愛咲実の作戦
居残り授業が終われば、あとは夕食を食べて自分の部屋へ戻る。宿題が出てるわけでもなく、
好きなテレビ番組を見るわけでもなく、部屋へ戻ると私はすぐにお風呂へ入る。
さて…あの特別任務を成功させた人物は、いったい何者なんだろうか…。
そして、その人物が引いたと思われるあの曲…全く思い出せない。
どこかで聞いたことがあるはずなのに……なぜ思い出せないんだろう。
「はぁ…」
思い出そうとするほど、自分が情けないと思う。今まで己の力ばかりに頼ってきたばかりに、
記憶力・集中力・分析力も低下。そればかりか、小さな不運が一日に何度か起きるようになる。
あぁ~…やはり血は争えないということかな。
シャワーを浴びながらそう考えて30分後、私は風呂を出て寝間着の体操服に着替えた。
その後は特に何もせず、布団にくるまってだらだらと過ごしていたが、突如眠気が襲ってきて
私は眠りへとついたのだった。
「…みかちゃん、…きて」
「んん…」
誰かが私を呼んでいる?夢か?
「あみかちゃん。あみかちゃん」
「…まだ寝かせて」
「愛美奏ちゃん」
「んん………あさみちゃん?」
夢じゃない。私の目の前には本物の愛咲実ちゃんがいる。
「ごめんなさい。起こしちゃって」
「いや、大丈夫。それよりどうやってここに?」
「説明は後よ。それより準備してちょうだい。ここから脱出しましょう」
「脱出?本気で?」
「当たり前でしょ。こんなところに愛美奏ちゃんを閉じ込めておけませんわ」
「愛咲実ちゃん。でも、私は罪を犯して…」
「いいからさっさと支度なさい!」
「…はい」
今の私には愛咲実を説得するどころか力でも勝てないので、ここは彼女に従うことにした。
とは言っても、体操着を制服に着替えるだけだったので、5分もかかることはなかった。
「さぁ、行きましょう。時間がないわ」
愛咲実ちゃんは私の手を掴むと、扉を開けて外へ出た。監視カメラに映っているはずだから、
人型ロボット達が私達を捕まえに来るだろうと思っていたが、寮を出ても彼らは現れない。
不気味だと思いつつも、私達は中庭へとやって来た。
「さぁ、愛美奏ちゃん。この中へ入って」
彼女が指差したのは、大人一人くぐれるほどの大きな穴。どうやらこれが脱出口らしい。
不安がありつつも、私は四つん這いになってその穴の中へと入り、愛咲実ちゃんも私の後に
続いた。
「どこまで続いてるんだ、この穴…」
低い姿勢で進むこと10分。長く暗い道にやっと光が見えてきた。
どこへ出るのか分からないが、これで四つん這いから解放されると気持ちを急いで出口へ向か
うと………。
「おかえりなさい」
「…笑馬!?」
「助けが来たみたいだけど、残念だったね」
「どっ、どうしてそれを…」
私が驚いていると、笑馬は黙って自分の電子生徒手帳を見せた。そこには私に関する特別任務
の詳細が書かれていて、最新任務には『菊馬愛美奏の脱出を阻止し、協力する者の身柄を拘束せ
よ」と、彼に任務が与えられていた。
「お前……」
特別任務のためにしていたことだと思うと、私の中の怒りがどんどん溢れてくる。
「私を助けたことも……してきたことも、全部自分のためだった。そうなんでしょ?」
「…ごめん」
笑馬は目を合わさず、小さな声で私に謝る。
けど、私の目からは涙が止まらなかった。
怒りと同時に涙が出て、謝罪の言葉を聞いても私の心は痛いまま。
こんなこと…いつ振りだろう。もう何年も味わっていない痛みだ。
一度壊れて考えることをやめて、孤独になって帰って来た私に夢も希望もなく、ただ弟と
最後の時まで一緒に暮らせればそれでいいと思っていたのに。万能を失ってこんな展開になると
は……予知もあてにはならない。
「脱出の邪魔をするだけでなく、愛美奏ちゃんを泣かせるなんて……生かしてはおけないわね」
そう口にすると、愛咲実は右手の爪を鋭く急速に伸ばし、笑馬に襲いかかる。
「愚かな人間よ、死んで罪を償いなさいっ!」
「っ!?やめろっ。俺は戦う気はないんだっ」
愛咲実ちゃんの攻撃を避けながら、笑馬は自分に戦う意思はないと言う。
だがそんなこと愛咲実ちゃんの耳には届かない。
「あらっ、女だから本気で戦えないとでも言いたいのかしら?」
「違うっ!俺はお前達のためを思って…」
「私達のためっ!?それならなぜ私達の邪魔をするっ!脱出を阻止しろと命じられたからじゃ
ないのですかっ!誰に指図されてるかも分からないあの機械に!結局は自分の身の安全が最優先
じゃない!どういうやり取りをしてたか知らないけど、愛美奏ちゃんを傷つける者を私達家族は
絶対に許しませんっ!」
「家族…家族だったら……っ!?」
笑馬は何を思ったのか、愛咲実の右手を強く掴み、そのまま地面へと押さえつける。
「いったいっ!やめてっ!」
愛咲実ちゃんは掴まれている手から逃れようとするが、力が強すぎて歯が立たない。
そのため、声を上げて必死に訴える。それが見ていられなくて、私は笑馬に声を掛ける。
「笑馬、愛咲実ちゃんを離して」
「菊馬さん…」
「私は犯した罪を反省するためにここへ来た。だから…学校へ戻ります」
「愛美奏ちゃん、何を言ってるの!」
「愛咲実ちゃん。せっかく助けに来てくれたのに…ごめんなさい」
「…」
こうして、愛咲実ちゃんが計画した作戦は失敗に終わったのだった。




