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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
32/59

感情と能力=暴走



   翌朝、6月23日(仮)。昨日のドッジボール騒動のこともあり、ますます学校へ行く気がなく

  なっていた。それは私だけじゃなく、他の女子達もそう考えているはず。だが、そんな理由で授業

  を欠席すれば、ポイントの罰金と反省文、もしくは数週間の停学処分になってしまう。クラスの皆

  もこれ以上ポイントを減らしたくないはずだから、ちゃんとした理由がない限りはきちんと学校へ

  来るはず。

   寮の部屋を出てまず最初に向かうのは、自分の教室ではなく食堂。教師といった大人がいない

  この学校での食堂には専門の料理人ロボットが生徒に食事を提供していて、支払いはもちろん

  ポイントで行っている。いくら大食漢でも、所持ポイントが少なければ質素な物を選ぶしかない。

  監視カメラと人型ロボットの目がある状況で、食事の時間と寮部屋で過ごす時間が一時的ではある

  ものの、彼らの存在を忘れることが出来る貴重な時間なのだ。

  「いただきます」

   私の朝食は100ポイントのトーストセットと決まっている。ちなみに水はおかわりしても無料。

  自動販売機での飲み物の持ち込みも可である。他の生徒は最低でも200~300ポイントのもの

  を選ぶが、私はそんなこと気にしない。ポイントの節約と思えば、視線も無視出来る。

  「おはよう、菊馬さん」

  「…おはよう」

   食事中に挨拶してきたのは、同じクラスの男子生徒。だが、笑馬じゃなかった。

  「隣座っていい?」

  「どうぞ」

   トーストセットを頼んでいたせいか、他の生徒は私の隣へ座ろうとしない。友人と思われたく

  ない、隣にいるのが恥ずかしいという気持ちからだろうが、この男子は勇気がある……が。

  「あなた、誰だっけ?」

  「えっ?覚えてないの?」

   隣に座ってすぐに誰?と聞かれて、彼は驚いていた。同じクラスの生徒ということだけは覚え

  ている。けど、名前が思い出せない。

  「俺、菊馬さんの隣の席なんだけど…」

  「名前が思い出せない」

  「うわぁ~マジかぁ~………俺、ショックだわぁ~」

   そんなの知るか。

  「っていうか、トーストセットで腹持つの?もしかして、ダイエット?」

  「節約です」

   短く答えてすぐにトーストをかじる。

  「あぁ~昨日のドッジの件か。それでトーストセットしか頼めないんだ」

   今思い出したかのように、大きな声でさり気なく言わないでほしい。他の生徒の迷惑になる

  ことも考えてもらいたいものだ。そう思いながら一枚のトーストを食べ終えて、二枚目のトースト

  に手を伸ばす。

  「菊馬さん、いつも一人だけど仲良い友達とかいる?」

  「…いたらどうだっていうの?」

  「友達いないって寂しいじゃん。作んないのかなぁ~ってさ」

  「…」

   私は二枚目のトーストを食べ終え、半分残っていた水をごくごくと飲み干すと…。

  「お隣さん。私のことより自分のことを心配したら?」

   私はそう言って席を立ち、食器を返却して自分の教室へ向かう。だが、彼も私と同じクラスなの

  で、自分が使った食器を返却して早足で私の後を追ってきた。行き先は同じだからと言う理由を

  付けられてはどうしようもないかと、私は彼と教室へ向かうのだが…。

  「あんた達のせいだっ!!」

   自分達の教室へ近づいた頃、女子の怒鳴り声が廊下側にいる私達の耳に届く。その声を聞いて

  私と彼は急いで教室へと入ると、クラスの女子達が昨日のドッジボールのように別れて睨み合っ

  ている姿。

  「昨日はあんた達のせいでペナルティー食らったんだ」

  「はぁ?ちげぇだろ?あんたらがあたしらに協力しないから」

  「違うわ。あんた達がちゃんと私達にも相談してくれてたらあんなことには」

  「んなこと言い訳じゃん。あたしらはドッジを楽しもうとしてたんじゃん」

  「自分達が有利になって楽しんでただけじゃないの!」

  「たまたまチームが体育会系と文系に分かれただけじゃんか。お互いペナルティー食らってんだ

  からそれで良しにしようよ」

  「だから、私達が言ってることはそうじゃない。ちゃんと謝ってよ!」

  「あぁ~もううっさい!!!!!!!!」

   敵チームのリーダーだった女子が、謝罪を求めて詰め寄った女子を右手で平手打ち。

   力が強かったのかバァン!と大きな音で、女子は床へと倒れたまま動かなくなってしまう。

   私はすぐに彼女の元へと駆け寄り、「大丈夫!?しっかりして」と身体をゆっくり起こして

  呼びかけるが…応答はなかった。

  「あっ、あたし………」

  「いくら頭にきたからってやりすぎだよ」

  「えっ…?」

  「あっ、あたしは知らない!何もしてないもん」

  「えっ、ちょっと…」

   さっきまで自分の後ろで文句を言っていた仲間の女子達は、彼女から目を逸らす。他の生徒達

  も同じように目を逸らしたため、彼女は……。

  「ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー

  !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

   独りぼっちになってしまった悲しみから、廊下まで響く奇声を上げた。その直後、監視カメラの

  映像から人型ロボットが十台ほど教室に参上し、彼女を取り押さえようとするが…。

  「邪魔するなぁーーーーー!!!!!!!!!」

   人型ロボットは彼女の強い力で次々と倒される。これを見てクラスメイト達は慌てて教室の外へ

  と出て行くが、私は平手打ちされた彼女を放ってはおけず、まだ避難できずにいた。

  「くそぉ…重たい…」

   こんな時、瞬間移動があれば楽なのに…と呑気なことを思っていた時。

  「あたしは悪くない。悪いのはあんた達の方だっ!!!!あたしは…あたしは悪くないっ!」

   人型ロボットを全部倒し終えた彼女がその場にあった机を軽々持ち上げ、私達を襲う。

   咄嗟の判断で私は運んでいた彼女を庇って、攻撃を素手で受け止める。

  「ゔあっ!!!」

   さすがに無能力じゃ相手の能力には敵わないか…。

   彼女のあの力は普通じゃない。強化系能力『怪力』が彼女の感情に融合して、暴走を起こして

  いる。

  「あたしは悪くない…あたしは……あたしはぁ…!!!!」

   平手打ちした右手をじっと見つめて、左手で頭を抱えて苦しそうにしている彼女。

   自分の手で人を傷つけたことによる罪悪感と自分は悪い事はしていないんだという正義感が

  せめぎ合っているらしい。いづれは正気に戻るだろうけど、このままじゃ……。


  「うひゃぁ~なんだこりゃあ。すげぇことになってる」

   聞き覚えのある声が耳に届く。気のせいかと思ったが、ゆっくりと目をやると…いつも遅刻

  ギリギリセーフでおなじみの彼が、荒れた教室へと足を踏み入れているではないか。

  「えっ、笑馬……」

   こんな状況で教室に入ってくる奴があるかよ。バカじゃないのか?

  「あ~あ。教室こんなにしちゃって、どうすんのよ」

  「黙れっ!お前もどうせあいつらの味方だろう!あたしは…あたしは悪くない!!!!!!!」

   笑馬に向かって彼女が両手に軽々と持ち上げた机と椅子を乱暴に投げる。

   これを見て私は身体に走る痛みに涙を流しながらも…。

  「逃げろ、笑馬ぁあああああーーーーーー!!!!」

   と、気づいたら彼に向かってそう叫んでいた。

   逃げて…逃げてくれ。頼むから……。

   もう、誰かが傷つくのは……死ぬのは………………。

   死ぬなんて、嫌だ。私………まだ死にたくない。死にたくないよぉ……。

   

   「この程度で俺がくたばると思ったか」

   「っ!?」

   先程投げられた机と椅子が彼の左右に倒れているが、彼は無傷だった。いったいどうなってる

  んだと頭で考えている間に、「今度はこっちの番だな」と言って彼女に近づいていく。

   「くっ、来るなぁっ!!!」

   机と椅子を投げるが、笑馬には当たらない。やがて体力の限界がきたのか、机を持ち上げるこ

  とが出来なくなり座り込んでしまう。笑馬は彼女と少し距離を置くと同じ目線になるように座り

  込むと彼女の頬に思いきり平手打ちをする。

   バァン!!!という音が教室内に響くと、彼女は力尽きて床へと倒れ、そのまま動かなくなった。

   笑馬がしたことは、先程暴走する前の彼女がしたことと同じ。あの時、彼は教室にいなかったが

  …なぜ?そう思っていると、笑馬が私に気づいてこちらへと近づく。

   「おはよう。菊馬さん」

   「おっ、おはよ……」

   こんな時に呑気に挨拶だなんて、どうかしてるよ。でも、こいつがこなきゃ今頃は……。

   正義のヒーローの登場でほっとしたのか、そこで私の意識はぷつんと切れた。

   そして、再び気づいた時は、保健室のベッドの上。横には笑馬がパイプ椅子に座ったまま眠っ

  ていた。

   「あれは…夢だったのかな?」

   「夢じゃないよ」

   「っ!?…なんだ、起きてたのか」

   眠っているのかと思いきや、どうやら起きていたらしい。笑馬の目はばっちり開いていた。

   「身体の方はどう?まだ痛い?」

   「…まぁ」

   身体の何か所か包帯や絆創膏が貼られている。まだ頭痛がするものの、死ななかったのが奇跡

  だろう。万能があれば、この怪我もすぐに治るんだが……今はそれが使えない。

   「一か月ぐらいしたら治るってさ。傷も残らずに済むって」

   「そう」

   女の子だから気を遣ったのだろうか?でも、傷が残る残らないよりも、私には気になることが

  あった。

   「あの二人はどうなった?平手打ちされた子と…「大丈夫。意識は戻ったよ」

   そう言いかけた時、笑馬がすぐに答える。だが、その後の言葉は…。

   「教室を荒らした彼女は、全ポイント没収されて退学処分になったよ。他に騒いでた女子達も 

  全ポイント没収で停学処分だったけど、責任は自分達にもあるからって彼女達も退学に…」

   「退学…になったら、どうなるの?」

   一般の学校でいう退学なら学校の生徒じゃなくなるだけだが、この学校でいう退学は何を表す

  のか…私は笑馬の口から答えが来るのを待っていると…。

   「それは言えない」

   返ってきた言葉に、聞くんじゃなかったと後悔した。そもそも笑馬が知るはずもないかと思う

  と、なんだか急に恥ずかしくなる。

   「菊馬さんがこの学校を無事に卒業出来たら教えるよ」

   「…はぁ?」

   

   前言撤回。

   こいつ…やっぱり怪しい。

   

   

  

   

  

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