月冴と風馬
鳶影と別れた後、幸磨は月冴達がいる部屋へと戻って来ると、彼らは互いに睨み合いながら
口喧嘩をしている最中だった。それを見た幸磨が急いで間に入り、鳶影に言われた通りに彼に
もあのことを伝えると…。
「嫌だね、誰がこんな奴と仲良くするかってぇの」
月冴は本人を前にして強く吐き捨てた。それを聞いて彼は…。
「別に仲良くする必要なんてない。この仕事が片付けば、もう会うことはないだろうから。
その間だけ辛抱すればいいだけのことだ」
幸磨と月冴にそれぞれ目を向けて、風馬はそう冷たい口調で答えた。
「俺がここへ来たのは、正隊員昇格試験を受けるためであってお前達と仲良くするためじゃ
ねぇ。実技試験でお前達を守りきることが出来れば、試験に合格して俺は正隊員になれる。
まぁ、この俺が来ればガキ三人を守るなんてらくしょ……っ!?」
最後のセリフへいきつく前に風馬は月冴に一蹴されそうになったところを素早く避けた。
「黙って聞いてりゃあ、いい気になりやがって…」
「あれ?俺、なんか怒らせるようなことしたか?」
「俺達を甘く見てんじゃねぇぞ。昇格試験だか何だか知らねぇが、そんなことで俺達が利用
されるなんてまっぴらごめんだ!俺達はお前の力を借りない。だから、さっさとこの屋敷から
出てけっ!さもないとぶっ殺すぞ!」
「月冴君っ!」
「そうかい。だったら、やってみろよ。殺せるもんなら殺してみろ!!!!!!!!!!!」
「んだとぉ、こらぁっ!!!!!!!!」
導火線に火が点いてしまった二人は乱暴に部屋を出て広い中庭へ。幸磨は自分一人ではどう
にもならないと悟って、急いで炎樹や犬熊を呼びに長い廊下を全速力で駆けた。それから幸磨
が二人を連れて中庭へ戻ることたった数分で、綺麗に手入れされた庭が彼らによって荒らされ
てしまったのを犬熊が激怒し、月冴と風馬は頭の上に大きなたんこぶと長時間正座の説教を受
けることになったのだった。
夜になり、外が真っ暗になっても月冴と風馬は犬熊の説教から帰ってこなかった。心配した
幸磨は様子を見に行きたいと炎樹に伝えると…。
「大丈夫だよ。そのうち戻ってくるからさ」
炎樹は笑顔でそう説明して彼を安心させようとするが、炎樹は心の中で『あれは自業自得だ』
と思っていて、風馬に対してはいくら鳶影が連れてきたとはいえ、月冴と同様に自分達は彼らの
力を借りなくても問題はないと考えているため、犬熊の説教から戻って来たら月冴と一緒に彼を
鬼丸家の屋敷から追い出そうと企んでいた。
「それより、先にお風呂入っちゃおう。うちの風呂、すごく大きいから一緒に入れるよ」
幸磨の手を握ると炎樹は大浴場へと向かって行く。彼の言うとおり、この屋敷の風呂はとて
も大きく、完全に彼らの貸切状態だった。服を脱いで身体を洗ってから、二人は大きな風呂に
足をゆっくり入れて肩まで浸かる。まるでどこかの温泉旅館へ泊まりに来たかのような気分だ
った。
「どう?すごく広いでしょ」
「うん。僕の家より広くてびっくりしちゃった」
「やっぱり風呂はあーでなくっちゃね。一人で入るのは嫌いじゃないけどさ、なんか狭くる
しいと入った気がしないと言うか~」
「えっ…そうかな?」
幸磨は炎樹が言ったことがあまり理解出来なかった。育った環境の違いも関係してくるだろう
が、それとはまた別の問題かもしれない。
「月冴君、まだ説教されてるのかな?」
「いや、説教はたぶん終わってるよ。たぶん…食堂にいるんじゃないかな」
「食堂?なんで?」
「なんだったら今から行ってみるかい?とはいっても、見える場所にはいないと思うけど」
なぜ月冴が食堂にいるのかまでは分からなかったが、幸磨は炎樹に頼んで風呂から出ると
すぐにその食堂へと足を運ぶのであった。




