第24話 conspiracy of silence
「カイ……俺はラドルが俺の目的を知って、戦闘中に始末しようと思って向かって来たんだと思っていた。考えてみれば、片刃とはいえ、バックソードは正確に刃を立てないと斬れない。刃先だけ両刃になっているものもあるが、ラドルのバックソードはおそらくそうじゃないんだろう、器用な奴だ、バックソードのバスケットヒルトは斬りつける時に手の中で回転してしまう。だから刃が攻撃対象に向かず、剣身で叩きつけるようになる。正確に刃を立てるにはそれだけの技術が求められるだろ。バックソードを二本なんてな……天才だろ」
「……ああ」
レイフの話を耳にしながら、ラドの事を考えていた。
ラド……僕に剣を向けたのは、僕たちの背後にいたmercenaryに動きを見たのだろう。
現にあの後、僕たちもmercenaryの動きに気づいたんだ。
「ラドルを止めに行かないか、カイ。あいつの目的は、あいつ一人で達せられる事じゃない」
レイフがラドを気にしてくれている事は嬉しくもあった。
だけど、ラドのあの様子からして、ラドにはラドの戦術があるのだろう。
レイフが思うように、ラドと向き合いたい気持ちは当然あるが……。
「僕には……止められない」
「カイ……!」
「勘違いしないでくれ、レイフ。ラドの元に向かいたい気持ちはある」
「だったら……!」
やっぱりレイフは情に厚い男だな。その優しさは彼の誠実さだ。
ラドとあんな別れ方をしたんだ。
その思いは、僕に対しての気遣いも含まれている事は十分に分かっている。
だが……。
ミルドレッドの言葉が僕に冷静さを与えている。
『もう……同じ事を繰り返したくないのなら……間違えないで』
「今すぐ向かったところで、どうにか出来る術が見つかっていないと言っているんだ」
「カイ……」
「突撃は後の道を開く為……その後に見られる世界などないだろ。僕たちは後を任されている身だ、散る気はない」
「それはラドルだって……」
「な? そうだろう?」
探るような僕の目線に、レイフは苦笑すると頷いた。
「ああ……そうだな」
気持ちを落ち着かせるようにか、互いに沈黙した。
「ルーファス・ナイトレイ……か」
「カイ……」
僕の呟きにレイフの表情が険しくなった。
その表情で、やはりレイフが気づいた事が奴に繋がっていた事が分かる。
僕は、言葉を続けた。
「奴が狙ったのは突撃の瞬間だ。一斉に突撃する時の兵士の声や馬の蹄音で銃声が掻き消される。その瞬間を狙って発砲するんだよ。ルーファスにとって、誰を狙うかはそう問題ではなかっただろう。なにせ、命中率が低いからな」
「試し撃ちって事かよ……」
「いや……殺傷力の披露だろ。そもそも、多くが犇めき合う戦場で一人を狙うのは無理がある。だが、突撃兵の足並みを崩すのには十分だ。命中率が低くても、誰かに当たればいい。その殺傷力が分かれば、性能が悪い銃でも数を増やせば確率も上がるって訳だ。取り敢えずは前に飛ぶんだからな」
「乱射じゃねえか。狂ってんな」
レイフは深く息をつくと、ベッドに腰を下ろした。
「ああ。その通りだよ、狂ってる」
そう答えながら僕は、傍に置かれている椅子に座った。
レイフは自分の体に残った傷痕を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「ルーファス・ナイトレイ……奴のラストネームには『knight』があるだけあって、knightになる事は決まっている事だと豪語していたな」
「ふん……相当、狂ってんな」
「まったくだ」
「レイフ……グレイブに現れたmercenary……まあ、militia だったが、言ってただろ、knightが雇ったmercenaryだと」
「ルーファスに当て嵌まるな。奴らがルーファスに雇われ、捨て駒にされたって事は十分に考えられる」
「ああ、おそらくな。だが、あいつは生き残っている事だろう」
「はは。『金で力を誇示する奴程、武器を使いこなせていない。どんなに高価でいい武器を手にしたところで所詮お飾り』って話だろ?」
「ああ、納得だろう?」
「まあな」
「esquireに防具や武器を与えていたのも、esquireがルーファスから与えられた防具や武器を売り払っていたんじゃないかってな……」
「有りな話だ。それがmercenaryに渡っている可能性は大だ」
「Free companyと繋がるにもesquireを利用したというのもな」
「それでFree companyの資金源って訳ね……」
レイフが言っていたようにFree companyに、いい噂は聞かない。略奪や暴行、そんな噂が立つくらいだ、いくら強いとはいえ、真っ当なところから要請は来ないだろう。Free companyからしても、資金源になるならどんな奴でも構わないってところだ。
金品で成り立っている関係なら、互いの利害は一致する。それだけで十分だ。
「だが……カイ。ルーファスとFree companyの繋がりは噂にもなってなかっただろ。今の段階でだって、奴が陰で糸を引いてるって明かせるものもないしな……」
「そう簡単に尻尾を掴ませる奴じゃないだろ」
「直接的な接触はしないって訳だな。口を割る奴は利益を得られない事になるからか……それに、さっきの話じゃないが、戦闘中のどさくさに紛れて始末されるって事も……」
言いながらレイフは、ハッとした顔を見せる。
レイフはゆっくりと僕を振り向くと言葉を続けた。
……納得だった。
それはこの体の傷痕を見た時に気づいた事の裏付けだ。
そして、このアンダーワールドに堕ちた『knight』には、それが共通するのだろう。
「殺されているknightは……奴の企みに気づいたknightだ」




