第2話 the fourth and fifth
馬を走らせ、僕たちはアドゥルタリン キャッスルに向かった。
邸宅の時計があの日から三度目の時を知らせた時、レミュがハーフプレートアーマーに変わり、僕は部屋を出た。
僕たちがエントランスホールに集まった時も、邸宅を出る時もリディアは姿を見せなかったが、リディアの思いは伝わっている。
戦いに向かう時の見送りは、激励なんてものもなく、歓喜に満ちるものでもない。その逆だ。
生きて帰れるという保障はないだけに、身内からの見送りは、まるで葬送のようだ。
正直、そんな暗い空気感の中で出向きたくはない。戦場に出向く事はイメージを死に傾ける。生きて帰って来た時は歓喜に満ちるが、これが敗戦となった場合、生きて帰って来たのが不名誉で、死んだ者が英雄になる馬鹿みたいな話だ。負けて帰って来れば、行きも帰りも空気が重いという訳だ。
戦場に立つ者の精神状態が保たれるのは。
僕は、ちらりとレイフに目線を向けた。
僕の目線に気づくレイフは、ふっと笑みを見せる。
共に戦う仲間がいるからだ。
「カイ。馬を止めて」
ミルドレッドの声に、僕は手綱を引き、馬を止めた。
どうしたんだと、レイフも馬を止め、僕たちは前を見据えた。
アドゥルタリン キャッスルを目前に馬を止めた僕は、ミルドレッドを馬上に残し、レイフと共に下馬すると歩を進めた。
濃い靄が玉のように浮き上がっている。
その中から聞こえる、ビュンと重く、鋭くも風を切るような音……武器を振っているのか……?
僕とレイフはその様をじっと見つめていたが、風を切るような音の間隔が長くなっていくと同時に靄が薄くなっていく。
パシュッと上へと、靄を破るように何かが突き抜けた。
その瞬間、靄が弾けるように消えていく。
消えた靄の中に見えたのは。
「……カイ。人だ」
「……ああ」
靄を相手にしていた事で、警戒心はなかった。
それは、その姿を現している事に僕たちと同じ境遇であるだろう事もあるが、アドゥルタリン キャッスルに向かうにあたって、残りのknightを見つける事が出来る確信はあった。
僕とレイフは、その姿へと進める足を速める。
ハーフプレートアーマーに身を包み、武器を手にする姿がはっきりと浮かんだ。
手にする武器は長柄武器の一種で、長柄に三日月型の大きな斧が付いた、バルディッシュだ。
刃が大きく重量がある為、その破壊力はもの凄い。人の骨をも断ち切る程だ。その先端は槍のように尖っていて、突き破る事も出来る。
「あんたら……カイ・ウィットフォードとレイフ・リッジウェイだろ」
どうやら既にこの現状を理解しているらしい。
僕たちを待っていたかのようにも思える。
彼は長柄武器を扱うだけあって、レイフと同じくらいの長身だ。
肩くらいの淡い金色の髪を一つに束ねている、僕たちと同じくらいの歳の男だった。
彼は、バルディッシュを肩に担ぐと名乗った。
「|Wesley・Diracだ。ここで出会う事になった理由は互いに理解しているだろうから、詳しくは省かせて貰うが、俺も『knight』だ。俺たちのグランドマスターはノア・ハーシェル。それだけで簡潔だろう?」
ふっと見せる笑みに、僕は答える。
「ああ、十分だ。だが……」
僕は、彼の背後へと目を向ける。
「もう一人、いるだろ? 姿を隠しているのは僕たちを試しているのか?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべて言った僕の言葉にレイフが、まったくだと言うようにふっと笑みを漏らした。
ウェズリーは、惚けるようにも小首を傾げ、笑みを見せる。
「試しているなら答えようか。靄の中から聞こえた武器の音は二種類……ウェズリー、あんたのそのバルディッシュと」
僕は、言葉を続けた。
「ショート・ボウ。短弓だ」
靄を破るように上に突き抜けたのは矢だ。
参ったというようにウェズリーは、ははっと笑うと肩越しに振り向き、合図した。
ウェズリーの合図に後方からそっと姿を現したが、ウェズリーの影に隠れるように顔を少し出しただけだ。
オドオドとした様子の小柄な男だ。童顔なのか少年にも見えたが……まあ、こうして出会えたんだ、knightであるのは違いない、そう歳は変わらないのだろう。
「|Cyril・Dirac。三つ下の俺の弟だ」
恥ずかしそうにもモジモジとするシリルに代わり、ウェズリーがそう答えると、シリルの頭にそっと手を触れる。
ウェズリーの弟……。二人同時に出会えたのも兄弟だったからなのか。
息が合った戦い方も兄弟ならでは、なんだな。
この様子からして、互いに離れる事はなかったのだろう、命を落とす事になったその時も……。
互いに握手を交わすと、馬の歩調をウェズリーとシリルの歩く速度に合わせ、アドゥルタリン キャッスルへと向かい始める。
シリルは兄のウェズリーから離れようとしない。怯えるようにも見えたその表情は、不安を描いている。
再び会えた思いが、シリルの思いを繋げているんだ。
離れずに兄を守ると……。
宥めるようにもウェズリーはシリルを気遣っている。大丈夫だと繰り返すウェズリーにシリルは頷き続けるが、抱える不安の中にもその目はアドゥルタリン キャッスルを睨むようにも見据えている。
「ウィットフォード……」
アドゥルタリン キャッスルに辿り着き、見上げながらウェズリーは言った。
「俺とシリルはマスターの奪還に向かったが、ループホールからは銃……リロードに手間取っていたように感じたが、銃の数が多かったようだ。バルティザンからの監視を無視出来ないのは分かっていたが、監視があろうが中に入らなければ勝ち目はない」
「監視の目を引き付ける為に囮になったのか」
そう言った僕を、ウェズリーは少し驚いた顔を見せた。
「よく分かったな……」
「無謀と言えば無謀だが、ウェズリーとシリルなら囮になるとはいえ、突破出来る可能性はあっただろう」
「はは。何故、そう思う? こうして死んでいるっていうのに?」
「バルディッシュは刃が厚く、大きいだけに重量がある。それを向かって来る敵の攻撃の数の分、バルディッシュを振れるだろ。さっきの音で分かったよ。シリルもだ。シリルが放つショートボウの音を聞いたのは一回。その一発で牢獄のようにも囲んでいた靄を破った。正確に的を貫ける弓使いだ。弓には技術が必要だろ」
「やっぱり……聞いていた通りだな、ウィットフォード」
「僕に期待するのはまだ早い。もう一人、いるだろ。あの中に。その一人を中に進ませる為にお前たちは囮になった」
「ああ、その通りだよ」
僕たちが話す中、城門が開かれる。
「ミルドレッド。お前はラドのところに向かってくれ」
「分かったわ」
「僕たちは、そのもう一人を探す」
「ウィットフォード……」
「ウェズリー……お前にとってその一人は、ノアと同じくらいに大切な奴なんだろ?」
「ああ」
「僕も同じだ。共に戦って来た親友がこの中にいる。だが……助けに来たんじゃない。僕たちは」
皆同時に歩を進め、その足は地を強く踏んだ。
「再び共に戦う為にここに来たんだ」




