第1話 forced encounter
部屋に戻った僕は、ベッドに寝かされている自分の体に目を向けた。頬に寄り添うようにレミュが眠っている。
レミュのその姿にふっと笑みが漏れた。
僕が言った事を気にしてるのか……?
『大丈夫だよ、レミュ。キミは眠って。僕の体が目覚めるように、僕のその頭に夢でも見させてよ』
……レミュ。
眠っているレミュを見つめ、僕はベッド脇の椅子に腰を下ろした。
天井を仰ぎ、考え始める。
アドゥルタリン キャッスル……。
あの時、感じたように、あれは確かにオーバーワールドに繋がるだろう。
ノアとラドが現れたのがそう明かしている。
ミルドレッドが言っていた事も。
『このアンダーワールドはオーバーワールドの領土が概ね反映されているわ。だからその意識……オーバーワールドで命を落とした場所に、あなたたちがそうやって形作れる姿が現れる……』
オーバーワールドに繋がるというのも、初めはそこにいる者が何者だか分からなかっただけに、自身が王であると主張する為にオーバーワールドに出現させるのかと思っていた。
だが、ノアとラドが現れた事で、オーバーワールドに繋がる事が出来るんだと察したが、今の状況を考えても僕たちはオーバーワールドに戻れない。
レイフとの話の中で、ノアとラドがあのアドゥルタリン キャッスルに僕たちを招いた意味を考えていた。
ノアは、明確に伝わる事を言わなかったが、初めに言ったあの言葉が、逆に僕を信じさせた。
『すまなかったね、脅すつもりはなかったんだが、事が事だけに現実味を帯びた状況で話をしたくてね。信じる事よりも疑う事の方が慣れているだろう?』
現実味を帯びた状況。
疑う事の方が慣れている……。
それは空想に対しての理性だ。
言うならば、伝説に絡むのは神話であり、それが虚構を作る。だが、その中には事実がある。それを考えるのが理性だ。
僕が、肉体とは別にこうして存在している事も、僕の肉体がここにある事も。
現実の中に非現実があり、非現実の中に現実がある。
今、僕がこうしている事は、僕にとっての現実だ。
クリスティアン・ウィールライト……ルーファス・ナイトレイ。
お前たちの現実に僕の現実を見せてやるよ。
そして、この非現実的な世界を現実に変えてみせる。
(サー……お戻りになっていたのですね。すみません、気がつかなくて……)
「いいんだよ、レミュ。気にしなくていいから、ゆっくり眠って」
笑みを見せながらそう言った僕を、レミュはじっと見る。
「レミュ? どうし……」
レミュが僕の肩に飛び乗った。
くるりと襟首に巻き付くように体を僕に預ける。
「……レミュ」
(サー……少しでもお休みになられて下さい)
この暖かさが心地いい。僕が温度を感じられるのは、レミュがこうして側にいてくれるからだ。
僕という存在を実感出来る。
「ああ……そうだな。これからが……本番だ」
ゆっくりと目を閉じる僕は眠気に誘われ、うとうとし始めた。
夢を見るようにも浮かんでくるのは、あの雨の日の事だ。
僕たちの領主、シオドア・レンフィールド。ノアと同じくらいの歳の、若き領主だ。その彼の領地にmercenaryが攻め込んで来た。
先にinfantry、即ち、歩兵が迎撃に向かったが苦戦していると、僕とラドは他のknightと共に馬を走らせ、その場に向かった。
……そうだ。違和感はその時からあったんだ。
シオドアのinfantryはそこそこ強く、余程の相手でなければinfantryだけで事足りる。
僕たちが行った時には、既にinfantryは全滅していた。
だが、そこにmercenaryの姿はなかったんだ。
それでも警戒を解く訳にはいかないと周辺を見て回る事にした。
なにせ広大な領地だ。領地に入るにも門番的な見張りは立てているが、infantryが迎撃に出たくらいだ、そこは突破されている。
今思えば、クレイグ・バルフォアを奪還しに来たのだろう。
そして、それをルーファスが手引きしていた。
クレイグ・バルフォアがシオドアによって拘束されている事を、ルーファスは知っていたという事だ。
僕でさえ聞かされていなかった事を、いつ何処でどうやって知ったのかだが、シオドアがそれを策としていたなら、抜けがあったとは思えない。
シオドアは中々の頭脳派だ。誰をどう動かせばいいか、その者の能力を最大限に発揮出来る状況を作る。
シオドアが僕に話さなかったのも水面下で進めていたからだろう。ラドがFree companyに属する事に至ったのも、シオドアの令あっての事だろうが、ラド一人をそんな危険な任務に就かせるなど、僕がその話を聞いていたなら反対していたし、それが通らないなら僕も行くと言っただろう。
だが……。
シオドアに呼ばれ、ラドと共にmercenaryの話があった時、シオドアは僕にこう言っていた。
『カイ……mercenaryの横行にはknightが関わっている。それが誰であるかは予想はついているが、いまだ疑惑に過ぎない。だが……そろそろ尻尾を出してくるだろう。その為の網を張ったからな。後は頼んだぞ』
ラドと共に話を聞きに行ったのに、シオドアは僕に向けてそう言ったんだ。
『後は頼んだ』……。
あの時は分かったと普通に聞いていたが、網を張ったのはラドだったんだ。mercenaryとして敵軍に入り込んでいた。
シオドアとの話は、その報告後の話だったという事だ。
……どうりで二人で呼ばれた訳だ。
そして、その後にルーファス……。探りを入れてきたのは間違いじゃない。
その後、やたらと僕たちに近づいてきたのも……。
僕は、ハッとして目を開けた。
(サー……眠れませんか?)
「いや……」
また繋がった。
ラドが捕虜になったのは、シオドアに向けての脅迫だ。
mercenaryとして結果的にFree companyに属する事になったラド……ルーファスは、そのmercenaryがラドかどうかの確信を得る為に近づいてきたんだ。
だから何を起こそうとしているのかを、僕たちにわざと伝えていた。
(サー……)
心配そうに僕の顔を覗くレミュをそっと撫でる。
「大丈夫だよ、レミュ。もう直ぐ城が完成する。それは……僕たちのテリトリーになるんだ」
エントランスホールの時計が時を知らせる。邸宅に戻って来てから三度目に聞く音だ。
部屋から出る僕たちはエントランスホールに向かい、時を知らせるその音を聞きながら邸宅を出た。
「レイフ、ミルドレッド」
声を掛ける僕に二人は頷く。
「ああ」
「問題ないわ、任せて」
二人の返答に僕も頷き返す。
「ノアが用意したアンダーワールドのアドゥルタリン キャッスルは、オーバーワールドのアドゥルタリン キャッスルと重なり合う。ミルドレッド、お前のミゼリコルドの一撃で……」
言いながら僕は先に馬に跨り、ミルドレッドに手を差し出した。
ミルドレッドは、うっすらと笑みを浮かべ、僕の手を取る。
ミルドレッドを前に乗せると、レイフと共に馬を走らせ、僕は言った。
「強制エンカウントだ」




