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危機回避・未来  作者: 中野翔
私に危機回避能力は必要ない→私の万能は使えなきゃあてにならない
30/59

地獄と言う名の学校へようこそ



   正確な日付は分からないが、たぶん6月22日。天気は不明、気温も不明。

   私の名前は宮木愛美奏、今年16歳。特殊危険超能力者『万能』を持って生きる者…だが、現在

  は超能力使用不能の無能力者。先日、とある専属護衛の男を超能力『時間操作』を使って彼の存在

  を消してしまい、証拠隠滅として記憶を書き換えた罪により、私は弟達と離れて暮らすことになった。

   本来なら無期懲役で実刑判決を下されてもおかしくないが、あの男の計らいによりこの地獄の生活

  で反省するようにと言われて今私はここにいる。でも、今思えば、刑務所の方がマシだったかと感じ

  ることがある。もちろん、自分がしたことは重く受け止めているが、超能力が使えない今の私にとっ

  て…ここの生活は少し苦痛に感じてしまう。それはなぜかと言うと……。


   「おはよう」

   「…おはよう」

   突然の挨拶。私は少し遅れて相手に挨拶を返した。

   今私がいる場所は学校で1年生の教室。先程挨拶したのは、同じ教室で勉強するクラスメイト。

   けど、友達じゃない。挨拶されるだけで用がなければ全然喋らない相手だ。最初に自分の教室へ

  入って来たらまず挨拶する。挨拶したらその分ポイントがつくのだ。

   「おはよう」

   「おはよう」

   だから、友達じゃなくても挨拶して、その分のポイントを貰ったら朝の挨拶任務は完了する。

   そしてその任務で貰えるポイントは、学校内の飲食や生活用品などを購入出来るお金となり、

  朝の挨拶任務を達成すれば100ポイント貰えることになっている。任務はこの学校の生徒なら

  全員持っている学生電子手帳から出され、ポイント獲得・物品の交換だけでなく、通信機能も備

  えており、電話やチャットも可能とする。ただし、外部との連絡は禁止されているため、校内の

  生徒しか使えない便利なようで不便な電子機器だ。

   「…あと、一人」

   そろそろ朝最初のチャイムが鳴るギリギリのところで、毎回クラスの注目を集める男がいる。

  遅刻ギリギリセーフ!と言って、皆をある意味ドキドキさせて面白おかしく騒がせようとする

  イカれた男がこのクラスにいるのだ。その男の名は……。

   「笑馬えま慎之介しんのすけ、只今参上いたしました!」

   「…」

   そう、笑馬慎之介。この男は毎朝毎回わざと私の席まで来ては、変顔と敬礼で笑わせようとし

  ているのだ。もちろん私の顔はにこっともしない。

   「あぁ…えっと……菊馬さん、おはよう」

   「おはようございます。笑馬君」

   気まずくなったのか普通に挨拶。それに私もすぐ答えて正面を向き直した。

   まただめだったなと男子の数名が彼をからかう声が聞こえたが、聞こえないふりをして平然を

  装う。だが、これはまだ序の口なのだ。

   

   この学校に教師は存在しない。監視カメラと人型ロボットが生徒を24時間体制で監視。いじめ

  や無許可での脱走防止などに務めている。もし、これらの行為を行った場合、対象者に10,000

  ポイントの罰金、もしくは数週間停学と寮部屋での謹慎処分を受けることになる。

   「今日は体育でドッジボールか。嫌だな」

   体育の際は外に出るため、生徒には外出許可が下りる。だが、体育の授業へ行くふりをして校外

  へ出ようと考えていても、校門には人型ロボットが待ち構えているので脱出は不可能。

   「さぼりたい」

   この世界は学校の外へ出ることを許さない。食料と生活用品は任務達成のポイントから支払われ、

  毎日毎日それを嫌でもしなければならない。何で友達でも何でもない人間にどうして挨拶しなきゃ

  いけないんだ!したいやつだけやればいいだけだろっ!ここは私にとって地獄だ!まだ刑務所での

  生活の方がマシに感じてしまう。ただでさえ万能が使えないのに、何考えてるか分からない奴等と

  挨拶して一緒に生活するなんて気分がもやもやする!イライラする!

   「絶望だ…マジで絶望だ」 

   ここは私にとって地獄だ。

   「何が絶望なの?」

   「…っ!?」

   恐る恐る振り返って見ると、体操着に着替えた笑馬が私を真っ直ぐに見ていた。男子は授業が

  終わってすぐに男子更衣室へ向かったはず。それなのになぜここにいるのか、私は理解出来なか

  ったが…。

   「いっ、いつからいたの?」

   問題はそこだ。教室へ戻って来た理由よりも、私の独り言をどこまで聞いていたのかが気にな

  って仕方がなかった。

   「う~ん~…さぼりたいの辺りから」

   「…そっ」

   万能があれば、すぐに察知出来たのに。あぁ~~~~恥ずかしい。出来ることなら教室の床に

  穴を掘って埋まりたい気分だ。

   「分かるよ、その気持ち。俺もさぼりたいけど、監視カメラと警備員ロボいるんじゃさぼれるに

  さぼれないよねぇ~。見つかったらポイント取られるしさ」

   誰もあんたに同意を求めてないんですけど?

   「っていうか、菊馬さんもそういうこと考えるんだね。俺びっくりしちゃったわ」

   私もあんたが戻ってきたことにびっくりしちゃったよ。それに今更だけど、私の本名は菊馬じゃ

  なくて宮木なんだけど、なぜか生徒手帳には『菊馬愛美奏』にされてるから訂正したくても出来な

  いのよね。まぁ、菊馬の姓で名乗っても問題はないけどね。

   『菊馬』は母方の苗字で、『宮木』は父方の苗字。昔は婚姻届の際に指名した姓しか名乗れなか

  ったのが、現在では母方・父方の姓どちらでも名乗れるようになっている。幸磨が学校で菊馬と

  名乗っているのは、本人の希望で本名は宮木幸磨。父方の姓で学校へ通うのは、本人にとっては気

  に食わなかったため、学校側に許可を得て彼は母親の姓である菊馬を名乗っている。私は菊馬でも

  宮木でもどちらも変わらないと思っているけど、本人がそれで満足しているならそれでいいと思っ

  ている。

   「当たり前じゃない。私だって人間として生まれたんだから、それぐらいの感情は持ってるわ。

  変なこと言わないでちょうだい」

   私は笑馬の言葉にムッとして、少しだけ文句を言った後、教室を出た。

   笑馬は私の後を追ってこなかったが、気にせず早足でそのまま体育の授業へ向かったのだった。

   

  

  

   

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