第20話 madness of the battlefield
待ち望んだ再会が、思い描いていたものを反した事にショックを受けた僕は、ただ茫然としていた。
そんな僕を庇うようにも、僕の前に出たレイフを、ラドは剣を構えたままじっと見ていた。
「口数が少ないのは相変わらずか。それとも俺じゃあ、口を利く気にもならないか? そのdual sword……同じ剣を二本持っている理由を俺以外には答えていたな。いや……俺が気になっている事をお前は気がついていた。だから俺に聞こえるように答えていたんだ。他の誰かがそれを問うようにわざわざ同じ側の腰に二本携えた。それが予備だって? はは。バックソードは籠状の柄であるバスケットヒルトが瞬間的に鞘から抜き難い。柄よりも籠の方が掴み易いという欠点があるからな。予備として携えるのは俺には理解出来ないね。戦闘中に一本失い、咄嗟に手に出来る剣だとは思えないって事だよ」
レイフの言葉に、ラドの表情が更に険しくなった。
「……レイフ・リッジウェイ」
憎しみが籠っているような低い声で名を口にしたラドに殺気を感じる。
……ラド……!!
レイフに向かってラドは剣を振り翳した。
レイフもポールアックスを振って立ち向かい、互いの武器がぶつかり合う。
ラドの一本の剣がレイフのポールアックスの柄の先を内側から抑えた。
だが、もう一方の手にする剣はポールアックスの柄の長さが距離を作り、レイフに届かない。
片手の剣でレイフの力を抑えるラドに、その剣を振り落とそうとするレイフ。互いに次の攻撃を譲らない。
ギリッと歯を噛み締め、ラドが叫ぶ。
「お前なら分かるんじゃないのか、レイフ・リッジウェイ!! mercenaryでいる事が有利だと……それは自分自身にとって、納得出来る理由になるからだろうっ!!」
mercenary……ラドもレイフと同じように……?
……ラド……一体、僕の知らない間に何があったんだよ……。
「ああ、その通りだよっ! ラドル・グレンフィル!! だから尚更、Free companyに属する必要はない! mercenaryに求められるものは強さだけだ。忠誠心などいらない。自身の強さを誇れるなら、それだけで十分だったじゃねえかっ! dual swordである事を隠したのは、お前の本当の強さを隠したかったからかよっ?」
……どうして……何も話してくれなかったんだ。
悲しさと悔しさが混ざり合う。
あんなに近くにいたのに……今はこんなにも遠い。
「それでもラドル・グレンフィル……お前の強さは隠しきれない。そりゃそうだよな、命が懸かってんだ。戦場に立って戦わない奴は無駄死にする奴か、策略者だからなっ……!」
レイフはポールアックスを振り切り、ラドの剣を押し退けた。瞬時にラドは足を踏み込み、レイフの左側へと回るが、レイフは地に刺したポールアックスを軸にくるりと回り、回避するとポールアックスを構え直した。
互いに距離を取り、動きに目を見張る。
「どうした? ラドル・グレンフィル。お前の力はそんなもんじゃないだろう? もう一度……俺を殺してみろよ」
だが……。
挑発めいたレイフの言葉にラドは乗らず、剣を下ろした。
「なんだよ……? まだ話は終わっていない。互いの武器だって話し足りないだろう? それとも俺にその存在の有無を委ねるか?」
ラドがゆっくりとこっちを振り向いた。
……話したい事はたくさんある。
だけど。
なんでだろう。
……っ……!
今は……ラドを責める言葉しか浮かんでこない。
片手に下ろした剣に目線を落とす。
『あなたは今、この剣を手にしたいと思う?』
僕は、剣のポンメルにそっと触れた。
『僕の剣であっても、今の僕には剣を振るう理由がない』
『無くしたものを取り戻す事をここに誓う。それが僕がこの剣を振るう理由だ』
……無くしたもの……。
僕は、剣のグリップをグッと握り締める。
ああ……そうだよ。
誓った言葉に嘘はない。
取り戻す為にこの剣を再び手にしたんだ。
僕は、ゆっくりと剣を構え、前を見据える。
ラドと対峙するように向き合う僕に、もう迷いはない。
僕の様子をラドは察したようだった。再び剣を構え、僕へと向かって走り出す。レイフがラドを追った。
『もう……同じ事を繰り返したくないのなら……間違えないで』
僕へと向かって来るラドを見ながら、Valkyrieの言葉を思い浮かべ、僕は呟く。
「……間違えるはずがないだろ」
剣を振り翳し、僕は叫ぶ。
「間違えるはずがないんだよっ……!!!」
僕とラドの剣が金属音を大きく響かせた。
「カイっ……!」
レイフも混じり、打撃音が激しくなる。
何度も、何十回も剣を振り続ければ、次第に腕が上がらなくなってくる。
一人に何人もが集中すれば、体力の消耗は大きい。
一度、突撃すれば終わりの見えない戦いに、肉体も精神も蝕まれていく。
倒れていくのは敵ばかりではなく、味方も同じだ。
人に埋もれた戦場は、死者が地を覆っていく。
戦い続ける生者は、死者の体を踏みつけ、その亡骸に足を崩されるんだ。
そして、死者が増えれば増えていく程に、精神を狂わせる。
戦場こそが……アンダーワールドだと。
「カイっ!!」
ああ。
その声は。
僕に目を醒まさせる。
最後に響いた金属音は、時を再び巡らせた。
間違えるはずがない。
だって僕は。
剣を振り翳した僕に向かって来るラドを見ていた僕だったが、僕の剣はラドではなく、背後のmercenaryを突き刺していた。
そしてラドは僕を抜け、次々とmercenaryを切り倒していった。
そこにレイフが混ざり、応戦した。
僕たちが戦っていたのは、再び立ち上がったmercenaryだった。
「……カイ」
「ラド……」
向かい合う僕たちの思いが重なる。
レイフは少し困ったようにも溜息をついたが、やはり理解が早い。僕の思いを尊重してくれている。
僕とラドの手を取り、重ね合わせると、ニッと笑みを見せて僕たちに言った。
「アンダーワールドで感動の再会とは皮肉だが、これでまた先に進めるな。カイ……ラドル」




