専属護衛
宮木愛美奏がこの世に誕生してから16年を迎えた。
だが、自分が16歳になったという実感が今でも湧かない。
それもそうだ。ここ最近まで、私は長い眠りについていたのだから…。
「ずっと、あのまま…目が覚めなければ良かったのに…」
私は朝目が覚めると、いつも最初にその言葉を口にする。
今更後悔しても仕方がない。寝ても覚めても変わらない運命を理解していながらも……。
「はぁ……さてと」
その言葉を合図に、私は瞬間移動を使って家の外に出た。
時刻は夜中の3時。外は真っ暗闇に包まれていて、早起きの散歩にはまだ早すぎる時間帯。
私がこんな時間帯に外へ散歩に出かけるような趣味はない。外に出た理由は、これから家に
やってくる客人を迎えるためにしたことだ。
「ごきげんよう。まだ太陽は昇っておりませんわよ?」
お嬢様風に客人にご挨拶すると、暗闇から長身の男性が私の前に姿を見せた。
そこから彼の素性を自動的に読み込む。
客人が来ることを知っていても、相手の情報まで詳しいことは当日にならないと分からないこと
もあるからだ。いらない分析能力かもしれないが、相手がなんらかの嘘をついた際にはとても役に
立つ能力だ。
「このような形で非礼なるご訪問、どうかお許しください。愛美奏様」
初対面の男性に下の名前を呼ばれて、全身鳥肌が立った。
ご丁寧な謝罪の言葉に綺麗に頭を深々と下げてはいるが、とても許せる気にはなれない。
それは夜中の突然訪問だからじゃない。今目の前にいる彼自身だ。
「本日より愛美奏様の専属護衛として参上いたしました。轟鬼俊彦と
申します。以後お見知りおきください」
「…専属奴隷?」
「いえ、奴隷ではなく、護衛です」
そんなことは知っている。わざと間違えただけだ。
『ごえい』と『どれい』を聞き間違えるわけないだろうに。
「そう。でも、私に護衛は不要よ。貴方より私の能力の方がずっと上ですもの」
「存じております」
「なら、さっさとご自分の巣へお帰りなさい。私に護衛はいらないから」
わざわざこんな場所まで足を運んできた轟鬼には悪いけど、私にそんなのはいらない。自分の身
は自分で守る。他の人間に守られてばかりじゃ…。
「承知いたしました。では、この私を愛美奏様の手でご処分なさってください」
「はっ?」
処分、だと?なんだかどこかで聞いたような話だが…まぁ、気のせいということにしておこう。
「私は愛美奏様の護衛付きとしてここまで生きてこられました。しかし、愛美奏様が不要と
仰るのなら…私は生きている価値はありません。ですが、せめて死ぬなら最後。貴女様の手で
私を殺してください」
「…」
おいおい、夜中訪ねてきて護衛だのなんだの言っておきながら、断ったら生きてる価値が
ないから私を殺してくださいだと?やけに展開が早いじゃないか…。
轟鬼はまだ地面に頭をつけたまま、動こうとはしない。
処分待ちか?だとしても、本当に処分したら後始末が大変だし、いろいろと面倒だな。
能力で何でも解決出来る愛美奏様じゃないんですよーだ。
「分かりました。そこまで言うならどうぞ勝手にしてください」
「ありがとうございます」
「ただし、家の中には絶対に入らないで」
「幸磨様がいるからですね」
「…そうよ。あの子は貴方達の存在を知らないの」
「しかし、いづれは幸磨様にも全てお話しする時が来ます。それは、愛美奏様が一番よくご存じ
なのではありませんか?」
「そこまで分かっていて言わせる気?」
轟鬼が言ったことは間違いじゃない。それは分かってる。
でも、やっぱり腑に落ちないな。どうしてこんなのと…。
「今はまだ何も知らずに今を生きてほしいの。せめてあの子だけでもね」
「愛美奏様はお優しいですね」
「大事な弟ですもの。これぐらいは姉として当然でしょ?」
自分で言うのも何だけど、これってやっぱり世間で言うブラコンになっちゃうよね。
でも、幸磨は生まれた時から危なっかしいから、心配になるのも無理もないわよね?
それとも、私達が過保護すぎるせいかしら?まぁ…世の中そういう家族探せばいくらでもいる
わよね~。




