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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
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監視者の後悔



  

   昨夜の脱出劇を未遂で防いだ笑馬は、特別任務報酬1,000,000ポイントを当日に受け取っていた。

   そんな大金を一度の任務で手に入れれば、今まで我慢していた欲しい物を買うことも出来ると   

  大喜びするはず。だが、彼は報酬額で喜ぶことはなく、むしろ落ち込んでいた。翌朝彼が教室へ

  足を運ぶと、左下斜めの2番目の席には誰もいない。そこは彼の監視対象である女子生徒の席で、

  いつもならこの時間には学校へ来ているはずだった。笑馬は挨拶回りを終わらせると、廊下に出て

  ポケットから自分の電子生徒手帳を取り出し、特別任務欄を開いた。

   『菊馬愛美奏に関する特別任務』

   既にこの任務は達成され、『済』の判が押されている。この任務を行う前に一通り目を通した

  はずだが、監視対象がいないことが気になり、彼はもう一度読み返しをしていたのだ。だが、何度

  読み返しても、もやもやは解消されることはない。

   「笑馬君、ちょっといいかな」

   「ん?」

   声をかけてきたのは、彼女の右隣の席に座る男子生徒。笑馬は電子生徒手帳を閉じてポケットに

  しまい、「あぁ、いいけど。手短にお願い出来る?」と答える。すると……。

   「今日菊馬さん見てない?食堂で会わなかったんだけど」

   「…」

   隣の席の彼からの質問に笑馬は驚いた。だが、彼女からすれば、彼は友達ではなくただ自分の席

  の隣の人。名前すら覚えてもらえないかわいそうなお隣さんでしかない。けれど、彼からしたら

  そうではない。

   「さぁ。俺も今日は見なかったし、休みなんじゃないか?」

   笑馬は知らないふりをした。だが、このまま会話を終わらせてバイバイするのは寂しいので、

  「けど、なんでそんなこと聞くのさ」と今度は逆に質問してみる。

   さてさてどんな答えが返ってくるかとドキドキして待っている笑馬に彼は……。

  

  「なんでって…友達だからだよ」

  「友達?」

   予想していた回答と違っていて笑馬は内心驚く。

  「未だに名前覚えてもらってない奴が何言ってるんだって思った?」

  「えっ、いや……」

  「いいんだ。俺、そういうの慣れてるから。忘れられるってことに」

   彼は自分の存在を他人から忘れられ、クラスで浮いてしまわないように日々努力している。

   しかし、そんな努力も虚しく、彼女だけでなく他のクラスメイトにすら名前を覚えてもらえ

  ない。だからと言って、努力することをやめてしまえば、自分という存在は他人の記憶から抜け

  落ちて消滅してしまう。

  「でも、菊馬さんは俺のこと()()()()って呼んでくれるから、

  俺のこと全然忘れてない。彼女が友達だと思ってなくても、俺は友達だって思ってるから」

  「…そっか」

  「笑馬君は菊馬さんによく話しかけてるよね?菊馬さんとは…友達?」

  「えっ…」

   友達かと聞かれて笑馬は昨夜のことを思い出す。

   裏切られたというような鋭い目つきに流れる涙。そして…別れる際の後ろ姿を…。

   

  「あっ、ごめん。別に深い意味で聞いたわけじゃないから!」

  「…友達じゃないよ。俺は」

   それは小さくて今にも消えてしまいそうな声。笑馬は下を向いたまま、そう答えた。

 

  

   

   


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