第19話 Suspicions arise
舞うように、鮮やかに。
バックソードを自在に操り、不利な現状を打破する。
その圧倒的な強さと、手にする……。
『dual sword』
あの動きと剣捌き……。
間違いない。
「ラドっ……!!!」
僕の叫ぶ声に彼が目を向けた。
僕は馬を走らせ、下へと向かう。
「ラド……!!」
早くラドの元へ行きたいと気が急く。疾走する馬の速さよりも、気持ちが先へ先へと急いでしまう。
間を阻むようにも、味方同士の混乱から抜け、僕に気づいた何十人かの長槍兵が一斉に槍を向けた。
(サー。わたしが鎧になります。突き進んでください)
「ありがとう、レミュ。じゃあ、行くよ」
(はい、サー)
レミュが僕を守るハーフプレートアーマーに変わった。
攻撃対象が僕になったようだ。
突撃して来る長槍兵に怯む事なく突き進む。
「邪魔だっ!!」
馬の走る速度を利用しながら剣を振り翳し、蹴散らしながらラドへと向かった。
あの黒髪……あのdual sword。
近づけば近づく程にラドだと確信する。
ラドは一人、攻め入っていたようだが、|coat of armsは掲げていない。
……良かった。アンダーワールドに堕ちて、訳が分からないままに他の領主に引き入れられてはいないようだ。
伝えたい事が多々ある事に胸が逸る。
共に|knightly orderを。自分たちの為にもまた共に戦うんだ。
走り抜けた僕の後をレイフが追って来ていた。
残った長槍兵をレイフに任せ、僕はラドの元へと急ぐ。
先へと進んでいたラドは足を止め、僕を待つように真っ直ぐに見ている。
僕は手綱を引き、止まると、馬から降りてラドへと歩を進めた。
「ラド」
安堵の息が漏れ、表情が緩んだ。
やっと……会う事が出来た。
ラドも命を落としてしまったという事に苦しい思いはあったが。
ここが死者の世界、アンダーワールドであっても、僕たちにはオーバーワールドに戻れる条件がある。
一緒にオーバーワールドに戻ろう。
「心配していたんだ。あの後……ラドがどうしているかって……僕は」
「カイっ……!!!」
叫ぶ声にハッとする。
僕の目の前で。
ポールアックスが勢いよく振り下ろされた。
僕の名を叫んだのはレイフだった。
注意を促したその声に、瞬間的に足が下がった事がショックを大きくした。
「……レイフ」
僕は現状に驚きながら、ゆっくりとレイフへと目を向ける。
「……カイ。これが本当にお前の親友なのか……?」
悔しそうにも震える声。レイフの手に力が籠ったのが分かる。
真っ直ぐに前を見据えながらレイフは叫んだ。
「お前に剣を向ける奴がお前の親友なのかよっ……!!!」
僕へと向かって両手で振り翳したラドの攻撃を抑える為に、レイフはポールアックスを振り下ろしていた。
ラドはバックソードをクロスしてガードし、ポールアックスを受け止めている。
負けじとレイフがポールアックスを下へと振り切ろうとした瞬間、ラドはバックソードのクロスを解き、後方へと下がった。
ラドのガードが外れるとポールアックスがそのまま勢いを持って地面を叩き、地を大きく揺らした。
その凄まじい威力はレイフの怒りを表しているように思えた。
ラドは無言のまま僕たちをじっと見つめると、再び剣を構えた。
……冷たい目だ。まるで敵を見るかのようだ。
僕が分からないのか……?
アンダーワールドに堕ちて、まだ記憶が蘇っていない……?
だけど……僕の事を覚えていないなんて……。
肩を落とす僕に、ラドが口を開いた。
「カイ・ウィットフォード……」
……ラド……。
目の前が真っ暗になった。
僕の事は。
知っているだけだ。
アンダーワールドに堕ちた上に、こんな再会なんてあんまりだろ……!
「ラド……」
瞬間的に今まで耳にした言葉が、疑念を肯定するように頭の中でグルグルと回った。
『あなた……誰に殺されたのかしら? そして、何故殺されたのかしら……?』
『カイ……あんたのような腕のある者が捕虜になったならそれは妙な話だよ。そんな簡単に落ちるタイプじゃないだろ。それに殺されてるって、もしもあんたが捕虜だったなら領主に見捨てられたか仲間に裏切られたかしか考えられないってところだ』
仲間に裏切られた……それは確かに納得のいく言葉だった。
だけど。
ラドが僕を……?
まさか……そんな……。
大きくなる疑念を払拭しようと頭を横に振る。
そんなはずがない。そんなはずが……!
僕が倒れた後、僕を庇うようにラドが倒れたんだ。
あの最期の時まで、僕はラドと共にいた。
耳に流れ込んだラドの声に、僕は答える事が出来なかったが。
あの時の声は今も耳に残っている。
『……カ……イ……』
僕を庇ったから。僕の所為でラドは命を落とす事になったから……。
だから……僕を許せないのか……?
この現状にショックが大きい僕は、疑念を払拭出来ず、更に疑念を膨らませた。
ラドの表情は緩む事なく剣を構えたまま、僕を睨むように見ている。
明らかなる敵意を見せるラドに、胸が苦しくなった。
僕もまたレイフと同じように目にするとは思いもしなかった。
『dual swordだと分かったのは、実際、それを見たからだろ。まあ、そう言ってたしな』
『そうだな……目の前で見たからな』
『目の前だって?』
『その人物がお前の親友でない事を願うよ』
それはラドではないと。
否定したかった。否定していた。
だけど。
『俺を殺したのは……彼だ』
……っ……!
苦しい思いに声が詰まる。
あまりの衝撃に茫然とする僕に代わって、レイフが口を開いた。
「その動き……そのdual sword……忘れようにも忘れられないな。お前……あの時のmercenaryだな? カイの話じゃ、お前はknightのはずだが、聞かせて貰おうか。mercenaryになった上に|Free companyに属した理由……俺を殺した理由……裏切ったのは本当はどっちだ? それ以上に、カイに剣を向けた理由を聞こうか」
レイフはポールアックスを構え直す。
「今なら答えられるだろう? アンダーワールドに堕ちた仲だ。それ程の強さをもってしてもお前も誰かに殺されてるって訳なんだからな。何にしても気に入らないってところなら……」
ラドを睨むように見据え、低い声を響かせレイフは言った。
「恨み言くらい……吐けるだろ?」




