第27話 King's chamberlain
ラドの肉体が見つかっていない……。
だが、ラドはこのアンダーワールドで姿を現している。何処かにはあるはずだ。
ミルドレッドが見つけられないなんて……。
「どういう事だ、ミルドレッド」
詰め寄ったのは僕ではなく、レイフだ。
「私にだって分からないわよ」
「なあ……ミルドレッド」
呼びながらも考え込む僕に、ミルドレッドがどうかしたのと問う。
「お前……僕がラドを探している事を知っていたのか。僕が選ぶknightはラドだという事を」
「あら、違うの?」
「違わないが、僕はまだ、ラドとその話をしていない。それでもお前はラドの肉体を探していたって事だろ」
「あのねえ……簡単に言わないでよ。気づいているとは思うけど、このアンダーワールドはオーバーワールドの領土が概ね反映されているわ。だからその意識……オーバーワールドで命を落とした場所に、あなたたちがそうやって形作れる姿が現れる。だけど、肉体は違う。埋葬されている地が命を落とした場所と同じとは限らないでしょ。まあ……きちんと埋葬されている方が分かり易いんだけどね。だからある程度は予測して動いているのよ。あなたがknightを選んだ時点で、私は邸宅にその半分を連れて行く……そうじゃなければ、リディアの邸宅に来たって入れないじゃない」
……という事は。
「僕はラドと同じ地で倒れたんだ。その時にラドも命を落としていたなら、ラドと僕は既に会っていてもいいはずだった。だが、ラドは僕とは違う場所にいた。出会うまでにも時はあったようだしな……ラドが命を落としたのは、あの時じゃなかったって事なんだな……」
「まあ……そういう事になるわね」
ラド……。
僕に倒れ込んだラドは死に至らなくても重傷だっただろう。ラドが動けたとは思えない。況してや僕を庇うようにも倒れ込んだんだ、例え動けたとしても、いや、動けたなら、僕を置いていく事はしなかっただろう。
誰かに連れ去られたとしか考えられない。重傷を負わされた上に連れ去られ、そしてそこで命を落とした……殺されたんだ。
どれ程までに苦しい思いをした事だろう。その悔しさを抱え、アンダーワールドで現状を知ったなら、ラドのあの勢いも理解出来る。
それなら尚更、僕にも手助けさせて欲しかった。共に力になりたかった。
深い溜息をつく僕に、肩に乗っているレミュが気遣うように頬に寄り添った。
(サー……)
僕は、そっとレミュを撫でると言葉を続けた。
「ラドがアンダーワールドで姿を現せているって事は、何処かには肉体があるって事だろ」
「そうね」
「ミルドレッド……見つけられないのは何故なのかは分かるか? リディアの夫であるknightは、その姿さえ現していないんだろ……彼だってどうなっているのか……」
「|Noah・Herschel。knightであり、リディアの夫……彼は領主でもあるけど、そもそもが」
そう言ったミルドレッドの表情に緊張が見えた。
眉を顰める僕だったが、続けられた言葉は納得出来、予想通りといったところだった。
「王族よ」
ミルドレッドは、そっと目を伏せると静かに話を始めた。
「ノアは、継承権を放棄する代わりに領地を得たの。だけど、継承権を放棄する事はノア自身が決めた事よ。まあ……ノアには兄がいるから、それでも良かったのかもしれないけど」
「それはリディアと結婚する為だろ。王家に東洋系の血が混じる事が許されないと分かっていたから」
「ええ、そうね……詳しい事はリディアに聞いて。リディアが私に話してくれたのはそれくらいだったから。ラドル・グレンフィルのところへ向かうんでしょう? それなら私も行くわ」
先に歩を進めて行くミルドレッドを見る僕とレイフは、顔を見合わせると同時に歩を進めた。
「レイフ……何かに気づいているよな、あいつ」
「ああ。なんだか様子が変だ。あの地に現れたのも、ラドルの事だけじゃなさそうだな」
「ノア・ハーシェル……か」
ミルドレッドがちらりと僕たちを振り向くと、先に行くわと言って姿を消した。
僕とレイフは馬に乗る。
「なあ……カイ」
ゆっくりと馬を走らせ、レイフの言葉を聞く。
「ノア・ハーシェルの体も見つかってないって……ラドルはこのアンダーワールドに姿を現しているんだから命を落としているんだろうが、ノア・ハーシェルは姿も現していない。生きているって事はないんだろうか」
「その可能性は低いな……リディアが僕たちを集めている意味がなくなるだろ。彼女の目的だって僕たちと同じだ。リディアは分かっている。彼女の言う事は全てが真実だと……そう思えるんだ。共にオーバーワールドに戻る……戻る為には条件を満たさなければならない。それはオーバーワールドで絶対的な勝利を得る為のknightly orderでなければならないって事だ」
「……そうだよな」
「そういうレイフも何か気づいているんじゃないのか?」
並んで馬を走らせながら、僕はレイフにちらりと目線を向けた。
レイフは、前に目を向けたまま僕に答える。
「レディが俺たちを迎え入れたって事は、領地を分けてはいても俺たちはレディ側だ。これは俺の考えだが、ノアの兄が王位を継承する段階で僭称者が現れた……自分こそが相応しいとな……ノアがknightであるのはノアの兄の自軍って訳だ。ノアに賛同する領主は多く、俺たちはその領主のknightだ。その数は僭称者側を圧倒していた事だろう。そもそも、俺は結託を阻止する為に潜り込んだんだしな。自軍が足りなければmercenaryに頼るしかないだろう? ……今までの事から見ても辻褄が合わないか?」
「ああ、納得だ。ルーファスの企みにもな」
「僭称者を正統にするには相手の力を上回る必要がある。それに力を貸したとなればルーファスの地位は大きく変わる……王侍従って訳か」
「……ただの強者というだけで人が死ぬ……か。僕たちも急ごう、レイフ」
「ああ」
僕たちは、馬の走る速度を上げ、ラドがまだいるだろうあの地に向かった。
「遅いわよ、カイ、レイフ」
ミルドレッドは不機嫌な顔で、僕たちを振り向く。
「……なんだよこれ……どういう事だ」
レイフの驚きも無理はない。
あの時は見えなかったものが、今は大きく広がって見えている。
……城だ。
リディアの邸宅があるように、他にもそういった場所があるとは思っていたが、目にしたのは今になってだ。
これって……まさか……。
『例え扉を開こうとも条件が揃わないと、ここはただの廃墟にしか見えないわ』
僕の予感は的中する。
苛立ちを交えた声でミルドレッドが言った。
「どうやら招待されたみたいよ」
僕たちを迎え入れるかのように、城門が開かれていく。
先に歩を踏み出すミドレッドは、肩越しに僕を振り向くとこう言った。
ミルドレッドのその言葉は、僕の予想を超えていた。
「覚悟して、カイ。ラドル・グレンフィルは捕虜……交渉材料になったって事だから」




