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[k]night [silent - k - 黙示]  作者: 成橋 阿樹
第二章 命運
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第1話 forced encounter

 部屋に戻った僕は、ベッドに寝かされている自分の体に目を向けた。頬に寄り添うようにレミュが眠っている。

 レミュのその姿にふっと笑みが漏れた。

 僕が言った事を気にしてるのか……?


『大丈夫だよ、レミュ。キミは眠って。僕の体が目覚めるように、僕のその頭に夢でも見させてよ』


 ……レミュ。

 眠っているレミュを見つめ、僕はベッド脇の椅子に腰を下ろした。

 天井を仰ぎ、考え始める。

 アドゥルタリン キャッスル……。

 あの時、感じたように、あれは確かにオーバーワールドに繋がるだろう。

 ノアとラドが現れたのがそう明かしている。


 ミルドレッドが言っていた事も。


『このアンダーワールドはオーバーワールドの領土が概ね反映されているわ。だからその意識……オーバーワールドで命を落とした場所に、あなたたちがそうやって形作れる姿が現れる……』


 オーバーワールドに繋がるというのも、初めはそこにいる者が何者だか分からなかっただけに、自身が王であると主張する為にオーバーワールドに出現させるのかと思っていた。

 だが、ノアとラドが現れた事で、オーバーワールドに繋がる事が出来るんだと察したが、今の状況を考えても僕たちはオーバーワールドに戻れない。

 レイフとの話の中で、ノアとラドがあのアドゥルタリン キャッスルに僕たちを招いた意味を考えていた。

 ノアは、明確に伝わる事を言わなかったが、初めに言ったあの言葉が、逆に僕を信じさせた。


『すまなかったね、脅すつもりはなかったんだが、事が事だけに現実味を帯びた状況で話をしたくてね。信じる事よりも疑う事の方が慣れているだろう?』


 現実味を帯びた状況。

 疑う事の方が慣れている……。


 それは空想に対しての理性だ。

 言うならば、伝説に絡むのは神話であり、それが虚構を作る。だが、その中には事実がある。それを考えるのが理性だ。

 僕が、肉体とは別にこうして存在している事も、僕の肉体がここにある事も。


 現実の中に非現実があり、非現実の中に現実がある。


 今、僕がこうしている事は、僕にとっての現実だ。

 クリスティアン・ウィールライト……ルーファス・ナイトレイ。

 お前たちの現実に僕の現実を見せてやるよ。

 そして、この非現実的な世界を現実に変えてみせる。



(サー……お戻りになっていたのですね。すみません、気がつかなくて……)


「いいんだよ、レミュ。気にしなくていいから、ゆっくり眠って」


 笑みを見せながらそう言った僕を、レミュはじっと見る。

「レミュ? どうし……」

 レミュが僕の肩に飛び乗った。

 くるりと襟首に巻き付くように体を僕に預ける。

「……レミュ」


(サー……少しでもお休みになられて下さい)


 この暖かさが心地いい。僕が温度を感じられるのは、レミュがこうして側にいてくれるからだ。

 僕という存在を実感出来る。


「ああ……そうだな。これからが……本番だ」


 ゆっくりと目を閉じる僕は眠気に誘われ、うとうとし始めた。

 夢を見るようにも浮かんでくるのは、あの雨の日の事だ。

 僕たちの領主、シオドア・レンフィールド。ノアと同じくらいの歳の、若き領主だ。その彼の領地にmercenary(マーセナリー)が攻め込んで来た。

 先にinfantry(インファントリー)、即ち、歩兵が迎撃に向かったが苦戦していると、僕とラドは他のknightと共に馬を走らせ、その場に向かった。

 ……そうだ。違和感はその時からあったんだ。


 シオドアのinfantryはそこそこ強く、余程の相手でなければinfantryだけで事足りる。

 僕たちが行った時には、既にinfantryは全滅していた。

 だが、そこにmercenaryの姿はなかったんだ。

 それでも警戒を解く訳にはいかないと周辺を見て回る事にした。

 なにせ広大な領地だ。領地に入るにも門番的な見張りは立てているが、infantryが迎撃に出たくらいだ、そこは突破されている。


 今思えば、クレイグ・バルフォアを奪還しに来たのだろう。

 そして、それをルーファスが手引きしていた。

 クレイグ・バルフォアがシオドアによって拘束されている事を、ルーファスは知っていたという事だ。

 僕でさえ聞かされていなかった事を、いつ何処でどうやって知ったのかだが、シオドアがそれを策としていたなら、抜けがあったとは思えない。

 シオドアは中々の頭脳派だ。誰をどう動かせばいいか、その者の能力を最大限に発揮出来る状況を作る。

 シオドアが僕に話さなかったのも水面下で進めていたからだろう。ラドがFree companyに属する事に至ったのも、シオドアの令あっての事だろうが、ラド一人をそんな危険な任務に就かせるなど、僕がその話を聞いていたなら反対していたし、それが通らないなら僕も行くと言っただろう。


 だが……。

 シオドアに呼ばれ、ラドと共にmercenaryの話があった時、シオドアは僕にこう言っていた。


『カイ……mercenaryの横行にはknightが関わっている。それが誰であるかは予想はついているが、いまだ疑惑に過ぎない。だが……そろそろ尻尾を出してくるだろう。その為の網を張ったからな。後は頼んだぞ』


 ラドと共に話を聞きに行ったのに、シオドアは僕に向けてそう言ったんだ。

『後は頼んだ』……。

 あの時は分かったと普通に聞いていたが、網を張ったのはラドだったんだ。mercenaryとして敵軍に入り込んでいた。

 シオドアとの話は、その報告後の話だったという事だ。

 ……どうりで二人で呼ばれた訳だ。

 そして、その後にルーファス……。探りを入れてきたのは間違いじゃない。

 その後、やたらと僕たちに近づいてきたのも……。



 僕は、ハッとして目を開けた。


(サー……眠れませんか?)


「いや……」


 また繋がった。

 ラドが捕虜になったのは、シオドアに向けての脅迫だ。

 mercenaryとして結果的にFree companyに属する事になったラド……ルーファスは、そのmercenaryがラドかどうかの確信を得る為に近づいてきたんだ。

 だから何を起こそうとしているのかを、僕たちにわざと伝えていた。


(サー……)


 心配そうに僕の顔を覗くレミュをそっと撫でる。

「大丈夫だよ、レミュ。もう直ぐ城が完成する。それは……僕たちのテリトリーになるんだ」



 エントランスホールの時計が時を知らせる。邸宅に戻って来てから三度目に聞く音だ。

 部屋から出る僕たちはエントランスホールに向かい、時を知らせるその音を聞きながら邸宅を出た。



「レイフ、ミルドレッド」

 声を掛ける僕に二人は頷く。

「ああ」

「問題ないわ、任せて」

 二人の返答に僕も頷き返す。


「ノアが用意したアンダーワールドのアドゥルタリン キャッスルは、オーバーワールドのアドゥルタリン キャッスルと重なり合う。ミルドレッド、お前のミゼリコルドの一撃で……」


 言いながら僕は先に馬に跨り、ミルドレッドに手を差し出した。

 ミルドレッドは、うっすらと笑みを浮かべ、僕の手を取る。

 ミルドレッドを前に乗せると、レイフと共に馬を走らせ、僕は言った。



「強制エンカウントだ」

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