第5話 murder citadel
「俺の隣に立つ覚悟はあるか?」
……現れたか。
左利きのknight、オリヴァー・セルウェイ。
オリヴァーが中にいると知っていたウェズリー。
ウェズリーがベイリーで命を落としたなら、オリヴァーが侵入出来たかどうかなど知る事は出来ないだろう。
ウェズリーは地下にも上階にもダンジョンがあると言っていたが、結果的に死体置き場になる場所とも言っていた。
設計図は立体的なものだ。平面的な間取り図でないと中がどうなっているかまでは分からない。
こうして姿を現したオリヴァーにウェズリーが驚喜の声をあげないのも、彼らは僕たちの前に姿を現す前に会っている。
状況把握が出来ていたのも会う事が出来ていたからだ。
オリヴァーはニヤリと笑みを浮かべ、試すかのように僕を見る。
その笑みに、僕は同じように笑みを返して答えた。
「僕の隣は両利き……dual swordのknightなんだ」
「はは。やはり俺と連携は無理か」
僕は、オリヴァーの先を見ながら言う。
「隣に立つも立たないも、連携が重要になるのは、一線の防御に傾いた時だろ。あとは一斉に突撃した瞬間だけだ」
「そうとも限らないだろ。それはその戦術に於いての基本ってだけで、カイ・ウィットフォード……実戦を重ねたあんたには分かっているはずだ。バラバラに散っても、敵に苦戦していれば手助けにも入る。隣に立つなら仲間の動きに合わせられるかは重要だろ?」
そう言いながら階段を下りて来るオリヴァーに反し、僕は階段を上がり始める。
「それを言うなら僕は、何処にでも立てる」
互いに近づいたところで同時に足を止めた。
「それは……右だろうと左だろうと仲間の動きに合わせられるって事だろ?」
僕は、表情を変えずに一歩を踏み出す。
オリヴァーの脇を擦り抜けながら、ちらりと目線を彼へと動かして言った。
「さっきから何を言っている、オリヴァー。見当違いな発言だな」
僕は、オリヴァーの目線を受けながら、階段を上がって行く。
「ふうん……? じゃあ……俺をどう納得させられる?」
オリヴァーは笑みを含んだ声でそう言い、欄干を背もたれにして擦れ違う僕を目で追う。
ノアと会った時、この城は未完成で壁より先に階段が作られていった。
上に行く程、曲線が緩やかで段差は低いが……。
僕は再び足を止め、階下へと目線を向けた後、見上げる。
工夫……か。
あの時もこの階段を上がってみたが……。
城内で戦闘になった場合、階段を下りて来るのは当然、城内の兵士で、侵入して来た者は階段を上がる事になる。右利きの兵士は、右に障害物があれば剣を振れない。
戦うに支障が出ないように造るのは当然だ。
この城の階段は階段幅がそこそこあるが支柱が無く、階下の中央から反時計回りの螺旋階段が上に伸びていく程に広がり、壁に沿って渦を巻いて造られている為、階段を上がって来た者も見える。
だが、左利きのオリヴァーなら上に向かうにも剣を振れるが……オリヴァーは命を落としている。
僕は、構造を再確認するように見回した。
オリヴァーが現れたところは二階辺りだ。
この城は地下を含めて六階層。オリヴァーがいたのは三階層という事になる。僕が今、立っている辺りだ。
階段を下りて来た兵士が剣を振る事が出来ても、オリヴァーに対抗出来ただろうか……。
剣を振り翳すにも階段で戦うには、そう人数は多くないはずだ。人数が多ければそれだけで障害物になる。
何か仕掛けがある……か。
「カイっ……!!!」
その声に僕は目線を向けた。
上階からラドが姿を現した。
『ノアが用意したアンダーワールドのアドゥルタリン キャッスルは、オーバーワールドのアドゥルタリン キャッスルと重なり合う。ミルドレッド、お前のミゼリコルドの一撃で……強制エンカウントだ』
……始まった。
一気に開いた三階の、四階層になる扉から十数人の弓兵が現れ、階段に広がった。渦を巻くように造られただけあって、包囲されたようだ。
……そういう事か。
つまりは、入って来られても構わない、対処可能の殺人城塞。
城内襲撃に対処出来るという事だ。
それもそうだ。
それは僕たちがこの城の中に入った時点で分かる事だった。
城塞は防御に重きを置く。
それなのにこの城は一階に入り口がある。
城への侵入を阻止したいならば、入り口を一階には造らない。
「カイっ……!!」
僕を呼ぶその声が。
いつだって僕を引き寄せるように走らせるんだ。
「ラド!!」
弓兵の矢が、僕とラドへと上下に分かれて向いた。
弓兵の武器はクロスボウだ。
クロスボウは直線を描く。
確かに威力はあるが……。
「レミュ……行くよ」
(はい、サー)
僕は階段を駆け上がる。
ふん……これで難攻不落のつもりか。
確かにクロスボウは殺傷力が高い。
射程距離を考えれば、城内に侵入して来た敵を撃つには適しているだろう。
まあ、当たれば……の話だが。
上下にと一斉に放たれた矢を、僕とラドは矢の威力を断つように剣で弾く。
弓兵が次の矢を放とうと急ぐその隙に、僕は階段を駆け上がりながら、ラドは駆け下りながら弓兵を欄干に追い詰め、斬り倒していく。
欄干へと押され、バランスを崩した弓兵は次々と落下していった。
クロスボウの欠点は、技術のある弓使いたちとは違い、弾幕を張れる程、連続で矢を放てない。それだけに隙間が出来るという事だ。
矢を放つ方向が分散すれば尚更だ。
僕とラドは同時に剣を下ろすと、オリヴァーのところへと歩を進める。
僕は、オリヴァーを真っ直ぐに見て言った。
「オリヴァー……僕もラドも動きに合わせているんじゃない、どう動くかに懸けられるんだ」
僕のその言葉にオリヴァーは、少し寂しげにも見える表情でふっと笑みを漏らした。
レイフたちが階段を上がり、僕たちの元に来る。
レイフがウェズリーの背中をそっと押すと、オリヴァーの隣に立たせた。
オリヴァーは苦笑を漏らし、目を伏せて首を横に振った。
「ウェズリー……俺は誰の期待にも応えられない」
「そんな事を言うなよ、オリヴァー……」
「だってそうだろ。一人で戦って、一人で死んで……いや……戦えてもいないか。連携の取れない俺は……戦えないんだよ」
「だから、お前は何を言っているんだと、僕に何回言わせるつもりだ?」
オリヴァーの目線が僕に向く。
「突き放すなよ、オリヴァー。お前に懸けられる仲間だって、ちゃんといるんだよ」
「ウィットフォード……」
僕は、オリヴァーへと手を差し出した。
「オリヴァー・セルウェイ。僕のknightly orderに加わって欲しい」
少し困惑した表情のオリヴァーを真っ直ぐに見ながら、僕は言葉を続けた。
僕が口にするその言葉は。
「オリヴァー……お前だけが強くなる必要はない。お前の強さは、僕たちが引き出す」
シオドア・レンフィールド。
knightになろうと必死だった僕に、彼が言った言葉だった。
『カイ……お前だけが強くなる必要はない。お前の強さは、お前と共に歩む仲間が引き出してくれるんだ』




