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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
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冴鬼家の野望




    関西方面に『佐伯の便利屋さん』という雑事代行サービスを行っている会社がある。

    数年ほど前は小さな会社で、いつ潰れてもおかしくはないというほどだったが、徐々に会社を

   大きくして現在は大口の依頼が来るほどに成長した。

    そんな佐伯の便利屋さんの代表を務めているのが、佐伯弦(さえきげん)という30代の男。

    表向きは人当たりの良い若社長として老若男女に好かれているが、その正体は鬼丸家の元分家

   一族『冴鬼(さえき)』と名乗っていた暗殺者。十数年前、鬼丸武志が起こしたある一件により

   、冴鬼は他の一族と共に内輪揉めを起こすも、結果は惨敗。多くの仲間を失った弦は生き残った

   者達と共に鬼丸家から去り、一般社会で暮らすことを余儀なくされた。暗殺者の仮面を一度は捨

   て、地獄のような平和な生活に当初はストレスで任務でもなくそこらに歩いている通行人を殺し

   そうになったこともあったが、その地獄の生活から脱出したのは彼らをサポートする人間が側に

   付いたからで、そのサポートがあったからこそ、佐伯の便利屋さんは今現在の大きな会社となっ

   たのだ。


    冴鬼弦は、内輪揉めの原因となった鬼丸武志・菊馬美月・鳶影鉄心の三名を恨んでおり、彼ら

   の子息である幸磨達の命を奪おうと、学校への侵入・交通事故に見せかけての暗殺計画を決行し

   たが、これらは全て失敗に終わっている。ただし、能力科研究所から例のものを奪うことには

   成功しており、現在はある人物の手に渡してある。弦が幸磨達の暗殺が失敗に終わっても平然

   としているのはそれが理由だった。例え冴鬼家の血が途絶えても、あれさえ完成すれば上々だ。

   弦はこの数十年をあの三人に復讐するためだけに生きてきた。そして、今ようやく彼らに地獄

   を、絶望を味合わせるため、彼は命を懸けたプロジェクトを立ち上げる。


   「鬼丸武志、鬼灯のクソガキ、そして…鬼熊の鬼娘。お前達のガキ共は、我ら冴鬼組の手で

   全員皆殺しにしてくれる。暗殺名家鬼丸家を滅ぼし、冴鬼家が暗殺者一族の長として君臨す

   るのだ!!」

    社長室で一人、弦は自らの野望を口から絶叫。幸い、社長室は防音対策が施されていたた

   め、彼の声は他の社員達の耳に届くことはなかった。

    そんな絶叫社長のスマホに非通知着信が入る。弦は迷うことなくその非通知の電話を取ると、

   5分後には社長室を出て一人ある場所へと向かう。会社の予定を急遽キャンセルしてまでも

   優先しなければならない用事がついさっき出来たと言って、彼は駐車場に停めてある愛車へと

   乗り込んだのだった。

   



    車で約1時間半かけて弦が向かった先は、海産物を専門に扱っている中小企業。ここは、

   冴鬼の支配下にあり、従業員は一般人だが、重役は冴鬼家の人間が就いている。事務所

   から堂々と入り、社長に会いたいと申し出ると、事務員の女性は笑顔で対応してくれた。

   それから1分も経たずに、弦は水産会社社長の高木(たかき)と面会する。事務員がいる

   ので、少しばかり芝居をした後、彼らは人気がない工場の方へと歩いて行った。

    この会社では売店・事務所・工場と分けられており、工場の方は普段従業員のみが出入り

   している。だが、工場は二つ存在していて、現在従業員が作業しているのはその一つだけで、

   もう一つの方には社長といった重役達以外は立ち入り禁止となっている。

   

    「高鬼。電話の話では、完成したと聞いたんだが」

    「はい、弦様。私もそう聞いております。ただ…この目で実際に見たわけではございません」

    高鬼家は冴鬼家と同じ暗殺者一族。鬼丸武志との内輪揉めで彼も仲間を失い、弦と共に一般

   社会へと逃げ込んだ一人。サポートが付いたことで小さいながらも事業を起こし、冴鬼家の力

   となっている。高鬼が所有する普段使われていない一つの工場。扉は重役以外の人間が入れな

   いよう、登録している人物しか中へは通さない。そうして、指紋といった本人確認を徹底的に

   終えてようやく扉が開かれ、彼らは工場の中へと足を踏み入れる。


    「どうも、お二人さん」

    工場へ入ってすぐ、弦と高鬼はある一人の男に出迎えられた。きっちりと決まったスーツ

   に長髪を一つくくりに束ねた見た目はデキるどこかのエリートサラリーマンのようだ。

    「先生、例のものが完成したんですか?」

    先に尋ねたのは、弦だった。彼らは男のことを先生と呼んでいるのは、彼らが一般社会で

   生きていくためのサポートを現在も行っている人物だから。暗殺者も所詮は人間。食っていく

   ためには、見ず知らずな人間だとしても助けてくれるならと彼にすがったのだ。

    「もちろん。完成しましたよ」

    男のその言葉に二人は思わず顔がにやけそうになるのを必死に堪えた。

    高鬼が「我々に見せて頂けますか?」と尋ねると、男は含み笑いする。

    「見せるも何も、後ろにいるじゃありませんか?」

    「「っ!?」」

    男に言われた直後、二人は後ろを同時に振り返る。

    最初は冗談だと思っていた。彼らは一般社会に溶け込んでいても、暗殺者として生まれた

   人間。そう簡単に感覚が鈍るわけがないし、仮に鈍ったとしても彼らのプライドが許さない。

    だが、彼らの背後には間違いなく例のものが存在した。そして……振り返った直後、弦と

   高鬼は真っ赤な血を吹きだして倒れる。先生と呼ばれていた男は二人を助けようともせず、

   例のものと共に工場を後にした。もちろん、証拠隠滅を忘れずに…。

    

    

  

   

   

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