夜の繁華街
冴鬼弦・高鬼の死体が発見されたのは、男が去ってから数分後のこと。
従業員が工場の扉が開いていることに気づいて中を覗いてみると、血を流して倒れている
二人を発見。従業員の悲鳴を聞きつけた事務員が警察に通報した。
関西では有名な『佐伯の便利屋さん』。その社長が殺されたという事件を聞きつけ、多くの
地元住民が会社へと足を運ぶ姿を報道陣のカメラを通して全国に報じられたのだった。
テレビを点けなくても、最近はスマホでもニュースを見ることが出来る。いつどこにいても
何をするにも暗い町を歩いていても、とにかくスマホが欠かせない世の中へとなっていた。
人通りが多い繁華街。若い男女達が大人と交じって夜の街を練り歩く。その様子を一人の
少女はまるでテレビの映像を見るかのようにただじっと見つめていた。
時刻は夜10時を過ぎている。それなのに繁華街には人がおり、暗い夜を眩い光が灯す。
光の正体は、人々が持つスマホの光。少女の目はこのスマホという存在に心を奪われていた。
そんな時、少女の視界が突然暗闇へと変わる。どこかからふらふらと中年の男性が彼女の前に
出てきたのだ。どうやら酔っ払いのようだ。
男性は少女の方をふと見て何か騒ぐが、少女はただじっと見ているだけで何も返さない。
それが我慢ならなかったのか、男性はその場に座り込み少女に向けて自分の人生話を語り始
める。だが、彼の人生話を最後まで聞くことはなく、少女は男性が数秒目を逸らした隙に姿を
消した。男性は少女を錯覚だと思い込み、立ち上がってふらつく足で自宅へ帰って行った。
上着のポケットに入れてあったスマホがなくなっていることに気づかずに・・・。
男性のスマホは少女の手に握られている。
通行人が操作しているのを見て、自分も使ってみたくなったらしい。
窃盗の罪になることを知らない少女は、奪ったスマホでやりたい放題。しかし、ある絵柄の
ボタンを押したところ、少女の手がふと止まった。
それは男性の家族と思われる女性と女児が笑顔で写った画像。指をなぞれば、その二人が
写ったものや大勢の人間と写っているものばかり。少女の目にはスマホを見る眼差しが好奇心
から憎悪へと変わった。そして、スマホをじっと睨みつけ、少女は奪ったスマホを地面に落と
し、足で踏んづけて破壊すると・・・。
「私には家族はいない」
少女はそう独り言を呟くと、壊れたスマホを置いて歩き出す。
スマホにはその人が体験したたくさんの思い出が詰まっている。
好奇心で人の物を奪った少女は罰が当たったのかもしれない。
しかし、少女はこれを悪いことだとは思っていない。
見たこともない珍しい物に惹かれた。
欲しいと思ったから手に入れた。
手に入れた宝箱は自分が思っていたものと違っていた。
いらないと思ったから捨てた。
ただそれだけのこと。
『けど、憎む相手ならいる。それが、私の生まれた理由』
少女と同じ声が頭の中に響いた。
それは、彼女のものではない。紛れもなく別の人格。
『さぁ、行きましょう』
その声に少女は首を縦に振った後、割れたスマホを置いて暗闇の中へと消えていった。




