第8話 witch of the apocalypse
挑発に乗らせようとしているのは、ルーファスの性格からして分かっている。
レイフが仕えていた領主を殺し、亡き骸を見せつけたのもレイフがラドと同じに潜入していた事を知っていたからだ。
ルーファスは、再び階段に腰を下ろすと、立てた膝に腕を乗せ、笑みを浮かべた顔で口を開いた。
「この城は入って来る者を拒んでいる訳じゃないよ? 城塞らしく構えてはみたけど、城壁なんて壊したければ壊せばいいし、そこの攻防は配置された奴らがやっていればいい事だしね? まあ、中に入るにはそれなりに困難にはなってるけど。そんな中を抜けて入って来た奴こそ、迎え入れたいといったところかな? ねえ? 左利きのknight……オリヴァー・セルウェイ?」
ルーファスは、オリヴァーの反応を窺っているが、オリヴァーは変わらず奴に目線を向ける事もなく、小さくも鼻で笑う。
何を求めたいのか、言葉が返ってこない事にルーファスは僅かにも顔を歪めると、レイフへと目線を変えた。レイフは感情を抑えてはいるが、ルーファスを睨み続けていたからだろう、更に挑発するようにこう言った。
「領主様直々にお越しになられてね。レイフ・リッジウェイを殺した事を責め立てるもんだから、それなら会えるようにと送ってあげたんだけど、擦れ違っちゃったみたいだね? ああ、それとも、領主様が死んだ事で、こうして現れる事が出来たのかな?」
ルーファスの挑発に怒りを抑え込もうと、握り締めた手を震わせるレイフの腕をオリヴァーがグッと掴んだ。
レイフは、分かっていると小さく呟き、目を伏せた。そして、主の亡き骸を抱え上げ、階段を下り始めた。
ルーファスは、気を引かせる手段とばかりに声を張った。
「『黙示の魔女』リディア・ハーシェル」
その言葉には皆、ルーファスに目を向ける以外になかった。
「魔女……だと?」
僕は、不愉快に顔を歪め、ルーファスを見た。
ルーファスはニヤリと笑みを見せ、僕に答える。
「否定するのはそこだけ……ね……? やっぱり本物って訳かあー。それもそうだよね……? 死んだはずの人間が目の前に揃ってるんだから、さ?」
こいつ……リディアの黙示を知っていたから、僕たちを見ても驚かなかったのか。
「王族の中に魔女がいるなんてね、ノア・ハーシェルが継承権を放棄したというなら、同時にハーシェルの名を捨てるべきだったと思うけどね?」
「どういう……意味よ……?」
ミルドレッドがオリヴァーたちの間を抜けて僕の少し後ろに立ち、ルーファスを睨んだ。
「ミルドレッド」
僕は彼女を小声で呼び、肩越しに振り向く。
「大丈夫よ、カイ……私だって冷静よ。あなたたちに言っておいて、私が間違う訳にはいかないわ」
「……ああ、そうだな」
ミルドレッドを見るルーファスは、納得したようにニヤリと笑った。
「ああ……成程ねえ……? 確かにキミには答えた方が良さそうだね?」
ミルドレッドがノアの妹である事に気づいたのだろう。
「それなら答えてくれる? それが邸宅を襲撃した理由にもなっているって事でしょうから」
「そうだね……リディア・ハーシェルが王族にとって重要だったって事かな? それと同時に、次期王となるべき者にとって厄災にしかならない存在って事」
「次期王にとっての厄災……? そんなはずはないわ。次期王はロイ・ハーシェルよ」
「いや……クリスティアン・ウィールライトだよ?」
「何を言っているの……王族に何の関係もないわ」
「関係なんてない方が綺麗だって事だよ」
「関係ない……? 綺麗……? あなた……さっきから何を言っているの? 王族の分家だと吹聴したのはクリスティアン・ウィールライト自身でしょう? それを盾にして挑んできたんじゃないの?」
「黙示って終末に繋がる厄災そのものだろう? 正しく魔女の所業じゃないか」
ルーファスがゆっくりと立ち上がる。
「それに、分家って……血族に限った事じゃないでしょ。『王』なんてものは称号に過ぎない。それは俺たち『knight』にしたって同じと言えるんじゃないか?」
「knightは世襲制じゃない。その者にとっての実力の証だ」
「そうだね、カイ。その通りだよ。だから、俺が言っているのは、王が無能なら、その才ある者にその称号を与えるべきだという意味さ。王の権力が弱体化するのは、戦いを止める術を知らないからだよ? まあ……戦いが始まる事自体が弱体化の証だけどね? そして始まった戦いの中で知るんだよ。誰がその称号に相応しいかってね……?」
ルーファスの後ろに人が数人現れる。
「彼らはその推戴者さ」
その顔触れはクリスティアンと結託した領主たちだ。だが、その中にクリスティアンの姿はない。
クリスティアンに協力する事を決めたのは敗北を認めたからか、元よりそのつもりだったかなんて、こんな状況になってからではどっちにしたって同じ事だ。
「ねえ……カイ? レンフィールドだけが|feudal noblesじゃないだろう? そのfeudal noblesが誰を王としてfeudal noblesでいられるか、じゃない? カイ……レンフィールドの元を離れればknightでいられるかなんて、何処にも保証はないよ? だけど、彼らは現王のfeudal noblesでなくなったとしても、新たな王の元でfeudal noblesを約束されているんだ」
「僕もラドもシオドアの元を離れる気などない。無駄な揺さぶりだ」
「レンフィールドがfeudal noblesでいられなくなっても?」
「大した自信だな、ルーファス。シオドアから全てを奪えると本気で思っているのか?」
「カイ……キミこそ自信があるね?」
「当然だ」
僕は、腰に携えた剣のポンメルにそっと撫でるように触れると彼らに言う。
「答えなくていいが、一応、訊いておこう。王を支えるのがfeudal noblesなら、feudal noblesを支える者は存在するのか?」
僕の言葉に言葉はなくとも、彼らは目線を交わし合っていた。その様子に、疑問を抱き合っているのは見て取れた。
利害の一致は存続の為の条件……だが、やはり揺らぐものがある……か。
思えば、アンダーワールドで僕たち以外のknightは現れていない。
現れたのは重装備のmercenaryとmilitia だ。
そして奴らは靄の中に現れ、靄となって消えた。
……成程。
「銃に頼り過ぎたようだな、ルーファス。銃の多少の改良は進んだとしても、数を増せば増す程の難点があったんだよな……?」
僕は剣を抜き、ルーファスへと向けた。
「一斉に射撃した事で、硝煙で視界が悪くなった。視界の悪さに装填に手間取り、二発目が撃てず、焦った末の装填ミスで暴発の連続だ。歩兵も進めず、その混乱が連携を崩す。そこで互いのグランドマスターの采配が重要になる。そこからは……」
僕が剣を抜いたのを合図に、皆武器を構えた。
レイフも主を階下にそっと寝かせると階段を再び上がり、背に担いでいたポールアックスを手に取り、グッと握り締めた。
僕は歩を踏み出し、階段を上がりながら言葉を続けた。
「『knight』の出番、だろ?」




