鬼丸武志の片想い (過去振り返り・前編)
鬼丸武志は暗殺名家鬼丸家の次男として誕生後、家族と離れて犬熊家で幼少期を過ごした。
当時鬼丸家当主であった彼の父親は、長男の紅蓮を次期当主にと考えていたため、
次男として生まれた武志は、先祖返りの力を持つまで全く相手にされなかった。
人間から白虎へと姿を変えた彼を見て、父親はそれを機に後継者を紅蓮から武志にするとした。
しかし、父親が亡くなった後、武志はまだ幼かったため、紅蓮が代理として当主の座に。それから
数年の時が流れ、武志は鬼丸家当主となるものの、達成感や高揚感といった喜びはなかった。
それよりも彼には特別なものが欲しくてたまらなかったのだ。
彼がそんな欲望を持つようになったのは、16歳の頃。鬼丸家が先祖代々守り続けてきた名刀
を、鞘から抜いて使いこなす一人の少女と出会ったことが事の始まりだった。
彼女の名前は、菊馬美月。その昔、暗殺名家として恐れられ、神の制裁を
受けて滅びた鬼熊家の子孫。鬼丸家が先祖代々守り続けてきた名刀『深月』で敵の放った攻撃を一刀両断する勇姿を見て、武志は心を奪われる。その後、紅蓮が彼女に武志
との結婚を持ち込むがあっさり拒否。本人の意思だけでなく、彼女側の人間からも猛反対を受けた
ものの、初めて芽生えた恋心がそのようなことで消えることはなかった。けれど…やはり初恋は
実らず、彼女は別の男性と結婚し、一児の母となる。ちなみに彼女は武志と同い年で16歳で妊娠
していた。
それから少しして、武志は2歳年上の鬼頭万亀との間に子供を儲けることに
なる。鬼頭家は鬼丸家の分家で、彼女とは成人の儀式を行うと同時に結婚するはずだったが、
武志は成人を迎える前に彼女との婚約を破棄して、自分の正直な気持ちを伝えるも万亀はその
説明に納得出来ず、一族を巻き込んで自分の婚約破棄の原因である美月を暗殺する計画を立てる
も失敗。その後の話し合いにより、武志は万亀と初夜を迎えて第一子・有紗を儲けたのだが…。
武志は初めから終わりまで万亀の言うことにただ従って動いただけで、肝心な部分が全く満た
されておらず、まるで見たくもない映画に無理やり付き合わされた挙句、買い物の荷物持ちと
いったことに扱き使われるかのような感じで、やはりここでも達成感は得られなかった。
『所詮こんなものか…』と半分投げやりになっていた武志だったが、それからしばらくして
彼はあることを思いつき、それを実行に移した。けれど、それはあまりにも自分勝手な野望で、
これが後に鬼丸家一族の内輪揉めに発展することになろうとは彼自身想像もしていなかった。
…つづく。




