狙われる理由は?
炎樹の案内で家の中に入った幸磨と月冴。しかし、入ってすぐ月冴が家の中を隅々までチェック。
その結果、「掃除がなってない」と酷評され、急遽三人で家の大掃除に取り掛かる。そのついでに
夕飯の支度や風呂掃除、ため込んでいた洗濯物などを片付けていると、外はあっという間に夜にな
っていた。
「いやぁ~月冴のおかげで家の中が新築みたいに眩しくなったよ」
「何言ってんだ。こんなの毎日掃除を欠かさずやってれば、誰がやったってピカピカになるんだ
よ」
「毎日かぁ……俺には無理だな」
「諦めんなよ」
「それに掃除や洗濯といった仕事は全部部下がやることだし」
「お前学校では掃除当番ちゃんとしてるのに、家ではしないのかよ」
「あぁ~あれは学校だからやってることであって、家ではそんなこと絶対しない」
「どういう理屈だよ…」
炎樹の言い訳を聞いて月冴は呆れて頭を抱える。
「それよりもこれからのことを話そう。こう君、先に寝ちゃったしさ」
「…あぁ、そうだな」
幸磨は先に部屋に戻って寝てしまったため、今この場にいるのは月冴と炎樹の二人だけ。
なので内緒話をするならば、今がチャンスというわけだ。
「俺達の命を狙う奴等は…数十年前に起きたあの件と関係あるのか?」
「関係ない…とは言えないだろう。あの一件で多くの同志を失ったと聞いているからな」
「けど、あれからもう数十年経ってるんだぞ?それなのになんで今頃になって…」
彼らが言う『あの件』とは、彼らが生まれる前に起きた…いわゆる親戚同士の内輪揉め。
二人も詳しいことは知らないが、この内輪揉めによりまとまっていた親戚一族が炎樹の父親
の元を去り、消息を絶ったという。
「命を狙うなら俺達じゃなくて、父上達にすればいいのに…」
炎樹の口から本音がこぼれる。
自分達はまだ生まれてすらもない頃の一件で狙われることになるなど、見当違い。
だが、月冴も炎樹も自分達を狙うのは何も間違っているとは思っていない。仮に自分達が暗殺
を計画するならば、馬鹿正直に強い者とは戦わず、弱い者から責める手を取ると考えるからだ。
狙う相手が強ければ、弱点となるもの。そして、相手が不利になる状況をあらかじめ作っておき、
自分達が有利に立つように計画を立てるからだ。しかし…。
「奴等が俺達を狙う理由は、本当にあの件の復讐だけなのか?」
「えっ?」
「あの時の復讐のためだけに俺達を狙う。確かにそれなら説明がつくけど…」
「他にも何か理由があるって言うのか?」
「…」
しばらく考え込んだが、月冴はその理由を思いつかなかった。そして時間ばかりが過ぎていく。
「そろそろ寝よう。明日は朝から出かけるし」
「どこへだよ」
「それは明日のお楽しみだ。臨時休校なんて滅多にないことだろうからな」
月冴は聞かなければ良かったと後悔した。けれど、敢えて何も言わず、二人は幸磨が寝ている
寝室へ向かい、そっと襖を開けると…。
「Zzzz……」
布団からはみ出し、気持ちよさそうに寝ている幸磨を見て、二人は思わず噴き出した。
月冴は幸磨と一緒に暮らしているが、ここまで寝相が悪い幸磨は見たことがなかった。
そして、炎樹は幸磨がいびきをかいて寝ている姿がおかしくて思わず笑ってしまう。
「無防備だねぇ~」
「無防備だな」
寝込みを襲われてもおかしくないのに、こんな状況でも寝られるなんてある意味すごいと
月冴と炎樹は思う。けれど、幸磨がいることによって彼らは少しだけ普通の男の子になり、
心が安らぐのだ。三人で仲良く川の字で寝ていると、まるで本当の兄弟のようである。
「月冴」
「ん?」
「この件が無事に解決したらさ…」
「?」
「…いや。やっぱ何でもない」
「んだよ。気になるじゃねぇか」
「すまん。聞かなかったことにしてくれ」
炎樹はそういうと布団を頭の上まですっぽり被って寝てしまう。それを見て、月冴は少し
不機嫌になるものの、諦めて掛布団を肩まで掛け直して眠りについたのだった。




