第36話 siege warfare
「なあ……カイ。レディは七人の『knight』を集める事を条件の一つとしているんだろ。ラドルを含めて『knight』は四人……残り三人はどうやってって……あっ……そっか……」
レイフをじっと見つめながら話を聞いていた僕の目に、レイフは僕の意図を察したようだ。
言いながらハッとするレイフは、一人頷くと僕にこう答えた。
「ダンジョン……か」
その言葉に僕は頷く。
「そういう事だ」
「幽閉されているのは、ノアとラドルだけじゃないという訳ね……成程、それもそうだな。築城したのも捕虜を取っての交渉がある」
「まあ、幽閉状態かどうかは分からないが」
「既に殺されているって事もあり得るな……それでもアンダーワールドに現れないのは、ノアが言っていた事にあるのか」
「ああ。上であっても下であってもダンジョンには窓などない閉鎖空間……だが、アドゥルタリン キャッスルが完成すれば、城内に入る事が可能になる。城内攻撃も可能だ。あのアドゥルタリン キャッスルこそがノアの『工夫』なんだからな」
「城内攻撃か……」
レイフは僕の言葉を呟くように繰り返し、なにやら考えているようだ。
まあ……レイフが何を考えているかは予想がつくが。
「これは僕たちにとっての好機だ」
にやりと口元に笑みを浮かべて答える僕に、レイフも笑みを見せると言う。
「ああ、そうだな。ルーファスがどんなに銃を準備しようとも、ループホールが定位置だろう。城内での戦闘は近接戦になる。どの程度、改良が進んだかは知らないが、銃を使うにも城内での発砲はリスクが高い。武器庫には大抵、火薬がある。下手すりゃ自分たち諸共吹っ飛ぶからな。そもそも、改良とはいえ、扱い易さを重視したってところだろう、射手の腕は二の次だ。ループホールは一つや二つじゃないってところが、数撃てば当たるってところだろ。近接戦なら俺たちの方が有利だろ」
「外部からの襲撃を抑え、防御に傾くのが要塞だ。城の周囲の守りを固める事を重視しているから、城内は手薄になる。一度でも侵入を許せば一気に崩れ落ちる。雪崩に巻き込まれるようにもな」
「なあ……カイ。辺境領にいる奴が誰だかは知っているか」
「ああ……知っているよ。ノアの話を聞いたからか、この邸宅にいるからか、だんだんと思い出してきたよ。|Christian・Wheelwright。王族の分家だって話だが、不確かなもんだ」
ルーファスは厄介だが、奴一人で出来る事じゃない。Free companyは勿論だが、武器商人との繋がりも、売り込む相手はそれ相応の対価を見込める相手でなくてはならない。それが辺境領のクリスティアン……か。
「カイ、その話だが、そんな話が出たのもクリスティアンの代になってからだ。現王は否定していたようだが、まあ……分家がない事もないだろうが……本当のところはどうかなんて、憶測の域は出ないが……前領主であった父親の死に、クリスティアンが関わってるって話もある。ノアの兄……Royとクリスティアンは同世代で、関係が悪かったって話も聞いたな」
「領地没収の話があがったからだろ。ロイが王になれば、それは決定的な話になる。その前に周囲にいる僕たちを狙って来たんだろ。援軍を期待させず、軍事力を低下させる為にね……」
「ああ。だから俺は奴らの結託を阻止したかったんだ。奴らにとって利害の一致は存続の為の条件だからな……」
レイフは当時の事を思い返しているようだ。
断片的でもあった記憶が次第に繋がっていく。
自分が何の為に戦ってきたのか、戦っていたのか。
そこにあった原因がなんであったのかを思い出しながら、僕は話を続けた。
「クリスティアンの父親のTrevorは戦力を拡大する事に消極的だったんだ。兵士たちの統制も取れず、荒れていたんだよ。国境を守るにも内部が纏まっていないんじゃ守れる訳もない。主に忠誠を誓えない、暴行や略奪を行なっていたのはmercenaryだけじゃなかった。『knight』の名を貶める事になったのはトレヴァーだと言ってもいいくらいだ」
「領主は世襲制だが、義務を果たせないんじゃ没収されても仕方がない。クリスティアンが代を急ぎ継いだって事なら、トレヴァーの死に関わってるっていうのも濃厚になってくるな……」
利害の一致……。
クリスティアンとルーファスが手を組んだのはその時か……。
敵の形が見えてきたな。
アドゥルタリン キャッスルでの戦術を話し合った後、レイフの部屋を出た僕は、エントランスホールの時計の前に立っていた。
この邸宅には時が流れている事を察してはいたが、この時計の針が動いているのを見た事はない。
気づくのはいつだって時計が音を鳴らした時だけだ。
こうして時計を見つめてはいるが、針は十二時を指したまま動きはしない。
ここに戻って来てから、一度時計が鳴ったのを聞いている。
あと二回、この時計が時を知らせれば、大きく事が動き始める。
……いよいよだ。
「ここにいたのね、カイ」
僕を呼ぶ声に振り向いた。
「リディア……」
リディアは僕の隣に立つと、同じように時計を見つめた。
「レミュは?」
「眠っているわ……主人のベッドでね」
「そうか。ノアに会えても……随分と寂しそうだったからな……」
「……そう……でもね、カイ、それは少し違うのよ」
「そうなのか? 辛い思いをしていないなら良かったよ。それで……今の段階でなんだが……僕たちがノアに会ったとはいえ、朗報とは言えない……まあ、でも……気づいていたんだろう? そういうよりも分かっていた。ダイニングでも口遊んでいただろ。ノアから聞いたよ……[silent - k - ]」
「……そう」
時計を見つめながら、呟くように答えるリディアだが、その表情は穏やかな笑みを浮かべていた。
「覚えていてくれたのね」
離れていても通じ合える……か。
「リディア……」
ノアの事をもう少し話そうかと思ったが。
「カイ」
僕が口を開くと同時に、言葉を止めるようにもリディアが僕を振り向いた。
「レミュは主人のベッドで眠っているの」
「さっきもそう言っただろ。それはそうだろう、レミュにとって……」
「あなたのベッドでよ、カイ」
そう言ってリディアは、嬉しそうにもにっこりと笑う。
「レミュが……僕の……?」
「ええ」
「……そうか。レミュ……」
「だから寂しがっていないわ。必ずあなたの力になってくれる」
やはり……リディアには見えているものがあるんだな。
「ノアも力になってくれている。だが、これは命懸けだ」
そう答えた僕にリディアは目線を外す事はなかったが、何も答えなかった。
穏やかとは言えないが、落ち着いた様子ではあった。
少し間を置いて、リディアは静かに頷きを見せた。
「リディア。僕は、オーバーワールドのアドゥルタリン キャッスルごと全てを……」
僕はリディアの目を真っ直ぐに捉え、はっきりとした口調で言った。
それは、レイフと話し合っていた事だ。
「このアンダーワールドに堕とす」




