反省と絶望
時間操作を長時間使用したことは覚えているけど、その後のことは全く記憶にない。
気がついた時には買い物袋を持って家の玄関で一人ぼーっと立っていた。子機と十六夜が心配し
て声をかけてくれなかったら、あのまま銅像のように立ったままだったかもしれない。普段は数分
数時間前の時間を戻したり早めたりすることがあっても、今回のように長時間時間を巻き戻すこと
は初めての経験だった。でも、なぜそうする必要があったのか全く思い出せない。これは時間操作
の代償だろうか?それとも…。
そう考えていた時、私の視界が急にホワイトアウトした。自分以外は誰もいない真っ白な世界に
ただ茫然とする。
「これは…もしかして、私が時間操作を使ったから?」
だからこんな予知外のことが起こっているの?
「その通りだよ」
「っ!?」
誰もいないはずの世界に自分以外の声。それに驚き、すぐさま後ろを振り向くと、神社で見る
白衣を着た男性が立っていて、「やぁ」と声をかける。
「久し振りだね、愛美奏ちゃん」
「…」
情報を読み取ろうとするが、全く出てこない。それどころか、テレパシーも予知も…。
それにさっきこの男がいることに気付きもしなかった。何かがおかしい。その何かは分からない
けど、やっぱり何かがおかしい。
「残念だけど、今の君じゃおじさんの情報は読み取れないよ。もちろん心もね」
「…どういうこと?」
「君も気づいているはずだ。自分の能力が使えなくなっていることに」
図星だった。男は話を続ける。
「長時間の時間操作で君がいったい何をしたのか、覚えているかい?愛美奏ちゃん、君は一人
の青年の人生を時間操作を使ってなかったことにしちゃったんだ。そして、記憶も全て書き換えて
元の時間へ戻って来た。証拠隠滅のつもりで記憶を書き換えたんだと思うけど、おじさん達には
通用しない。愛美奏ちゃん、君がやったことは犯罪だ。幸磨君の時とは違う、超能力で起こした
立派な殺人事件だよ」
「…」
何も言葉が出なかった。何を言われているのかは分かっているけど、言葉が出ない。
言い返せないのは…私がそれを実行した…から?
「でも、幸いなことに本来の時間を戻すことは難しくない。愛美奏ちゃんが消す前に彼を助け
れば良い話なんだから」
「私にもう一度時間操作を使って元に戻せと?」
「いいや。今の君には時間操作を使わせられない。無理に使えば二度と元の時間には戻れなく
なる。だから、君には反省してもらうためにしばらくの間、別の場所で生活してもらうよ。それ
とも…犯罪者として超能力者専門の刑務所の方がいいかな?」
「…いや。刑務所じゃない方に…してください」
説明不十分だが、刑務所暮らしよりはそっちの方がまだマシだ。
「今回はそれで許されるけど、次はないからね。しっかり反省するんだよ」
「…」
大人に怒られた。
力があれば、こんな大人すぐ潰せるのに…何もできないなんて……。
無力な自分が憐れだ。
「絶望だわ」
「そう。今から愛美奏ちゃんには絶望を味わってもらうから、覚悟しといてね」
「…悪魔め」
「ひどいな。それを言うなら愛美奏ちゃんの方が立派な悪魔だよ。なんせ一人の人間の存在を
消して、記憶まで書き換えちゃうんだからね。よほど頭にきてたとは思うけど、普通はそこまで
しないよね?」
「…」
私は黙った。無能力な自分にはこれぐらいしか抵抗する手段がなかったのだ。文句を言えば、
刑務所行きになるかもしれない。そう思うと余計なことをせずにただ大人しくしておこう。それ
が今私が出来る唯一のことだ。




