第6話 fate of death and destruction
「改めて言う。オリヴァー・セルウェイ。僕のknightly orderに加わって欲しい」
オリヴァーの困惑した表情は消えはしなかったが、差し出した僕の手にゆっくりと手を伸ばし、握手を交わした。
「……ウィットフォード」
手を離すとオリヴァーは目を伏せ、静かな口調で話し始めた。
「この城……中に入って分かっただろうが、城外の隙をつけば中に入るのはそう難しくはない。入ったら入ったで、さっきのように弓兵が現れる。クロスボウの殺傷力は確かにあるが、使い方を知れば弓の技術がなくても使える武器だ。当たる事なく外せば、次の矢を放つに手間取るが。ウィットフォード……あんただってそれは分かっただろ」
「……まあな。そう言うって事は、そこは突破出来ていたって訳か」
オリヴァーは、ふっと静かに笑みを漏らすと、目を伏せたまま話を続けた。
「城内に入るまでの攻防はそれなりにあったよ……ウェズリーもシリルもそこで命を落としてるしな……攻城戦は破壊の大きさで勝敗が決まる。城壁を破壊され、城への侵入を許せばそこで終わりだ。捕虜の解放を条件に、それ以上の攻撃を避ける事だって出来るだろ。普通なら……な」
オリヴァーの表情が曇ったままなのは気になっていた。
まあ……自分が死んだと気づいた時のそのショックは確かに大きいが……何故、死んだのかの疑問の答えは、その後の思いを左右する事だろう。
見上げれば上階層の階段の幾箇所かに、石などを落とす殺人孔がある。
城外の攻防は絶対だが、侵入させた事に意味があると思えるが……こういった仕掛けは悪足掻きだ、確実とは言い難い。
オリヴァー程の実力があっても命を落とす。この城には他にも仕掛けがあるのだろう。この城自体がその思惑だ。
「自信を無くすには早いだろ……それでも僕の手を取ったのは何故だ? 僕の言葉に絆されただけか?」
「いや……」
オリヴァーは静かに首を振り、ゆっくりと顔を上げ、僕を見た。
「カイ・ウィットフォード……あんたのknightly orderに加わる事に躊躇いはないし、異論もない。その話ならマスターともウェズリーともついている。あんたに対しての信用なら……さっきの言葉で十分だ」
「じゃあ……真意を聞こうか。お前が何を気にしているのかを……な」
強く、真っ直ぐにオリヴァーを捉える僕の目に、オリヴァーは困ったように深く息をつく。
「この城の仕掛けはこの程度のもんじゃない。先に進めば進む程、トラップを踏む。弓兵とはいえ、たいした技術もない兵士は兵士と呼ぶには余りある。二の矢を放てない弓兵が内城の前線にいるのは何故だと思っている? それも入った瞬間じゃなくて、上階に」
「捕虜が最上階にいるからだろ。城への侵入を許すのも、捕虜を奪還しに来る者を狙っているとしか言いようがないな。城外の攻防が全力なら、侵入して来る者の強さは明らかな事……上に進めば進む程にだ。その者を招いている。上階に向かえば向かえる程の勝利の確信は、油断にも繋がるしな」
「ああ。そして、上階へと向かったのは俺だけという訳じゃない」
ゆっくりと瞬きをするオリヴァーは、再び開けた目を真っ直ぐに僕に向けた。
オリヴァーのその目に言葉が見える。
「……そういう事か。よく分かったよ」
……トラップ、か……。
「油断を促されたと言った方がいいか、オリヴァー。お前の他に中にいたのは」
ゴゴッと静かにも響く城の震動を感じながら僕は答えた。
「ルーファス・ナイトレイだろ」
奴が最大のトラップ……か。
「ノアの援軍としてシオドアのknightly orderも来ていたはずだ。ノア同様、ラドも捕虜に取られていたからな。ラドを奪還しに来たとでも言われたか?」
「ああ、その通りだ」
「ルーファスとの面識は?」
「ここに来るまでなかったな。話は聞いた事はあるが、顔までは……な」
オリヴァーの表情は勿論だが、ウェズリーの表情と重なった事にピンとくる。
「俺は城の間取りを知っていた訳じゃない。その疑問に気づくのが遅かった」
誘導された、か……。
殺される直前で、それがルーファスだと気づいた……。
落下し、命を落としたところが二階辺りだったという訳か。
味方の裏切りは正直、よくある話だ。
命が懸かっているだけあって、敵に味方の情報を伝える事で命を保障される。
それを条件に寝返り、城への侵入を手引きする事もある。
だが……。
ルーファスの場合はその逆だ。
奴が城の中に入るのは簡単な事だ。
ウェズリーたちを手引きしてループホールから狙い易くし、城の中に入るとオリヴァーを導いた。
最上階のダンジョンまで敵兵の攻撃はそれなりにあったのだろうが、相手を信用させる手段としてそれさえも上手く使ったのだろう。
なにせ狡猾な奴だ、最上階に向かうに先に立ったのはルーファスだろう。弓兵の何人かが倒されたフリをしていたなら、二本目の矢を放つ時間を与える事も出来る。
「お前たちのマスター……ノア・ハーシェルを奪還する為にも、受け入れて貰いたい事がある」
僕のその言葉に、オリヴァーたちの表情が真顔になる。
「リディアの[silent - k - 黙示]……お前も聞いた事があるだろう?」
真顔でそう言い、オリヴァーと少しの間、目線を合わせていた。
彼女の黙示を全て耳にした訳じゃないが。
ただ、それでもはっきりと言える事がある。
それは、今から僕がやろうとしている事でもある事だ。
オリヴァーは少し強張った表情で僕を見ていた。
言葉の間が開く中、上階から階段を下りて来る足音を耳にする僕は、間を埋めるようにもふっと笑う。
「おい……ウィットフォード……」
オリヴァーが怪訝に顔を歪める中、階段を下りて来る足音に声が重なる。
「カイ、済んだわよ」
「ああ、そのようだな。ミルドレッド。それで? もう一つの方も問題ないな?」
肩越しに振り向く僕に、ミルドレッドはクスリと笑みを見せた。
「当然でしょ。『半分』もリディアの元に運んであるわ。勿論、カイ……あなたが選んだknightだけ、ね?」
「流石、早いな」
オリヴァーは、僕とミルドレッドを交互に見ると言う。
「ミルドレッド……? その長剣のミゼリコルド……Valkyrieか」
「あら。私だって『knight』よ。ね? カイ」
「はは。勿論だ」
オリヴァーは、納得したように一人頷くと笑みを見せる。
「……成程ね。説得力があるよ、ウィットフォード。言葉だけじゃない事実が、現実としてある事に」
僕は頷き返すと、皆の顔を見ながら言う。
「[silent - k - 黙示]……それは、knightである僕たちが死と破壊から逃れる事など出来ない、絶対的な運命……『|fate of death and destruction《フェイト オブ デス アンド ディストラクション》』だ。だが、それこそが……」
城の震動が次第に大きくなっていく。闇に飲み込まれていくように暗く、暗く……沈んでいく。
驚く者はなかった。
それは、受け止めるべきものが覚悟である事を表している。
「戦いを終わらせる為の最後の戦いになる」




