第10話 map of the underworld
ルーファスはマスケットを手に取ると肩に担ぐように乗せた。
「安心して? カイ。まだ撃たないよ?」
生かすも殺すも命を握っているのは自分だと、銃を手にしている事が奴を自惚れさせる。
高揚しているのだろう、笑みを浮かべるルーファスに、僕は冷めた目で言う。
「撃っても構わないが」
僕は、ルーファスと対面する位置に立つと剣を向ける。
「ルーファス。お前の狙いが正確なら……な?」
ニヤリと挑発するように口元を歪めて笑う僕に、ルーファスの表情が不機嫌に歪む。
「へえ……? まさか、銃弾を剣で受ける、とか言わないだろーね? プレートアーマーだって貫ける程の威力だよ? 刃毀れどころか、折れて使い物にならなくなったら困るんじゃない? その剣……シオドア・レンフィールドがキミの為に造らせた特別な剣だろ? そのポンメルの中にはカイ……キミの父親の遺骨が入っているんだったよね……? レンフィールドの戦友だったknightly orderのknight commander、|Vince・Whitford。キミが戦場に立つのは、戦いを憎んでいるからだろ。父親の命を奪った戦場にね……?」
まったく……何処まで聞き回ったんだか。
「ふん……別に隠すような事でもないが、人の素性までをもよく喋る」
「知りたいと思っただけだよ。俺は、キミと仲良くなりたかったからね?」
「冗談だろ」
僕は、ルーファスに剣を向けたまま言う。
「だが、まあ……お前の言う通りだよ、ルーファス。その話は本当だ。話のついでだから付け加えておこうか」
「ふうん……? それなら是非、聞かせて貰いたいね? カイが自分の事を俺に話す事なんかなかったからね?」
「じゃあ……少しは黙って聞くんだな。歩兵、騎兵、砲兵……戦闘状況で出撃させるタイミングは絶対だ。タイミングを誤れば、味方でさえも負傷させる。それどころか、敵に押されて出撃させられずに終わる。それだけにその存在は重要だ。指揮する者が欠ける事で、練りに練った戦術も使えなくなる。戦意を失わせるには戦場で兵士を指揮するトップを狙えばいい……それで父は死んだ」
「面白いね、カイ……随分と饒舌じゃないか。それなら……キミを狙うのは意味があったと納得出来るだろ? キミが欠けた後のknightly orderがどうなったか……知りたい?」
「ふん……僕とラドがお前の前にこうして立っている事が事実だろ」
「殺し損ねていたとは。やっぱり……俺が狙うべきだっだね……?」
「まだ……分かっていないようだな、ルーファス」
どうやら、この僕の存在がどういうものなのか、本気で分かっていた訳ではないようだ。
「そっちこそ、分かっていないんじゃないか?」
ニヤリと笑みを浮かべ、ルーファスがマスケットを構える瞬間に。
「シリル……!!」
僕の呼び声が響いた時には、シリルの放った矢がルーファスのマスケットを弾き飛ばしていた。
背後に飛んだマスケットが、ルーファスの後ろ壁を撃ち抜く。
「チッ……!」
手を押さえ、階下を睨む間も僅かに、ルーファスの目線が左右に動く。
他の銃兵のマスケットも連続で放たれた矢で次々と弾かれ、落下してくるマスケットを前へと出たラドとオリヴァーが剣で上へと弾き飛ばし、空中で暴発させた。更に放たれた矢が腕と足を貫き、倒れた銃兵は立ち上がる事も出来ない事に戦意を失ったようだ。その場に崩れ落ちたまま、動こうとしない。
ルーファスにしても、マスケットを直ぐに手にしない。
リロードに時間が掛かる……か。
大量に手に入れる事は出来ても、改良は思った程、進んでいなかったようだ。
まあ……直ぐに撃って来ないのは予想通りだ。
銃の改良云々よりも、隊列を組まない数人の銃兵が現れたところで、発砲リスクが高まるだけだ。
絶対に外せない一発は、指示がない限り撃てはしないだろう。
勝手に撃ち、外せば、その銃兵に後はない。それは敵にどうこうされるという訳ではなく、味方からの吊るし上げだ。
ふん……ルーファスの好みそうな事だ。そもそも奴は、自分に利のない者を信じない。これでマスター気取りとは笑える。
「ルーファス……僕のknightly orderは、僕の指示を待っているだけじゃない。僕が出す指示が分かっているんだよ」
僕を睨むルーファス。さっきまでの余裕な表情は消え、奴は悔しそうにギリッと歯を噛み締めた。
階下へと目線を向ける僕は、合図をするように小さく頷く。
流石だ、シリル。
シリルも頷きを見せると、そっと弓を下ろす。
的を正確に狙い、連続で矢を放つその技術も威力も勿論だが、攻撃に遅れを取らず、先に仕掛けた。
しかも、シリルが真っ先に狙ったのはルーファスだ。
他の銃兵はルーファスがマスケットを構えるより先に銃口を向けていた。ルーファスの発砲を初めに、発砲しただろう。
シリルは、それを間を開けずに次々と阻止した。
「ルーファス・ナイトレイ……僕はどんな時でもお前を真っ先に狙ってやる」
ラドが階下を見下ろし、感歎の声を漏らす。
「ディラック兄弟の連携は完璧だな……」
「グレンフィル……それを見越している、あんたの親友にもだな。その信頼感は俺たちにとっての自信になる」
「カイがレイフと共にウェズリーを武器庫に残した理由って事か?」
「シリルの持つ矢には限りがあるからな。矢を放てば当然、数は減る。肝心な時に矢が尽きて攻撃出来ず、使える武器がなければそこで終わりだ。リッジウェイが武器庫の扉を破った時に見たんだろ。矢が保管されている事に……ウェズリーはその矢をシリルに使わせた」
「セルウェイ、それは少し違うな」
「うん? グレンフィル、何がだ?」
「カイは武器庫の中に矢があるかどうかなんて見てないよ」
「ふ……そっか。そうだったな。あいつは……どう動くかに懸けられるんだった」
「お前たちだって……カイに懸けてくれたんだろ? 俺だってそうだ」
「ウィットフォードは見る目があるな。勿論……俺もグレンフィル、お前もな?」
ラドとオリヴァーの会話を背中で聞く僕は、思わず笑みがこぼれた。
ルーファスはマスケットを拾いあげ、最上階の扉の中へと逃げ込んでいく。
進む際に、ちらりとこっちに動いた目線に、誘っているんだと気づくが。
「どうする? マスター。何か仕掛けがありそうだが」
興味深そうにもニヤリと笑みを見せるオリヴァーに、僕は口を開く。
「仕掛けも何も……なあ、ラド?」
「ああ、そうだな」
僕はレイフとウェズリー、そしてシリルを呼び、彼らが僕たちの元へと来る中、ラドが先に扉の中へと足を踏み入れる。
先へと進むラドは、把握しているだろう。
城塔を繋いでいる通路が何処に繋がるのか。
ルーファス……お前はまだ知らないだろう。
「螺旋を描くは地図を描くってね……」
「はは。螺旋が描く地図って迷宮って事か? マスター?」
「ああ、オリヴァー……だからこそ」
僕はクスリと笑みを漏らし、こう続けた。
「ダンジョン程の迷宮はアンダーワールドに等しい……ってな」




