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[k]night [silent - k - 黙示]  作者: 成橋 阿樹
第二章 命運
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第10話 map of the underworld

 ルーファスはマスケットを手に取ると肩に担ぐように乗せた。

「安心して? カイ。まだ撃たないよ?」

 生かすも殺すも命を握っているのは自分だと、銃を手にしている事が奴を自惚れさせる。

 高揚しているのだろう、笑みを浮かべるルーファスに、僕は冷めた目で言う。

「撃っても構わないが」

 僕は、ルーファスと対面する位置に立つと剣を向ける。


「ルーファス。お前の狙いが正確なら……な?」


 ニヤリと挑発するように口元を歪めて笑う僕に、ルーファスの表情が不機嫌に歪む。


「へえ……? まさか、銃弾を剣で受ける、とか言わないだろーね? プレートアーマーだって貫ける程の威力だよ? 刃毀(はこぼ)れどころか、折れて使い物にならなくなったら困るんじゃない? その剣……シオドア・レンフィールドがキミの為に造らせた特別な剣だろ? そのポンメルの中にはカイ……キミの父親の遺骨が入っているんだったよね……? レンフィールドの戦友だったknightly orderのknight commander(コマンダー)、|Vince・Whitford《ヴィンス・ウィットフォード》。キミが戦場に立つのは、戦いを憎んでいるからだろ。父親の命を奪った戦場にね……?」


 まったく……何処まで聞き回ったんだか。


「ふん……別に隠すような事でもないが、人の素性までをもよく喋る」

「知りたいと思っただけだよ。俺は、キミと仲良くなりたかったからね?」

「冗談だろ」

 僕は、ルーファスに剣を向けたまま言う。

「だが、まあ……お前の言う通りだよ、ルーファス。その話は本当だ。話のついでだから付け加えておこうか」

「ふうん……? それなら是非、聞かせて貰いたいね? カイが自分の事を俺に話す事なんかなかったからね?」


「じゃあ……少しは黙って聞くんだな。歩兵、騎兵、砲兵……戦闘状況で出撃させるタイミングは絶対だ。タイミングを誤れば、味方でさえも負傷させる。それどころか、敵に押されて出撃させられずに終わる。それだけにその存在は重要だ。指揮する者が欠ける事で、練りに練った戦術も使えなくなる。戦意を失わせるには戦場で兵士を指揮するトップを狙えばいい……それで父は死んだ」


「面白いね、カイ……随分と饒舌じゃないか。それなら……キミを狙うのは意味があったと納得出来るだろ? キミが欠けた後のknightly orderがどうなったか……知りたい?」

「ふん……僕とラドがお前の前にこうして立っている事が事実だろ」

「殺し損ねていたとは。やっぱり……俺が狙うべきだっだね……?」

「まだ……分かっていないようだな、ルーファス」

 どうやら、この僕の存在がどういうものなのか、本気で分かっていた訳ではないようだ。

「そっちこそ、分かっていないんじゃないか?」


 ニヤリと笑みを浮かべ、ルーファスがマスケットを構える瞬間に。

「シリル……!!」

 僕の呼び声が響いた時には、シリルの放った矢がルーファスのマスケットを弾き飛ばしていた。

 背後に飛んだマスケットが、ルーファスの後ろ壁を撃ち抜く。

「チッ……!」

 手を押さえ、階下を睨む間も僅かに、ルーファスの目線が左右に動く。

 他の銃兵のマスケットも連続で放たれた矢で次々と弾かれ、落下してくるマスケットを前へと出たラドとオリヴァーが剣で上へと弾き飛ばし、空中で暴発させた。更に放たれた矢が腕と足を貫き、倒れた銃兵は立ち上がる事も出来ない事に戦意を失ったようだ。その場に崩れ落ちたまま、動こうとしない。

 ルーファスにしても、マスケットを直ぐに手にしない。

 リロードに時間が掛かる……か。

 大量に手に入れる事は出来ても、改良は思った程、進んでいなかったようだ。

 まあ……直ぐに撃って来ないのは予想通りだ。

 銃の改良云々よりも、隊列を組まない数人の銃兵が現れたところで、発砲リスクが高まるだけだ。

 絶対に外せない一発は、指示がない限り撃てはしないだろう。

 勝手に撃ち、外せば、その銃兵に後はない。それは敵にどうこうされるという訳ではなく、味方からの吊るし上げだ。

 ふん……ルーファスの好みそうな事だ。そもそも奴は、自分に利のない者を信じない。これでマスター気取りとは笑える。



「ルーファス……僕のknightly orderは、僕の指示を待っているだけじゃない。僕が出す指示が分かっているんだよ」


 僕を睨むルーファス。さっきまでの余裕な表情は消え、奴は悔しそうにギリッと歯を噛み締めた。



 階下へと目線を向ける僕は、合図をするように小さく頷く。

 流石だ、シリル。

 シリルも頷きを見せると、そっと弓を下ろす。

 的を正確に狙い、連続で矢を放つその技術も威力も勿論だが、攻撃に遅れを取らず、先に仕掛けた。

 しかも、シリルが真っ先に狙ったのはルーファスだ。

 他の銃兵はルーファスがマスケットを構えるより先に銃口を向けていた。ルーファスの発砲を初めに、発砲しただろう。

 シリルは、それを間を開けずに次々と阻止した。


「ルーファス・ナイトレイ……僕はどんな時でもお前を真っ先に狙ってやる」


 ラドが階下を見下ろし、感歎の声を漏らす。

「ディラック兄弟の連携は完璧だな……」

「グレンフィル……それを見越している、あんたの親友にもだな。その信頼感は俺たちにとっての自信になる」

「カイがレイフと共にウェズリーを武器庫に残した理由って事か?」

「シリルの持つ矢には限りがあるからな。矢を放てば当然、数は減る。肝心な時に矢が尽きて攻撃出来ず、使える武器がなければそこで終わりだ。リッジウェイが武器庫の扉を破った時に見たんだろ。矢が保管されている事に……ウェズリーはその矢をシリルに使わせた」

「セルウェイ、それは少し違うな」

「うん? グレンフィル、何がだ?」


「カイは武器庫の中に矢があるかどうかなんて見てないよ」


「ふ……そっか。そうだったな。あいつは……どう動くかに懸けられるんだった」

「お前たちだって……カイに懸けてくれたんだろ? 俺だってそうだ」

「ウィットフォードは見る目があるな。勿論……俺もグレンフィル、お前もな?」

 ラドとオリヴァーの会話を背中で聞く僕は、思わず笑みがこぼれた。



 ルーファスはマスケットを拾いあげ、最上階の扉の中へと逃げ込んでいく。

 進む際に、ちらりとこっちに動いた目線に、誘っているんだと気づくが。


「どうする? マスター。何か仕掛けがありそうだが」

 興味深そうにもニヤリと笑みを見せるオリヴァーに、僕は口を開く。

「仕掛けも何も……なあ、ラド?」

「ああ、そうだな」


 僕はレイフとウェズリー、そしてシリルを呼び、彼らが僕たちの元へと来る中、ラドが先に扉の中へと足を踏み入れる。

 先へと進むラドは、把握しているだろう。

 城塔を繋いでいる通路が何処に繋がるのか。


 ルーファス……お前はまだ知らないだろう。


「螺旋を描くは地図を描くってね……」

「はは。螺旋が描く地図って迷宮って事か? マスター?」

「ああ、オリヴァー……だからこそ」

 僕はクスリと笑みを漏らし、こう続けた。



「ダンジョン程の迷宮はアンダーワールドに等しい……ってな」

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