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[k]night [silent - k - 黙示]  作者: 成橋 阿樹
第一章 使命
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第33話 break the stalemate

「じゃあ……また来るよ。三日後に。ラド……その時はまた僕と……僕たちと」 

「ああ、勿論だ。カイ、レイフ」


 名残り惜しく、後ろ髪を引かれる思いはあったが、僕とレイフは城を後にし、馬へと戻る。


「……ミルドレッド」

 先に戻ったのかと思っていたが、ミルドレッドは馬の傍で僕たちを待っていた。

 浮かない表情のミルドレッドを見ながら、僕は馬の手綱を取る。

「戻るぞ。乗れ」

 声を掛けるとミルドレッドは、ちらりと僕に目線を向けたが黙ったまま馬に乗った。


 ミルドレッドを僕の前に乗せ、レイフと並び、ゆっくりと馬を走らせる。

 僕たちは暫く何も話さなかった。

 ミルドレッドが黙っている事で、彼女の気持ちが伝わってくる。

 理解してはいる事でも、気持ちの整理がつかないのだろう。



「……カイ」

 リディアの邸宅に着く頃、ようやくミルドレッドは口を開いた。

 邸宅の前で馬を止めたが降りる事はなく、彼女の言葉に耳を傾ける。

「リディアはなんて言うかしら」

 廃墟と化したこの邸宅の扉を開ければ、眩いばかりの光が溢れ、リディアがいる。

「ノアに会った事を伝えたら……リディアはなんて言うかしら」

 僅かにも震える声でミルドレッドは言葉を続ける。

「ずっと……待っているのよ。必ず……会えると信じて」

「……ああ」

「必ず……取り戻すと誓って……ずっと待っているのよ」

「ああ」

「それを……私は……」

 ミルドレッドは顔を伏せ、両手を見つめている。


「この手で殺すのよ」


「……ああ」

「カイ……あなただって……私が……私がラドル・グレンフィルを殺すのよ」

 僕は、先に馬を降りた。

 顔を伏せたまま、馬を降りようとしないミルドレッドを見つめ、僕は答える。


「違うだろ。お前は助けるんだよ」


 僕の言葉にミルドレッドは、ハッとした顔で僕を振り向いた。

「僕は間違えない。だからお前も間違っていない。そうだろう?」

「そうだよ、ミルドレッド。カイの言う通りだ。それに……お前は俺たちにとっても『特別』なんだからな?」

 馬を降り、レイフが僕に並ぶ。

「カイ……レイフ……」

「中に入ろう。リディアが待っている」

 僕は、ミルドレッドに手を差し出す。

 少し戸惑いながらもミルドレッドは、差し出した僕の手を取った。

 一つに束ねている彼女の髪が揺れる。


 気づいていた。

 ミルドレッドに会った時に、彼女の雰囲気が近しい事を。それは、ミルドレッドがそうしたかったのだろう。


「その髪……染めているんだろ」

「カイ……気づいていたのね」

「まあな。別に悪いとは言わないが、お前はお前でいいんじゃないか、ミルドレッド」

 ふっと笑みを見せる僕に、ミルドレッドは少し照れ臭そうにも顔を背ける。

「……呆れているんでしょ。そうよ。リディアみたいになりたかったのよ。ノアの妹とは言っても、私は正統じゃないから」

 歩を踏み出し、邸宅の扉へと向かいながら、ミルドレッドは肩越しに僕たちを振り向いて言った。


「だから、リディアの妹でいたかったのよ」


 さっきまでの気弱さを払拭したように、颯爽と扉を開けるミルドレッド。僕とレイフは顔を見合わせ笑みを漏らすと、光が溢れる邸宅へと入って行った。


 邸宅に入るとレミュが姿を戻し、僕の肩に乗った。

 エントランスホールの時計が時を知らせる音を鳴らす。

 ……十二時。一日経ったというのか。

 レミュが肩から下り、先へと向かう。

「レミュ、どうした?」

 レミュの後を追うが、レミュが向かったところはダイニングルームだ。



『エントランスホールの時計が時を知らせるのは十二時だけだ。そして、リディが招くのはディナー』



「どうぞ、座って?」

 リディア……。

 僕たちを誘うように入って行ったレミュは、リディアに抱きかかえられている。

 テーブルの上には豪勢な料理。席に着けばグラスにワインが注がれるが……。

 僕は、溜息をついた。

「……ミルドレッド」

 ワインを注いでいるのはミルドレッドだ。

 切り替え早えーな。

「なに? カイ」

 ミルドレッドは素知らぬ顔で、次にレイフのグラスにワインを注ぎ始める。

「別に。なんでもない」

「そう」

 ワインを注ぎ終えると、ミルドレッドは席に着いた。


 ミルドレッドの髪色はノアと同じ金色の髪だ。

 ……まったく。

 呆れ半分、ホッとしていたが、手酌でワインを飲むミルドレッドにやはり呆れが上回る。

 だけどまあ……。

 ははっと笑う僕をミルドレッドが睨む。

「なによ? カイ」

「いや……」


 強気な態度、堂々とした振る舞い。

 これがミルドレッドだな。

 

 レミュを抱きながら、リディアが微笑ましく僕たちを見つめていた。

 なんだか暖かく包まれる感覚に、思わずグラスを手にする僕だったが、やはり躊躇う。

「少しくらい飲んだって大丈夫よ、カイ。リディアから理由は聞いたでしょう?」

「そうだな……だが」

 僕は、グラスから手を離す。

「やはり、ディナーは全てが終わってからにしよう」

 そう言った僕にレイフが深く頷いた。


 リディアが小さくふふっと笑う。レミュを撫でながらリディアは、静かに口を開いた。

 流れるように続けられるリディアの言葉は。

 まるで優雅な音楽でも聴いているかのようだ。

 だが……。

 僕たちは黙ってリディアの声に耳を傾ける。

 抽象的だがそれでいて真実を明かす不思議な言葉だ。



「王の印をつける者……契約の箱は奪わんとする者の手によって開けられ、中身が飛び散る。散った中身は善と悪を分け……気高き血が流される。流れた血は小さな天使が道を示し、救わんとする者へと脈を張る。中身が飛び散った箱は不要と捨てられ、価値をなくす。死の封印は七つのピースによって解かれ、第一のピースは自ら現れる。第二のピースは第一のピースが呼び寄せ、第三のピースは不要とばかりにその真実を知られる事なく、箱の中に残されていた……」


 小さな天使……第一のピースは自ら……。レミュと僕の事か……?

 第二のピースは第一のピースが呼び寄せるって……まるで僕とレイフが出会った時のようだ。

 そして第三のピース……。

 不要と捨てられた箱とは……この邸宅を指しているとでも……。

 ……ミルドレッド。

 ミルドレッドは、僕が来るより前からここにいた。


 これは……。


『リディアが今、どうしているか知っているのね? あなた……どうやって知り得たの?』


『僕は、リディが話していた事を思い出しただけだよ』


『リディが言っていた事は本当だったね……ああそうだ、それをこう言っていたんだ』



 これが……ノアが言っていたリディアの[silent - k - 黙示]だ。

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