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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
39/59

被害者と加害者




 生徒に緊急避難命令が通達される中、愛美奏は自分の部屋に横になって最後の時を待っていた。

   しかし、進行している彼らは動く障害物達の処理に追われ、彼女のいる寮部屋まで辿り着くには

  時間がまだかかるよう。モーニングスターが発動したはいいものの、愛美奏はその力がどのように

  してこの世界に影響を及ぼしているのかまでは把握していない。それ故に、彼女の中では『最後の

  時は隕石が降ってきて一瞬で終わるものを想像していたが、案外時間が遅いのね』と若干苛立って

  いた。

   

   コンコンッ。

   「…?」

   そんな暇そうな彼女の部屋の扉から音が響いた。自分以外の他の生徒達のほとんどは学校にいる

  はずだが、もしかしたら自分が超能力を使ったことがばれて逮捕しに来た連中かもしれない。

   そう思った愛美奏は、横になっていた身体を起こし、玄関へと向かう。

   ゆっくり音を立てず、ロックを解除して扉を開けてみると…そこには以前ぶつかってしまった

  前髪の長い男子生徒の姿があった。

   「…何か用?」

   あの日以来、彼とは一度も会っていない。廊下ですれ違ったり、食堂でも姿を見かけることは

  なかった。そんな彼がどうして、このタイミングで愛美奏の部屋を訪ねたのか。今の愛美奏には

  さっぱり分からなかったので、直接本人に聞いてみることにした。

   

   「避難命令が出たぞ。…行かないのか?」

   わざわざそれを伝えるために来たのだろうか?もしそれが本当なら親切な人がいるもんだと

  感心するが、それだけが目的ではないと愛美奏は疑いの目で彼を見る。

   「そっちこそ、こんな所で死にたがりと一緒にいていいの?避難が出てるならさっさと他の

  連中と仲良く逃げればいいじゃない!私のことを心配するより、自分の心配しなさいよ!」

   最後の時は自分一人で孤独で死にたい。覚悟を決めた中、突然の訪問客に避難しないのかと

  聞かれれば、決心が乱れてしまう。だから、愛美奏はさっさとこの男を追い出したかったし、

  出来ることなら自分に関わらないでほしかった。そんな想いがあって、途中から苛立ちを彼に

  ぶつけてしまう。そんな彼女に彼はこう言ったのだ。

   「…お前が逃げないなら、俺も逃げない」…と。

   突然彼が変なことを言い出したため、それに愛美奏は唖然としてしまう。

   普通の良識ある人間はこんなこと言わない。どうやら彼はどこかいかれてしまっているよう

  だと愛美奏は思う。

   「お前がここで死ぬと言うなら…俺もお前と一緒に死のう」

   両目が前髪で隠れていることと、そしてさりげなく両手を強く握りしめられていることから、

  愛美奏は彼に恐怖を感じた。

   「ちょっ、ちょっと待てっ!なんで私が一度しか会ってない男と死ななきゃいけないの!?

   おかしいじゃない!私が死ぬなら自分も死ぬってあまりにも矛盾してるわっ!いったい何の

  目的があるのっ!」

   疑いは完全に晴れず。愛美奏は彼を強く問いただそうとする。

   すると彼は「やっぱ、伝えなきゃいけねぇのか……」と小言で呟いた後、愛美奏にこう言っ

  たのだ。

   「俺はお前が壊した時間からやって来た。そして、お前が殺した男でもある」

   「っ!?」

   


    愛美奏が壊した時間。それは彼女が犯した罪であり、一人の人間の存在を消したもの。

    殺したと言われても仕方がない。しかし……。

   「お前が轟鬼俊彦だと?だったら、おかしいだろ。どうして殺されたはずの人間が今私の

   目の前にいる!?死んでも死にきれず化けて出たとでも言いたいのかっ!」

   「いいや」

   「じゃあ、何なんだよっ!いったいお前は何が言いたいんだよっ!こっちは万能が使えなく

  て状況がさっぱり読み込めてないんだから、分かりやすく説明しろっ!」

   もはや、やけくそにものを言う愛美奏。

   以前までは冷静沈着だった彼女も、能力なしではこの有様。だが、彼はそんな愛美奏に怒り

  を覚えるどころか彼女の要望通りに話し始めた。

   

   「轟鬼俊彦は、お前の万能で殺された。時間操作を使って存在そのものを消された…だが

  それは、()()()()()()()だ」

   「はっ?どういうことだ?」

   消した張本人は全く記憶がないので、彼の言うことがすぐ読み込めなかった。

   「轟鬼俊彦は消された後、違う形で生まれた。堀北優作(ほりきたゆうさく)の名で母親

  に育てられ、轟鬼といった闇の一族とは無縁のどこにでもいるただの少年として世を生きてき

  た」

   愛美奏が使用した時間操作は、轟鬼俊彦という男の存在を消した…と、言えるものだった。

   本来の彼は轟鬼家の人間として生誕するはずだったが、愛美奏のせいで別の人間として誕生。

   それにより彼が歩む運命を360度ひっくり返ってしまったというのだ。

   

   「俺の母親は轟鬼家現当主の愛人で、その二人の間に生まれたのが俺だった。妻との間に

  子供が出来なかったこともあって、俺は轟鬼家に引き取られて育てられた。ただ、愛人の子供

  だと言うのは分が悪かったから、表向きは歳の離れた兄弟ってことにされていた。だが、引き

  取った理由はただ子供が出来なかっただけじゃない」

   そう言って堀北は、自身の前髪を上げて隠していた綺麗な目を愛美奏に見せる。

   「この目は相手の心を思いのままに操るだけじゃなく、相手が持つ情報も手に入れる力があ

   る。それを目当てに一族の許可が下りた。それからしばらくして…祖父が亡くなる前、遺言

   でお前の護衛の任務に就き、側で守るよう命じられ、俺はお前の専属護衛になった。これが、

  本来俺が歩むべき未来だった。それを…」

   「私が壊してしまった」

   「そうだ。お前が轟鬼俊彦を殺したことで、堀北優作が誕生した。轟鬼家に引き取られず、

  母親に引き取られて育てられた俺は…能力の暴走を起こして特殊部隊に捕まった。そして、

  裁判で死刑判決が下された直後に、あの男が俺をここへ連れてきた」

   あの男とは…聞かなくても分かっていた。

   でなければ、彼がここまでのことを話せるはずがなかっただろうと。話を聞いているうちに

  あの男の仕業だと勘付いていた。

   「それで私の無様な姿を今まで見てたってわけね」

   「無様かどうかはともかく、監視カメラを通して見てたよ」

   「じゃあ、音楽室でピアノを弾いていたのは?」

   「…母親がピアノを弾けたから、それを弾いただけさ」

   これで繋がった、ということか。

   だが、真実が分かったところですっきりはしない。

   

   「能力があるなら、どうしてあの時、私を殺さなかったの?」

   あの時というのは、教室でぶつかった時のことを差している。だがそれは今ここにいる時だ

  って十分に愛美奏を殺すことはできたはずだ。恨んでいるなら殺せばいい。それが愛美奏の考え

  だった。

   「最初はそのつもりだった。けど…俺が手を下さなくても、勝手に落ち込んで絶望して、最後

  にはこの世界を巻き込んで死のうとしている姿を見ていたら…なんだかばかばかしくなってきて、

  殺す気がいつの間にか失せてた」

   「あっ…そう」

   「それに本来俺はお前の護衛だった。その俺が主であるお前を殺すなんて言語道断だろ?」

   「だからって私が死ぬなら自分も死ぬと言うのは、矛盾してる」

   「お前が撤回すればいいだけだろ」

   「はっ?」

   撤回すればいい?

   「お前が死なないと言えば、俺も死なない。簡単だろ?」

   「いや、もう死ぬ覚悟は出来てたのに、今更やめますとは言えんだろ」

   「じゃあ、仕方ない。一緒に死のう」

   「嫌だ。お前と死にたくない。死ぬなら別の場所で死んでほしい」

   「なら、お前の手で俺を殺してくれ。どうせ、俺は死刑になるから」

   「……いや、いい。死ぬのはしばらく延期だ」

   

   この会話のやりとりで段々死ぬ覚悟が薄れてしまった愛美奏。先程言った『今更やめますと

  は言えん』という言葉を自ら撤回することにした。

   

  

   

   

   

   

   

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