第25話 cunning approach - sly fox trap
ルーファスと共に来ていたknightの一人が、外で武器の手入れをしていた僕とラドの前に来た事があった。
ルーファスのいたknightly orderを領主が迎え入れたとはいっても、全てが残った訳じゃない。
領主にしてもknightly orderを二つに分けてしまうのは、派閥的なものが出来てしまう事も避けたかったのもあり、当然、一つの部隊として成り立たせた。
そこに入りたい者は入ったが、他へ移った者もいた。
僕たちの領主はknightはknightとして迎え入れたが、他に移ったとはいえ、そこではknightとして迎え入れられるかは分からない。
mercenaryとしてFree companyに属した者もいるだろう。
『ウィットフォードとグレンフィルだっけ。あんたたちは従者を持たないんだな。馬だって武器だって、装備を見たって分かるが、何人か引き連れていてもいいくらいだ。だってあんたたち、knightの中でもトップクラスだろ』
彼の言葉に僕とラドは顔を見合わせた。
呆れる僕は答える気になれず、ラドは、ふうっと息をつき、仕方なしにと彼に答えた。
『馬の世話には専門の『marshall』がいる。防具と武器の定期的なメンテナンスはそれ専門の『blacksmith』に任せている。俺たちが『knight』であるように、それが彼らの仕事だからな、それ以外の事は自分たちでやるよ。従者は必要ない』
『まあ、ここには大きな厩舎もあるし、俺たちにしてもmarshallやblacksmithにやっては貰うが、今あんたたちがやっているような事は従者がやるような事だろ。じゃあ、メンテナンスする時も、自分で頼みに行くのか?』
『当たり前だろ、自分たちの武器なんだから』
『ふうん……珍しいな』
『珍しい? 俺たちにはそう思う方が変わってると思えるが』
『そう言うんだったら、『esquire』だってそういったもんだろ? そういった役割がいなければ、自分の時間なんか出来ないしね。こうやってふらふら歩けないだろ? ああ、そうだ、今から飲みに行くんだが、一緒に行かないか? 手入れが終わらないって言うんなら、俺の従者にでも』
僕とラドは考える事もなく即座に答えた。
『『断る』』
同時に答えた僕たちに彼は顔を引き攣らせたが、離れたところから彼を呼ぶ声に振り向き、去って行った。
彼を呼んだ男の目線が僕たちに動き、ニヤリと見せた笑みに苛立ったのを覚えている。
そいつがルーファスだと知ったのは、その数日後に奴が僕たちの元に直接来たからだ。
領主に呼ばれていた僕とラドは、領主の話を聞き終えた後、邸宅を出ようとしていた。
『なんだか連れが失礼な事を言ったみたいだね』
そう言ってルーファスは僕たちに近づいてきた。
別に、とラドが呟きながら、奴の脇を擦り抜ける。僕はラドと共に歩を進めた。
『領主との話ってさ、mercenaryの事だろう?』
僕たちを引き止めるようにルーファスはそう言った。
振り向く僕たちに、奴は言葉を続けた。
『Free company。俺たちがここに来る前、俺たちの領主が健在だった頃だけどさ、その頃から抜けていく奴はそこそこいたんだよ? 一人抜け、二人抜け……それは他のところからもあってね、そうして集団となって出来たのがFree companyって訳』
奴を振り向き、足を止めた僕たちへと歩を進めて来る。
『統合される事になって、残った者と移った者がいるだろう? 移った者の大半はFree companyに属している。知り合いがいるからね、入るにも入り易いってもんだろう?』
僕たちはルーファスと向かい合ったが、言葉を返さなかった。
『そのFree companyが勢力を増している……誰彼構わず襲い、奪っていくしね? 領地はあれど、気を引くまでもない小規模な地でも、主を持たないmercenaryには魅力的なんだよ? 直属軍もなく、いたとしても少人数……まあそれも、門番的なもんで戦力は無いに等しいしね? それに……』
ルーファスは、意味ありげに口元に笑みを浮かべ、言葉を続けた。
『そういった領主を引き込み、操るも容易いって訳』
僕は、ルーファスをじっと見ると素っ気なくも言う。
『Free companyに興味があるようだな』
『そんな事はないよ? だってさ……』
ルーファスが話す内容は角が立つような事でもなかったが、特に興味を引く事でもない。
気の向かない相手の話が印象に残る事はなく、こっちから深く会話を広げる事もなかった。
戦場に向かえば目的は一つであり、戦闘で人とぶつかり合っているのが多いだけに、内部での揉め事は避けたいのも本音だ。
奴が口にする言葉は真っ当にも思えるが、その言葉の節々には同意を求める疑問符がある。
やっぱり……この目は嫌いだ。
探るように僕の目の奥を見る目つき。それを笑顔で隠している。まるで仮面だ。
言葉を向ける相手の反応を窺っているのか、それで互いの距離感を計っているのだろう。
『knightにはknightの誇りがあるだろ?』
その言葉を言う事で、相手との距離感を近づけようとするように。
話し掛けられたら話す程度、それだけでいい相手だった。
だが、ルーファスは、僕とラドの姿が見えると直ぐに近づいてきた。
周りからすれば、僕たちは仲がいいと思った事だろう。
本音で話す事など、互いにはなかったが。
そんな過去をぼんやりとも思い返しながら、レイフの言葉を聞く。
今思えば、あの時から奴はトラップを仕掛けていたのだろう。
「殺されているknightは、奴の企みに気づいたknightだ」
レイフの言葉に 僕は笑わずにいられなかった。
「ははっ。あははははっ。これは愉快だ」
「おい、カイ……」
突然笑い出した僕を、どうしたんだと心配そうにも見るレイフだったが、怪訝にも眉を顰めた。
僕は、笑みを浮かべた表情でレイフを見ると口を開く。
「ああ、重なったんだよ」
「重なった? 何が?」
「僕が誰に殺されたのかって話だ」
「ああ……」
僕の表情とは反対に、レイフの表情が翳りを見せた。
レイフの目が真っ直ぐに僕を見る。僕が何を思って笑ったのかを察したようだ。
「僕を殺したのは仲間なんかじゃない……」
僕はあの時、レイフに言われた言葉の答えを。
今、はっきりと返した。
「敵だ」




