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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
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理想と現実と皿洗い




    本来関係者以外立ち入り禁止の厨房に、二人の少年が仲良く協力し合って皿洗いを行っている。

   手入れしていた庭を荒らしてしまったため、彼らは罰として強制的にやらされているのだ。逃げな

   いように犬熊から監視役に呼ばれた男はずっと二人を見張っている。そんな中で食器洗いをやらさ

   れている状況に風馬はむっとした顔で作業を続けていた。

    そもそも彼はこんなことをするためにここへ来たわけではない。正隊員昇格のため、彼はこの

   鬼丸家の屋敷へ訪れた。保護組訓練生で幸磨達と年齢が近い彼が正隊員昇格にこだわる理由。

   それは、自分の過去の境遇と幼い頃に仲良くしていた幼馴染が深く関係している。

    生まれつき能力を持った風馬は、能力科支援幼稚園と呼ばれる3才から5才までの能力を持つ

   子供が通う施設に入園する。その幼稚園で一人の女の子と出会い、風馬はその子と一緒に過ご

   す日々を送っていた。しかし、家庭の事情により風馬は幼稚園から別の施設へ移ることにな

   り、彼女とはさよならも言えずに別れてしまう。その施設から能力科支援教育学園を卒業後、

   特殊部隊訓練教育学校へ入り、保護組訓練生としての生活をスタートさせた。だが、早期出世

   早期出世のためならどんなことでもする意思と、過去の境遇のせいで群れることを好まず、

   単独行動を取る彼に対し、他の訓練生達からは変人として見る者も多く、プライベートでの

   友人は今のところゼロ。だが、風馬にとって自分のことを認めてくれるのは幼馴染の彼女

   だけ。彼女が自分にとってたった一人の友達だと認識している。あんなことが起こらなければ、

   自分達はあのまま仲良くずっと一緒にいられただろう。それなのに、大人達の都合で引き裂か

   れて会えなくなってしまうだなんて当時幼かった風馬には想像もしていなかった。彼女と別れ

   てから今の自分になるまで、全く苦労はなかったというと嘘になる。正隊員に昇格して多くの

   功績を上げることにより諸星風馬の名前を世に広め、そしてどこかにいるであろう彼女にどう

   にか自分を見つけてほしいという願いをこめて・・・。


    「なんで俺がこんなこと・・・」

    だが、現実は思ったようにはいかないと風馬はこの身で思い知らされる。一方の月冴は、

   風馬と違って集中して作業を進めている。隣にいる彼の声が聞こえていないわけではない。

   ただ早く皿洗いを終わらせて、幸磨の元へ行きたいという気持ちが彼の頭の中にあり、それ

   が作業効率を良くしている。そして、それをもっと向上させる人物が彼らのいる厨房へと

   やって来る。

    「月冴君」

    「やぁ。やってるかい?お二人さん」

    様子を見に来た幸磨と炎樹は、二人の元へと駆け寄る。

    風馬は嫌そうな顔で「何しに来た」とつぶやく。

    「何って、様子を見に来たんだよ。こう君が心配してたからさ」

    そう答えたのは炎樹だった。

    幸磨は洗い終わったお皿を見て、月冴に「僕も手伝うよ」と伝える。

    だが、月冴は「大丈夫。すぐ終わるから」と断りを入れると、先程までの作業とは比べもの

   にならないスピードで皿洗いを数秒で終わらせた。これには風馬も目をまん丸にして度肝を

   抜かれていたが、炎樹と犬熊はそれを泰然として構えていた。

   

    「ねっ。すぐ終わったでしょ」

    「う・・・うん。そうだね」

    幸磨は、なんと言って良いのか分からず、ただ頷いて愛想笑いを浮かべるのだった。

  

    

    

   

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