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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
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特殊部隊訓練生



    

    屋敷へ来て早々、鬼丸武志と炎樹の親子喧嘩を目撃した幸磨はただ一人部屋で月冴達が戻る

   のをじっと待っていた。その間に屋敷の使用人と思われる男性が部屋を訪れ、彼に飲み物と

   お菓子の差し入れを持ってきてくれたのだが…なぜかその男性の素顔はマスクとサングラスに

   よって全く見ることが出来なかった。

    「あっ、あの…どうしてサングラスとマスクを?」

    失礼を承知で聞いてみた幸磨に男性の反応は返ってこない。

    だが、その反応になんだか怖くなったのか、「あっ、いや、別に言いたくないならいいんです!

   ごめんなさいっ!」と声を震わせながら彼に謝罪した。

    それから少しの沈黙後、男性は幸磨に小さな声で「謝らなくていい」と答えるとすぐに部屋を

   立ち去ってしまう。幸磨はその意味をあまり深くは考えてなかったが、彼の言葉はとても重たい

   もののように感じた。そんな時、彼と入れ替わりに月冴が部屋へと現れる。

    「ごめん、こう君。待たせちゃって」

    部屋に入ってすぐ幸磨に謝罪の言葉を口にする月冴。それからすぐにテーブルに置かれたお菓

   子とジュースを目にする。

    「それ…さっき男の人が持ってきてくれたんだ。サングラスとマスクをした」

    「あぁ~なるほどね」

    サングラスとマスクをした男と聞いて、月冴はなんとなく察しがついたかのような顔をする。

    「月冴君もお菓子食べる?」

    「いや、俺はいいよ。それはこう君のものだから、俺は食べちゃいけないんだ」   

    「えっ…」

    「気にしなくていいよ。俺は後で貰いに行くから、こう君はもらったお菓子食べちゃって」

    「あっ…うん。分かった」

    幸磨は月冴の言葉を聞いて、お菓子とジュースにようやく手をつける。本当は後で貰いに

   行くというのは嘘だったが、月冴は幸磨にお菓子を食べてもらうためにあえてそう伝えて、

   彼を安心させたのだった。

    

    

    お菓子とジュースを食べ終えた後、幸磨は月冴にあのことを尋ねた。それは、炎樹のことを

   兄と呼んでいた彩萌のことと、炎樹と揉めていた父親・武志の会話について。何も事情を知ら

   されていない幸磨に月冴は少し考え込んだ後、彼に詳しい事情を説明した。

    彩萌は鬼頭家の次女で、炎樹とは腹違いの兄妹。本来なら彼女の母親は炎樹の父親と結婚す

   るはずだったが、婚約を破棄されてしまい、その後の話し合いで鬼頭家は炎樹の父親との子供

   を儲けることで事は治まった。炎樹は鬼頭家とは違う女性との間に出来た子供で、彩萌の姉・

   有紗より後から生まれ、その後、彩萌が誕生。腹違いだが、兄妹仲は良好で、特に彩萌は炎樹

   のことを炎兄様と呼んで親しくしている。

    結婚については寿命が関係しており、特に鬼丸武志の息子である炎樹と鬼頭家の娘である

   有紗と彩萌といったご子息・ご息女は、幼いうちから結婚相手を決めて成人を迎える年頃にな

   れば、婚姻の儀式を行ってなるべく早く子供を作るのが一族の仕来たりとなっている。一族の

   中には短命な者が多く、所帯を持つ前にこの世を去ってしまった経緯から、第二次性徴を迎え

   た若い男女は早めに子孫を残すよう命じられている。そのため、彩萌も父親の武志から結婚の

   話を本人の了解を得ず勝手に進めたのも、それが主な理由だった。

    『時間(とき)はお前を待ってはくれない』というのは、『自分の残りの寿命が尽きるまで

   にお前は結婚相手を見つけられるのか?』と、自分の息子を咎めていることになる。炎樹が

   彼と家の都合で勝手に決めるなと言って怒鳴ったのは、時間は待ってくれないという言葉を

   使用され説教されたことに非常に腹が立ったから。親に反抗し、自分が望む道を貫こうと必死

   でもがいても、現実の壁がのしかかる。付き合いの長い月冴にとって、落ち込む炎樹の姿を黙

   って見ていることは出来なかったが、立場が違う彼はどう声を掛ければいいのかと悩み、結局

   は肩に手を置いて側に立っていることしか出来ずにいた。



   「炎樹君もお母さんのこと何も知らないの?」

   「そっ。俺と同じで物心ついた時にはもういなかったんだ。聞いた話じゃ、母親はもう死んだ

  らしいけど、他のことは何にも教えてくれなかったって炎樹が言ってたよ」

   「…なんか、似てるね。月冴君と炎樹君」

   「そうだね。お互い母親のこと知らないしね」

   「でも、どうしてお母さんのこと教えてくれないんだろ」

   「さぁ?素性を知ったら、俺達が会いたがると思ったんじゃない?それか知られたら困る

  ことがあるとか~もしくは…」

   「もしくは、その母親はなんらかの事情で一緒になることが出来ず、生まれたばかりの子供を

  父親に託して姿を消してしまった…そういう可能性もあるかもな」

   二人の会話に突如割り込んできたのは、軍服に似た深緑色の制服を着た少々髪に癖がある少年

  で、月冴はすぐさま彼の前へ立つ。

   「誰だ、お前?いったいどこから入って来た」

   「はっ?どこからって…玄関だけど?」

   「違うっ!お前はこの屋敷までの道のりをどうやって来たんだって聞いてんだよ!」

   月冴が彼に怒鳴るのも無理はない。彼らがいる鬼丸家の屋敷は、一族の関係者以外は入れない

  ようになっていて、一般人が迷い込むことはまずない。仮に侵入を許しても、屋敷の人間が黙

  っていないので、彼がこの部屋まで辿りつくことはありえない。月冴はそんな怪しい少年を拘束

  して尋問しようとするが、行動を起こす前に後からもう一人男性が現れる。

   「俺がこいつを連れてきた。それで納得がいくだろ?」

   「おっ、親父…」

   父親である鳶影鉄心の姿を見て、月冴は納得するよりも怒りが込み上げる。関係者でもない一般

  人を屋敷の中へ連れてきていったい何を考えているのか全く理解出来なかったが、その理由はすぐ

  に明らかとなる。

   「こいつは諸星風馬(もろぼしふうま)。特殊部隊保護組に所属している訓練生で、宮木から

  頼まれてここへ連れてきた」

   「あいつからっ!?」

   宮木の名前が出てきて、幸磨は思わず叫んだ。特殊部隊で宮木と言えば、自分の父親のことし

  か思い当たらない。それに諸星風馬の制服を目にした時、それが特殊部隊のものだと彼には既に

  分かっていたが、父親のことを思い出したくなかったために無意識に分からないふりをしていた。

   「初めまして。特殊部隊訓練教育学校、保護組訓練生の諸星風馬です。以後お見知りおきを」

   風馬は月冴に握手を求め、自分の右手を差し出す。それを見た月冴は無言でその右手を握った

  直後、ぎゅううと彼の手を力強く握る。それに対し、風馬も負けじと自分も力いっぱい握り返し

  てきた。それを見ていた鳶影は「何やってんだ、あのバカ共が」と呆れた言葉を残すと、部屋を

  立ち去ろうとする。しかし、幸磨が「待って!」と叫んだことで鳶影は仕方なく立ち止まる。

   幸磨と鳶影は初対面ではないが、こうして二人きりで話すのは初めてのこと。そのため、緊張

  していたのか、幸磨は少し間を空けて「あの…僕の父に会ったんですか?」と彼に尋ねた。

   本来なら今すぐにでも駆け付けて可愛い息子を守りたかったが、その心をなんとか抑え込み、

  代わりに訓練生の諸星風馬を派遣した。しっかりした大人の正隊員を派遣しなかったのは、年齢

  が近いことと、彼が所属する保護組は幸磨の母親と鳶影が在籍していたクラスで、風馬は二人の

  後輩にあたるため、嫌悪感を抱くことはないだろうと判断した結果だ。

   鳶影は最初、風馬を派遣したことについての質問だと考えていたが、まさか自分の父親につい

  て聞かれるとは思ってもみなかった。

   「会ってねぇよ。電話でやり取りしただけだ」

   「…そうですか」

   具体的にどんな会話をしたのか教えてくれなかったが、鳶影は最後に「諸星と仲良くするように

  だってさ。あのバカにもそう伝えといてくれ」と言うと、幸磨に背を向けて再び歩き出したのであ

  った。

   

    

   

    

   

   

    

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