崩壊から救済へ
宮木愛美奏は自身が持つ超能力『万能』を使い、轟鬼俊彦という一人の青年の存在を消した。
ところが実際、彼は堀北優作の名前で生きており、別の未来で能力の暴走を起こした罪で
死刑判決が下されたが、その直後に見知らぬ男が現れて、彼に真実を話した。
『君の名前は、堀北優作。だけど、本当は轟鬼俊彦っていう名前なんだ』
『信じられない気持ちは分かる。だけどこれは事実なんだ』
『怪しいとは思うけど、僕は未来から来た。歩むべき未来から来た正真正銘の正義の味方…
なんてね』
『本来君はお母さんに引き取られず、お父さん…轟鬼家に引き取られるはずだった。しかし、
ある可愛い神様がいたずらをしてしまったせいで、君はお母さんに育てられることになった』
『どうしてそんなことをしたかって?それは……本当に子供っぽい理由さ』
『可愛い神様の機嫌を悪くした罪で君は存在を消された。殺されたって言ってもおかしくは
ない。なんせ一人の人間の未来を変えてしまったんだからね。全く、困った神様だよね』
『神様とどんな関係だったかって?それはね~(以下省略)』
『…そういうわけで、君は彼女の専属の護衛になったわけ。宮木愛美奏は、君が来たことを
快く思っていなかった。自分に都合が悪くなって、怒りに身を任せて能力を使う。それは、
他の超能力や能力を持つ一人の人間としてあってはならないことだ。君も制御できず、暴走を
起こして多くの被害を出したことは絶対に許されない』
『話は長くなったけど、今の彼女には万能が使えない。僕達が管理している学校で大人しく
してるんだけど…どうだい?自分をこんな目に遭わせた憎い神様。今は無能力な憐れな小娘に
復讐する気はないかい?』
堀北は男と一緒に学校へと訪れ、監視カメラを通して愛美奏の学校生活を見ていた。
最初は自分の未来を奪った彼女に殺意を抱いていた堀北だったが、その殺意は徐々に消える。
学校生活に悪戦苦闘とも言える状態と、何とも言えない寂しさに情けなくも負けていたのだ。
男は堀北が愛美奏に復讐は出来ないことを想定し、逆に愛美奏を絶望から救ってくれるとい
う期待からこの学校へと連れてきた。そして、それが現実となり、彼女の死を食い止めたこと
をどこかで喜んでいることだろう。
「死を延期するんなら、今この学校で起きている状況を片付ける必要がある」
「分かってるわ。他人の力って言うのは最早言い訳。全部一人で掃除する」
「待ちなさい」
二人の間に一人の少女の声が届く。
振り返ってみると、そこには人型ロボットに連行されたはずの愛咲実の姿があった。
「私も手伝うわ」
「愛咲実ちゃん。でも、これは私がしたことだから…」
「私は貴女のお姉ちゃんよ。妹がしたことは姉がしたことと同じ。それに…愛美奏ちゃんを
絶望させたのは私のせいでもあるもの。だから、手伝わせてちょうだい」
「…分かったわ」
「でも、愛美奏ちゃんがやったこと、私は罪だと思ってないから。そのつもりで」
愛咲実は堀北にそう宣言する。これには参ったと言う顔をして堀北は「どうぞ。ご自由に」と
返事を返した。
彼らは壊すことをやめず、人を襲い、建物を壊していく。
全てを破壊した後のことは何も考えていない。ただ壊したいと言う欲望だけが今の彼らを支配
している。そんな彼らに立ち向かおうと数人の男子生徒が武器になりそうな学校の備品を手に取
って戦うが、力の差で抵抗しようもすぐに倒される。だが、一人だけ彼らに倒されずに戦い続け
る男がいた。
「てりゃああああ!!!!!!!!!」
その男の名は笑馬慎之介。
彼が生徒の希望で、今現在彼らと戦う最期の戦士となっていた。
「ゔっ……」
だが、敵の数が多く、一人で対処するにはもう限界。しかし、ここで諦めるわけにはいかない
と、笑馬は全身の痛みに耐えて彼らとの戦いを続行する。段々意識が遠退いていくのを感じる中、
彼には心残りがあった。それは、一人の女の子を傷つけてしまったことである。こんなことにな
ると分かっていたら、もう一度と会ってちゃんと謝りたかったと、その悔やみを心の中で呟き、
笑馬慎之介の視界はブラックアウトとなった。動かなくなった笑馬を彼らが止めを刺そうとした
その時…。
「っ!?」
彼らは何かの気配を感じた。
破壊本能しかない彼らの動きがぴたりと揃って止まる。そして、彼らの視線がある二人の娘に
集中された。
「あらあら。随分と派手に暴れたみたいね」
愛咲実は被害状況を見て、愛美奏に向かって呟く。
だが、その直後に彼らは二人に襲いかかるが、愛咲実の右手が彼らの喉元を切り裂いて
一時的に致命傷を負わせる。
「モーニングスターの力と私の気持ちが合せたことによる現象とはいえ、数が多いな」
「どうする?愛美奏ちゃん」
今後の方針を聞きながら、愛咲実は防御と攻撃の二役を掛け持ちする。
だが、これを最後まで続けることはない。なぜなら……。
「数が多くても掃除しなきゃいけないことに変わりはない」
愛美奏はそう言うと、先程愛咲実にもらったサプリメントを口の中へ入れる。
本来なら栄養補助食品として栄養を補助する食品であるが、このサプリメントは使用者の能力
を回復させる効果を持つ。ただし、効果には制限時間がある他、二度使用することは不可能。
それでもこれが愛美奏の力を取り戻せる…いや、万能が使えるかもしれないと期待した最初で
最後の賭けだった。そして…その賭けに彼女は勝った。
これまで無能力者だった少女の身体に不思議な刺激が走る。それはやがて彼女が今まで積み上
げてきた力となり、万能となっていくのを感じた。
ある人物がまだ幼かった彼女にこう言った。
『君は道を間違えれば、悪魔になる』と。
だが、彼女は悪魔になったことで自分が孤独になり、自分の命がいつか遠くない未来で尽きる
ことを知っていた。どんなに最強でも死には絶対に勝てない。幼きながら、彼女は死が刻々と
近づくことを恐れ、楽に死ねないかと考えるようになった。現在も楽観的な部分が残り、意思も
硬いのか緩いのかという中途半端なものだが、それでもやはり死が怖いことに変わりはない。
一度はこの世界で死を迎えようとしていた彼女。
だが、それは一人の青年によって完全に死ぬ気が失せてしまい、前言撤回することになった。
もともと自分が彼を消したことが原因で、自分がそんなことをしなければこんな大事にはなら
なかったはず。だから、彼女は願ったのだ。
『今の私は万能が使える。なら、あの時の時間に…あの日に戻ることだって可能なはず。
だから、あの日から今まで起きた出来事をなかったことにする!』
自分の今あるありったけの力を時間操作に注ぎ込み、愛美奏は万能を通して時間操作を発動。
事の発端となったあの日に戻る。愛美奏にはそのことしか頭になく、あの男に時間操作使用
について問われやしないかという問題については『そんなの後回し』と考えないようにしてい
たのだった。




