第26話 darkness that lurks
「僕を殺したのは仲間なんかじゃない、敵だ」
はっきりと出た答えだ。
この悔しさを思い出せなかった事は、自分の無力感に打ちのめされたからなのだろう。
(サー……)
僕を心配するレミュの声に、朧げながらもその感情は僕の中には残っていた事を思い返す。
『……悔しいんだよ……きっと……僕は悔しいんだ。殺されたって事は……負けたって事だろ……自分を守れなかったってさ……何も守れなかったんだな……』
……ラド。お前は……。
だからラドはmercenaryに……Free companyに属したのもその為だったんだ。
「なあ……カイ」
「なんだ」
「お前も撃たれてるって事は近距離って訳だろ。なにせ命中精度が低い。銃声は聞こえなかったのか?」
「あの日は雨が降っていたんだ。雨音がやけに耳に響いて……その時にもう僕は地に倒れていた。銃声……か……大勢の地を踏む足音や声で銃声は……」
聞こえただろうか……よく分からない。思い出したのも記憶の断片でしかない。
そこまでの記憶はないが、地に倒れた僕の耳に飛び込んできたのは雨が地を打つ音だった。
「雨だって? おい……カイ……もしその時にラドルが撃たれたんだとしたら……」
レイフの表情が強張る中、僕は当時の事を思い出しながら言う。
「あの時、ルーファスは近くにいたんだ。僕は奴がラドを呼ぶ声を聞いている。『ラド、後ろ』ってな」
「後ろ……?」
呟きながら考え込むレイフを見ながら、僕は言葉を続けた。
「その後に、ラドが剣を打ち合ったが、急にラドの剣のリズムが乱れたんだよ。そして僕の上に倒れた。僕の意識があったのは、そこまでなんだ」
「剣のリズムが乱れた……あのラドルが……?」
「ああ。妙だろ?」
「そうだな。それも気になるが、雨が降っていても使える銃って……マッチロック式のマスケットじゃないだろ」
「ホイールロック式のマスケット……だな。だが、殆ど出回っていないだろ」
マッチロック式は火縄を使うタイプだ。その為、雨で火が消えてしまい、発砲に至らない。あの日は雨音が響くくらいの激しい雨だった。マッチロック式は当然使えない。
ホイールロック式はハンマーに火打石が取り付けられていて、ホイールの動力による回転でハンマーが火打石を打ちつけて点火し、発砲する。雨が降っても使えるが……。
レイフがその欠点を指摘する。
「高価な割に壊れやすい銃だぞ……信頼性がない。だから使いたがる奴もいないから広まらないんだ。そんな銃に手を出す奴は」
「ルーファスなら手を出すだろ?」
レイフの言葉を遮って言った僕の言葉に、レイフは納得する。
「性能よりも価値ね……決定的って訳だな。言うならルーファス以外にいないって事か」
「ああ。そんな銃に手を出す奴は、ルーファス以外にはいないって事だ」
「ただ高額なだけのお飾り銃……命中精度が悪くても近距離なら当たる、か。銃声を掻き消したというなら、やっぱりmercenaryとの繋がりは濃厚だな。だが……ルーファスがマスケットを手にしていたなら目立っただろ。持っていたのを見ていないのか?」
「見ていないな……まあ……仕組んだのは奴であっても、撃ったのは奴じゃないだろう。ルーファス自身が手を汚す事はない。あいつはそういう奴だ。前線に立つmercenaryには槍兵が多いだろ、その中にマスケットを持っていた奴が紛れていたんだろう」
「銃剣として……か」
「ああ。だが、マスケットに剣を差し込めば銃は撃てない。倒れたフリでもしていたか、そうやって剣を外して撃ったんだろうな」
「それを気づかせない為に『後ろ』か……その声でラドルが他の奴と対戦が始まったなら注意をそらせる。ラドルの剣の乱れはマスケットに気づいた瞬間か……」
レイフが深い溜息をつく。後悔をしているような表情だ。
「カイ……俺、ラドルに酷い事を言っちまった。俺を殺したのはラドルだって……カイ、お前にも酷い事を言ったよ。親友なのにな……お前の親友ならもっと信じるべきだった。ラドルは俺との時も気づいたんだ。俺は……俺が死んだのはある意味、自業自得だな」
「レイフ……お前だってルーファスに嵌められた一人なんだ。ラドだって分かってるよ」
レイフは静かに二度頷きを見せたが、やはり後悔の念は消えないようだ。
僕は椅子から立ち上がる。
「行こう、レイフ」
「カイ……だが、策はまだ何も話し合って……」
「ラドにはラドの考えがあっても、僕とレイフにだって考えはあるんだ。だけど僕たちの目的は同じはずだ。一人で行かせる訳にはいかない。それならやっぱり、ラドと話した方がいいよな」
「……そうだな。ああ、行こう」
レイフは、ふっと笑みを漏らすと立ち上がり、僕たちは部屋を出る。
エントランスを抜けると、そこにミルドレッドがいた。
扉横の壁に腕を組んで背をもたれ、不機嫌そうな顔で僕たちに目を向ける。
……怒ってんな、コレは。
「あら。私の部屋を素通りして、何処にお出掛けかしら?」
「友人に会いに行くだけだ」
そう言って僕はミルドレッドの脇を抜けていく。
「友人って、ラドル・グレンフィルの事かしら?」
「おい……」
僕は足を止め、ミルドレッドを振り向く。
「お前……知っていたのか」
ミルドレッドは壁から離れ、僕へと歩を進めた。
「何を言っているの、カイ」
阻むかのように僕の前に立ち、僕を見上げるミルドレッドと目線を合わせる。
「私はあの場にいたのよ。カイ……あなただってあそこに向かったのは、knightを探す為だったんでしょう? 迎えに行ったのよね?」
「だから僕を追って来たと?」
「ええ、そうよ」
僕は、ミルドレッドの目を真っ直ぐに見ながら、一呼吸置くと言った。
「訊いていいか」
「ええ。察しはついているけどね」
「それなら、お前から話して貰った方がよさそうだな」
僕の言葉に、ミルドレッドは僕をじっと見た後、目線を外し、ふうっと息をついた。
そして、僕が疑問にも思った事の答えを口にした。
「無いのよ……」
嫌な予感はしていたんだ。
『リディアの邸宅に足を踏み入れる事が出来るのは『knightの部屋』にその半分……その者の肉体がある事よ。カイ……あなたがknightを選んだ時点で私はその『半分』を見つけ出して邸宅に連れて行くわ』
このアンダーワールドでラドの姿を見つけた時に、僕はknightを決めていた。
「ラドル・グレンフィルの肉体が見つからないの」




