第4話 an unconventional knight
最後の砦……。
そう言われるのも、地下層は城内襲撃を受けた時の最後の逃げ場所であるからだ。
地下だけに堅牢に出来ているという訳だ。
上だろうと下だろうと窓などない閉鎖空間……か。
成程ね。
「……それなら先に地下に向かおうか」
「ウィットフォード……」
「地下にいるんだろ」
「……ああ」
「ウェズリー……ミルドレッドが言っていたんだ。オーバーワールドで命を落とした場所に姿を形作れる意識が現れるってな……」
僕が歩を進めると、皆揃って歩を踏み出した。
「だから俺は……」
「ウェズリー」
僕は、ウェズリーの言葉を止め、彼を真顔で見る。
「お前たちはベイリーにいた。だから僕は、お前にそう訊いただろ。そしてお前はこう答えた。最下層のダンジョンに落とされた、と」
「それが……なんだよ……」
「勘違いしないでくれ。責めて言っている訳じゃないんだ」
「何が言いたいんだよ……?」
困惑したような顔を見せるウェズリーに僕は言った。
「お前たちは命を落としてから最下層に落とされ、その様子を意識が……その姿が見ていたって事なんだよ。だから知っているんだよ……」
僕だってそうだった。
自分が死んでいると気づくまで、その意識は体にあると思っていた。
「お前の親友が中にいるって事を……」
「……そうなんだろうな」
「ウェズリー……」
「だからそんな顔するなって。気づくって意識だろ。だけどその意識って、体とは別であっても自分自身、そのものだろ」
ウェズリーのその言葉にリディアの言葉が重なる。
『アンダーワールドに堕ちて、自分が何者なのかを覚えている者は少ないのよ。人ってね……死ぬかもしれないという事には気づいても、死んだ事には気づけない。気づいていたら死んでいないでしょ? だから彷徨うのよ。何の気も持たず、ただゆらゆらとね。死んだ事に気づけないから自分が何者なのかにも気づけないって訳ね。でも……それもそうよね。だって……気づくって『意識』じゃない?』
あの時も、目が覚めるような思いがしたんだ。
「は……はは」
「ウィットフォード……?」
思わず苦笑した僕を、ウェズリーは不思議そうに見る。
「そうか……そうだよな……お前の言う通りだよ、ウェズリー」
自分が何者なのか……か。
僕たちは地下への入り口へと向かう。
……成程。こういう造りか。
入り口は狭く、地下への階段はない。あるのは梯子だ。
それならば、やはりウェズリーたちはベイリーで既に命を落としていた事だろう。
瀕死であったとしても、敵を背負って梯子で下りる訳がない。ウェズリーたちはここから落とされたのだろう。そしてダンジョンに運ばれていった。
梯子を下りれば地下層に行けるのだろうが、これでは襲撃のしようがない。
梯子で下りるには両手が塞がれる。
そもそも、城内攻撃とはいえ、地下に逃げた者を追ってまで戦いはしない。
下りたところで待ち構えていられたら防ぎようがない。
地下に下りるのがこんな梯子であるなら尚更だ。
ノアを捕虜として取られたなら、ノアを地下ダンジョンに連れて行く訳もない。この梯子を見れば、上階に連れて行かれたと気づいただろう。
入り口にはうっすらと灯りがあるが、奥までよく見えないが……。
この入り口を塞いでしまうという手もあるが、おそらく地下道が出来ているはずだ。
僕は屈むと、梯子に手を掛けたまま動きを止めた。
「どうした、ウィットフォード……?」
「まだ……名を聞いていなかったな。お前の親友……」
僕は、梯子を見つめながらウェズリーにそう訊いた。
「ああ、O……」
「|Oliver・Selway」
訊いておきながら僕はそう答えた。
「よく……分かったな」
驚きを見せるウェズリーの声に、僕はゆっくりとウェズリーを振り向いて言った。
「不思議に思っていたんだ。ウェズリー……お前たちが城の中に彼を一人で進めさせたかった理由……確かに彼なら一人の方が向いている。それにオリヴァーが先に中に入ったなら、オリヴァーはお前たちが地下ダンジョンに落とされた事を知り得ないだろう……生きていない限りな……」
僕は、そっと梯子に手を触れた後、下りる事はせずに立ち上がった。
命を落とした場所にその意識……姿が現れる。
現れるとすれば……上階か。
ウェズリーはオリヴァーが命を落としたと知っている。
見ているんだ。その意識が。
オリヴァーも命を落とした後、地下に落とされた……。
「オリヴァー・セルウェイって……」
レイフも知っているようだ。
「領地を転々としていると聞いたな……今はノア・ハーシェルのところだったのか。領主には受け入れられても、彼と共に戦うのは……まあ……難しいだろうな。普通なら連携は出来ない。だから……居づらくなって転々としてたんだろうな」
「ああ。彼の隣に並ぶ者はいない。いや……並ぶ事が出来ない。それは彼の強さを認めるべきものでもあるが、それ以前に彼の隣には誰も並べない、立てない。一斉に突撃など出来る訳もなく、確かに連携は無理だ。オリヴァー・セルウェイは……」
どうりで一人で進んだ訳だ。
「『左利きのknight』だ」
右利きが大半なだけに、左利きは右利きに矯正し、矯正される。だから、左利きで戦う者は殆どといっていない。右手の武器を落とされた時に咄嗟に予備武器を左手で使うくらいのものだ。
連携が取れないというのも、右利きの中に左利きが混ざれば、武器がぶつかり合い、突撃以前に味方同士で負傷する事もある。
歩兵にしても騎兵にしてもそれは同じだ。
オリヴァーは自ら利き手を矯正する事もなく、矯正される事も拒否したのだろう。
だが……。
左利き相手の対戦は動きが読みにくく、強敵だ。
防御に対処しきれないのが殆どだろう。左利きの相手の剣の技術が高ければ高い程に、だ。
ウェズリーの表情に影が落ちる。
「ウィットフォード、リッジウェイ……じゃあ、お前たちも……なのか……」
「俺たちをそいつらと一緒にするなよ。なあ、カイ?」
ニッと笑みをみせるレイフに僕も笑みを見せる。
曲げる事なく自身そのものを武器とする……オリヴァーのそういう思いに僕は好感が持てる。
戦地に立つ以上、強さは必須だ。自身の力を最大限に引き出せるものを潰す事は出来ない。
「ああ、勿論だ。まあ……オリヴァーが僕たちと共に戦ってくれるか、まあ、本人の意思もあるだろうが……」
僕は、ある方向に目線を向けた。
僕の目線を皆が追う。
階段を下りて来るその姿に。
ウェズリーの表情は、僕がラドに再び会えた時と同じ表情だ。
銀髪の左利きのknight……オリヴァー・セルウェイ。
「俺の隣に立つ覚悟はあるか? カイ・ウィットフォード」
オリヴァーのその言葉に、僕はふっと笑みを漏らすと口を開く。
「それはあんたが左利きだから必要な覚悟か? 悪いが、僕の隣は決まっているんだ。だから覚悟はとっくに出来ているんだよ。なにせ……」
僕は、オリヴァーのその先へと目を向けて言った。
「僕の隣は両利き……dual swordのknightなんだ」




