外部からの電話
6月24日(仮)。本来ならこの日は日曜日で一般の学校ならほとんどがお休み。しかし、
この学校は土曜日も日曜日も登校し、通常授業を受けている。だが、休みがない代わりとして、
通常任務の他に土日祝日限定で特別任務がランダムで生徒に与えられ、達成すれば高額報酬が
貰えることになっている。ただし、高額報酬ということもあり、達成率はかなり低いという。
ちなみに私に今日届いた特別任務の場合、内容は…………『仲の良い友達を作ること』である。
「絶対無理」
この特別任務が届いたのを見て、私は即決で無理と判断した。簡単そうだと思うが、私に
とってこの任務は難題。例え高額報酬を手に入れるためでも、無理なものは無理なのだ。
それにしても、この特別任務を送りつけた奴は頭が良いらしい。私という人間をよく知って
いる。ここから出られたら、ぜひともお目にかかりたいわね~。
「おはよう」
「…おはよう」
心に隠している闇が出た所で、お隣さんが私に声を掛ける。今日は食堂で顔を合わさなかった
が、もしかしたらあの日が偶然だったのかもしれない。そもそも食堂で挨拶するよりは教室でし
た方が同じクラスで顔と名前も覚えてもらえるだろう。だが、それでもまだ私は彼の名前を思い
出せずにいる。
「あっ、えっと……その、怪我…」
彼は私の身体に巻かれている包帯を見て、しどろもどろに尋ねる。
「治るのにまだ時間がかかる。死んでなかったのが奇跡だったわ」
と、わざと大げさに言ってみる私。だが、嘘はついていない。あの時は本当にどうなるか
分からなかったのだから。笑馬がいなければ、もしかしたら…私は死んでいたのかもしれない。
昨日のことを自分なりにそう振り返っていると、突然彼が「ごめん」と私に頭を下げて謝罪する。
私は何で彼が謝っているのか全く分からなかったので…。
「なんでお隣さんが謝るの?」
直接本人に聞いてみた。
「俺、菊馬さんの近くにいたのに、何もせずに一人で逃げちゃったから…」
あぁ~……そういうことか。
「普通でしょ。あんなの見たら誰だって逃げるでしょ。逃げる選択は自分の身を守るため。
必ずしも逃げることが間違っていることじゃないんだから、お隣さんが私に謝る必要なんてない
のよ」
それに残っていたところで、足手まといだったかもしれないしね。
私はその言葉を口に出さず、彼に『謝ることはない』と告げて話を強制的に終わらせたのだった。
午前の授業が終了すると、生徒達は教室を出てすぐさま食堂へと向かう。私は空っぽになった
教室を少しだけ独占した気分に浸ってから、食堂へと足を運ぶ。だが、教室を出てすぐのこと。
制服のポケットに入っていた電子生徒手帳が振動した。すぐに取り出して確認すると、画面に
非通知と表示されており、外部からの着信が入っていた。私は迷ったものの、気になったため、
非通知着信に出た。
「もしもし?」
「ザァーーーーー…………」
返ってきたのは雑音で、他は何も聞こえない。通信障害か?
「もしもし?もしもし?」
切る前にもう一度声を掛ける。すると…。
「あみザザザッ…ちゃん…ザザザザザッ…きこ…ザザザザザザザッ」
「もしもし。申し訳ないのですが、雑音で全然何言ってるか分からないのですが」
どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえるが、雑音が邪魔をして聞き取れない。
「ザザザザッ…ま…ザザザザッ…てて…ザザザッ…すぐ助けに…ザザザッ…待って…ザザッ…
愛美奏ちゃんっ!ザザザァーーーーーーーーーーー!……プチッ」
最後の部分ははっきりと聞き取れたものの、その後は雑音が大きくなり通話は切れる。
いたずら電話かとも思っていたが、最後私の名前が出たことで通話の相手が分かった。
「無茶したわねぇ…愛咲実ちゃん」
私が頼んだわけじゃないから、いいんだけど…助けに来るってどうやってここまで来る
つもりなのかしら?それになんで電子生徒手帳の通話機能に?
「…謎だ」
助けに来るとは言っても、愛咲実ちゃんがここまで辿りつける保証はないし、彼女に助けら
れる理由もない。いくら母の姉の子で、私のお姉ちゃんでも…やっていいことと悪いことがある。
全く、うちの家は過保護の血が濃いな。
私はそう考えながらポケットに電子生徒手帳を入れると、食堂へ向かって再び歩き出した。
午後の授業が終わり、今の教室に生徒は私一人だけが残っている。少しの間だけだが、私は
この時間が一番好きだ。静かで他の人間がいない広い空間を独り占めできるのだから。
「さてと…帰るか」
満足したところで教室を出ようとした時、左側から歩いて来た男子生徒にぶつかってしまう。
ぶつかる直前、その生徒と目が合った。一瞬時間が止まったかのように思えた。自分の力が
戻ったのかと…。しかし、それは錯覚だった。ぶつかってお互い後ろへよろめいたのだから。
「ごめんなさい」
「いや…こっちこそ。よそ見をしていた。すまない」
ぶつかった男子生徒は長い前髪で両目を隠すと、私に謝罪の言葉を述べた。
大きくて吸い込まれそうな綺麗な目をしていたのに、なぜ隠すのだろうか?
私は疑問に思ったが、初対面の人間にそんなことは言えなかった。
「あっ、生徒手帳…」
廊下側に彼のものと思われる電子生徒手帳が落ちていた。彼は私に指摘されて、すぐに拾う。
「…じゃあ、俺はこれで」
男子生徒は私に軽く頭を下げると、廊下を歩いて行った。
私は彼の後ろ姿をしばらく見つめた後、寮部屋へ戻ったのだった。




