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[k]night [silent - k - 黙示]  作者: 成橋 阿樹
第二章 命運
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第3話 the last stronghold

「ウィットフォード」

 中に入ろうと歩を踏み出したが、ウェズリーはピタリと足を止めた。

「どうした?」

 何か不安な事でもあるのか、表情に翳りが見える。

 シリルがウェズリーの背後に隠れるように下がった。

 ウェズリーは、シリルの頭をそっと撫で、気遣いながらも、言いづらそうに小さく口を開いた。


「シリルはまだ……esquire(エクスワイヤ)なんだ」

 なんだ……そんな事か。

 ウェズリーの不安とは逆に、僕はあっさりと返す。

「そうなのか。それなら内城する前に、立ち位置をはっきりさせておかなけらばならないな」

 あ。言葉が足りなかったか。

 ウェズリーの表情が更に不安を見せた。

「立ち位置って……ウィットフォード……」

 少し強張った顔で僕を振り向くウェズリー。

「心配ないわ。カイは分かってるわよ」

 ミルドレッドがクスリと笑みを漏らす中、僕は答える。


「esquireはknightの従者になるだけに、knightが戦える準備を整える為に共に戦場に向かう。だが、戦いはしない。そもそもesquireはknightの志願者だ。esquireを戦わせるとはノアの采配は流石のものだな。よく人を見ているよ。それともウェズリー、お前がノアに切望したか? ショートボウのあの技術……既にknighかと思ったくらいだ。knightに引けを取らない実力……シリルにはそれだけの才があるって事だろ」

 ウェズリーは、自分が褒められたかのように照れくさそうな顔をし、それを隠すかのようにそっと目を伏せると答えた。

「弟だからって訳じゃないんだ。俺が戦えるのも、シリルがいるから戦える。背後を任せられるんだ」

 僕とウェズリーの会話に、少しホッとしたのか、シリルがウェズリーの影から顔を覗かせる。

 シリルがいるから……か。そうだよな。その思いはよく分かる。

 どんなに強くても一人では戦えない。信じられる者がいる事が、本当の強さを引き出すんだ。


「だから言っているだろ?」

 そう言って僕は、ふっと笑みを見せる。

「ウィットフォード……」

「シリルにはknightに引けを取らない才能があるってな」

 そう言った僕に、ウェズリーは隠さず素直に嬉しそうな笑みを返した。

 自分の事よりもシリルなんだな。


「ウェズリー。僕は再び戦う為のknightly orderをこの地で結成し、共にオーバーワールドに戻る……そう決めている」

「……ああ。レディの黙示を聞いた事がある。だから俺はアンダーワールドに堕ちても冷静でいられたんだ。再び戻る為の条件……だろ」

「ああ、そうだ。僕がこうしているのもリディアのお陰なんだ」

「……レディもこのアンダーワールドにいるって事も……俺たちにとっての後悔だ。マスターは戦地に向かう兵を減らして邸宅に置くような事は出来ないと……自分の家族だけ守る訳にはいかないと、レディの元に兵を置かなかった。レディもそれでいいと……」


 ウェズリーの話に、そっと俯くミルドレッドは、手をグッと握り締めていた。

 ……ミルドレッド。

 ……悔しかっただろうな。守りたいものを守れなかったというのは。

 本当に悔しいんだ。

 僕の目線に気づくミルドレッドは、大丈夫と言うように頷きを見せた。


 ノアがこうして慕われるのも、リディアの理解の深さにも……頭が下がる思いだ。


「リディアはノアの帰りを待っているよ。リディア自身も信じているんだ。[silent - k - ]をね……」

 ウェズリーは、そうかと静かに頷き、真剣な表情で僕に言う。

「[silent - k - ]……レディの黙示は本物だ。俺もシリルもそれを信じていたからだろう、こうしてお前の前に現れる事が出来た。カイ・ウィットフォード、お前の事は以前から知っていた。お前のところの領主とマスターの関係は良好だからな。お前のknightly orderに加わる事に異論はない。だから……」


「分かっているよ、ウェズリー。シリル・ディラックをknightに叙任する」


 シリルは驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔を見せる。僕に向かって深く頭を下げると、ウェズリーに向かって満面の笑みを見せた。

「兄さん……僕も兄さんと同じになれたね」

 よかったな、と、ウェズリーがシリルの頭を撫でた。

 レイフとミルドレッドは、その様子を微笑ましく見ていた。


「じゃあ、私は先に行くわね」

「ああ。頼んだよ、ミルドレッド」

「任せて」

 ミルドレッドは、笑みを見せるとスッと姿を消した。

 僕とレイフは目線を合わせ、頷き合った。

 自信に満ちた、いつものミルドレッドの表情だ。

 どうやら迷いは吹っ切れているようだ。


Valkyrie(ヴァルキリー)を仲間にするとは、ウィットフォードの采配も流石のものだな」

 ウェズリーのその言葉にレイフが、ははっと笑うと彼にこう答えた。


「ミルドレッドは『特別』なんだよ。なくてはならない存在だ」


 ウェズリーは、レイフに笑みを返すとこう答えた。


「ああ。知ってる。レディは、妹が側にいるから大丈夫だと言っていたからな」



 城の中へと入った僕たちは、周囲を警戒する。

 ノアに会ったあの時のように、城の中に入った途端、扉が独りでに閉まった。

 向かうは上階だが……。

 人の気配はまだ感じられない。この城がオーバーワールドの城と繋がるのは、ミルドレッドがミゼリコルドを使った瞬間だ。

 その瞬間に戦闘になるだろう。

 階段へと向かう中、僕はウェズリーに訊く。

「お前たちが現れたあの場所はキープであるこの主塔から少し離れている。ベイリー……中庭か」

「ああ。城壁はトレビュシェットを使ってartillery(アーティレリィ)が破壊した後、その混乱の中に俺たちはベイリーに入った」

 artillery……砲兵だ。

 レイフが関心を示し、ウェズリーに言う。

「トレビュシェット……カタパルトを改良した投石機か。城壁を破壊出来る程のカウンターウェイトとなると、かなり大型だな」

「そうだな。マスターのartilleryは優秀だ。大型なだけに完成型では運べないからバラして運び、その場で組み立てる。城壁を破壊されると、その周辺を守っていたmercenary(マーセナリー)の戦意は一気に落ちるからな」

「ふん……逃げるだろうな」

 そう答えた僕に、ウェズリーはニッと笑みを見せる。

「当然。まあ、俺でも逃げるけどね」

「逃げる意味が違うだろ」

「はは。まあな」

「じゃあ……お前たちはベイリーで?」

 僕がそう訊くとウェズリーは、どうかなと小首を傾げ、意味を含めた笑みを漏らすとこう答えた。


「この城は最上階がダンジョンだが、最下層にもダンジョンがある。撃たれた後、まだ息があったからな……俺たちはそこに落とされた」

 ウェズリーのその言葉に、僕は嫌悪に顔を歪めた。


 僕の表情にウェズリーは、ははっと笑うと、笑みを見せたままこう答えた。



「今更だろ。そんな顔するなよ、ウィットフォード。敵だろうが味方だろうが、結果的に死体置き場になる場所……だが、そこは『最後の砦』だ」

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