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[k]night [silent - k - 黙示]  作者: 成橋 阿樹
第一章 使命
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第31話 counter fort

『silent - k - 黙示』


 ……そういえば……。

 レミュが似たような事を言っていたな……。


『あなたは夜に彷徨うだけのナイトではないのです。持っているのは『黙字』……『silent - k』……『knight』の称号です』


 それに、リディアも意味ありげに言っていた。


『『k』を無くした『night - ナイト -』様……?』


『silent - k』……か。



 僕は、自分の肩にそっと触れた。今はハーフプレートアーマーに姿を変えたままだが、レミュはいつも僕の側にいる。

 だけど……。

 ノア・ハーシェル……。


『わたしはレディと旦那様である『knight』様の飼い猫でした』


 レミュはノアを守れなかったと言っていたが、目の前にいるノアはハーフプレートアーマーも剣もある。

 僕とは違う形でノアの側にいたのだろうが……レミュの事をミルドレッドに訊いてもいいようなものだが。

 レミュがここにいる事に気づいているのかいないのか……。


 ノアを前にしてもレミュは姿を戻さない。リディアの時のように複雑な思いがあるのは分かっているが……。

 ノアが現れた時のレミュの悲しげにも聞こえた鳴き声が思い返される。

 レミュにもレミュの思いがある。今は……そっとしておこう。


 席に戻る途中、ラドがレイフの近くで足を止めた。

「……すまなかった。あんな態度をとるつもりはなかったんだ」

「いや……俺に謝る必要はないよ、ラドル。俺だってお前の事を誤解していたんだし……俺もお前に……その……」

「あの時はまだ……ここがアンダーワールドだと気づけていなかったんだ……」

 ラドの目線が僕へと向いた。

「カイ……お前が現れた時、嘘だと思った。あの時、俺は……お前を助ける事が出来なかった……深傷を負い、敵地に幽閉されたがお前はいなかった。生きているんだと……思っていた……思おうとしていた。だから……本当にお前なのかってさ……」


 ……そっか。

 ラドも同じ思いでいたんだな。


『カイ・ウィットフォード……』


 あの時のラドのあの反応は、アンダーワールドに僕がいるという事を信じたくなかったからだったんだな……。


「ああ。分かってるよ、ラド」

 笑みを見せる僕に、ラドはホッとした表情で頷いた。

 僕たちが椅子に座り直すと、ノアが話を再開する。


「それで、どうかな……? カイ。この城は」

「完成にはもう少し時間が掛かると言っていたが、アンダーワールドは常に夜のように暗くて時の流れが分からない。あとどれ程の時を要するか知りたいところではあるが……」

「時の流れを知るなら、リディのところに行けばいいよ。エントランスホールの時計が時を知らせるのは十二時だけだ。そして、リディが招くのはディナー。つまりは夜という事だよ」

 成程……。

 やはり思った通り、邸宅には時が流れていたか。

 確かに、あの時計の音が鳴るのは一度だけだ。


「未完成の状態で確かな事は言えないが……アドゥルタリン キャッスルという事が貴殿の言う『工夫』だと言うなら」

「言うなら?」

 ノアの期待が笑みで表される。

 ……まったく。幽閉されている状態だというのに、余裕だな。

 肉体を取り戻さなければ、オーバーワールドには戻れないというのに絶望はないといったところか。

 リディアといい、ミルドレッドといい、肝が据わっている。

 まあ……そうでもなければ、ここでこうして座っていられもしないか。


 階段が造られていく様、城内を確認するように見たが。


 僕は、ノアの目を真っ直ぐに受け止めて答える。


「一概には言えないが、アドゥルタリン キャッスルには木造が多い。この内壁を見ても分かるが……同様に建てているというなら、そこもそうなんだろう。内壁は壊せる。外壁は一見、強固にも見えるが、完全な石造りでないなら破壊出来なくもないが……」

 僕は、円卓に身を乗り出し、ノアが広げた城の構造の一部分を指差す。


「ダンジョンは最上階。その下の階層は武器庫になっているだろ」

 僕は、指を動かしながら言葉を続ける。

「武器庫がこの階層にあるという事は、最上階の城壁の隅にバルティザン、つまり監視塔があるという訳だが、ここには開口部がある」

「おいおい、カイ。まさかそこから入り込むって言うんじゃないだろうな? 最上階だぞ。梯子でも使って登るなんて冗談だろ、エスカラードは自殺行為だ」

「レイフ……お前ね」

 溜息をつく僕にレイフは、あっと声を漏らした。

「俺たち、オーバーワールドにまだ戻れないんだったな……じゃあ……」

 レイフの目がゆっくりとミルドレッドに向く。

 ミルドレッドは片肘をつき、頬杖をつきながら城の構図に目を向けたままではあったが、視線を感じ取っている。


「そうね。私なら行けるわね」


 さらっと答えるミルドレッドは、僕とレイフに目線を動かすとクスリと笑う。


「だって私は『特別』だもの」


 戦場で生きる者と死ぬ者を選ぶ女。死の精霊と言われているValkyrie(ヴァルキリー)……それがミルドレッドだ。

 だが……少し問題がある。

 僕は、ノアとラドが話合っているのを見つめた。覚悟を決めているのだろう。頷き合う二人に胸が痛む。

 それというのも……。


「どうした? カイ」

「ああ……レイフ……」

「無理もないわよ。でもそれしか今は方法がないわ」

「どういう事だ……?」

 眉を顰めるレイフにミルドレッドは、抱えている思い……それは僕と同じ思いであるだろう思いとは真逆に、にっこりと笑みを見せた。

「なんだよ……ミルドレッド。余裕だとでも?」

「余裕……そうね。やる事自体は余裕だわ……それが私の使命だしね」

 溜息の混じったミルドレッドの言葉に、レイフの表情が真顔になる。

「使命って……まさか……」

 レイフの目線がノアとラドに向いた。


 ノアとラドは、僕たち三人を真っ直ぐに見ている。覚悟は決まっていると伝えているようだ。


「ええ。そのまさか、よ。ノアとラドルには、まだ僅かにも息がある。生死を彷徨っている状態って事ね。私が体を見つけられないのも、それが理由の一つでもあるわね」

 ミルドレッドはゆっくりと席を立ち、歩を進めながらミルドレッドは言った。


「ノア。早く城を完成してちょうだい。アンダーワールドはオーバーワールドの領土を反映してる……それで私はアンダーワールドでオーバーワールドの現状を把握出来るわ。リディアの邸宅にあなたたちの半分……その肉体を連れてくる事が出来る。但し……」


 肩越しに僕たちを振り向きながらミルドレッドは、腰に携えたミゼリコルドにそっと手を触れた。



「あなたたちの『最期』は、私のこの手である事を恨まないで」

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