうじゃないか。お前たち数人でこの状況を変える事が出来るのか……攻城戦まで持ち込んだと、勝機が見えているとでも思っているのか? こんな城が幾つ建っていると思っている? 城を陥落させるごとに戦力が落ちるのは陥落させられた方じゃない。城をどれ程、破壊されようとも、次々と城が建つ事がその証だ。ウィールライトの資金力には圧倒させられる」
領主のその言葉にオリヴァーが呟く。
「ウィールライトを捕えなければ終わりはないって事ね……こいつらを盾に、奴はここにはいないって訳か」
そう呟いたオリヴァーに僕は答える。
「ノアとラドを幽閉する事に意味があったって事だろ……ロイ・ハーシェルとシオドアに交渉を持ち掛けるフリだ。ここに来た者を殺す為にも……な」
「それじゃあ、俺たちは殺される為に来たようなもんだな」
「まだ……続いているようだがな」
そう答えた瞬間、下の方から爆発音が響いた。
その音に領主たちがニヤリと笑みを見せる。
こいつら……初めから……。
次々と爆発音が響き、バリバリと割れる音がする。
上階まで伝わる震動と共に壁に亀裂が這う。
黒色火薬の鼻をつく匂い……。
……ルーファスの仕業だな。
やはり、一人先に逃げていたか。
「私たちがfeudal noblesになる事を望んで従った訳ではない。名を残す事を条件にしただけだ」
……そういう事か。
領主は世襲制、次の代へとその名を残す。
その為に自分の命を引き換えにするとは……。
それが本当に果たされるかどうか確かめる事が出来なくなっても、クリスティアンに命を懸ける事が出来る……それ程に奴に心酔したというのか。
天井が崩れ始め、領主たちの笑い声が崩壊音と共に響くが、僕たちは彼らを冷めた目で見つめていた。
動じる事のない僕たちの様子に、領主たちの笑い声が止まる。
崩れ落ちてくる木材が領主たちを埋めていくが、僕たちには降り落ちてこない。
開いた天井に向かってノアが手を振ると、七頭の馬が飛び込んで来た。
「空から馬……? お前たち……なんだ……?」
現実離れした様に驚き、青ざめた顔で僕たちを見る領主たちに、ニヤリと笑って僕は言う。
「残念だが……お前たちの望む世界はここには無いようだ」
「どういう事だ……?」
領主たちを横目に、僕たちはそれぞれ騎乗する。
「ミルドレッド」
彼女の手を引き、ミルドレッドを僕の前に乗せると、彼らに言った。
「『King of the underworld』この世界の王はノア・ハーシェルなんでね……」
そう言いながらノアへと目線を向けると、ノアは笑みを浮かべた表情で戯けて見せるように両手を広げ、小首を傾げる。
「アンダーワルド……? この世界の王……だと?」
怪訝に眉を顰める領主たちが木材に埋もれていく中、僕たちを乗せた馬が空へと駆ける瞬間に、ノアはクスリと笑って彼らにこう告げた。
「They are the Wild Hunt I called forth」
僕たちが城の外へと飛び出ると、城は大きな音と共に全て崩れ落ちた。
崩れた城から地を這うように浮かび上がった線が、道のように伸びている。
城にあった地下道を示しているのだろう。
これならルーファスが何処にどう逃げたかが分かる。
「じゃあ……」
僕は、先へと伸びる道を見据えながら言葉を続けた。
「ルーファス・ナイトレイ……お前の好む狩りの時間といこうじゃないか」




